「付帯状況のwith」の教えづらさ(教師側)と理解しづらさ(生徒側)
英語を教えていて、ごく当然のように文中に現れる付帯状況のwith。
これは実はすごく教えづらくて、生徒にとっても理解しづらい文法項目だと思います。
仮定法、関係代名詞/関係副詞の相違、複合関係詞、分詞構文など、乗り越える壁はたくさんあるのですが、それとは別次元にある気がしています。
たまたま定期考査の範囲だったこともあり、すこし整理しておきたくて記事にしておきます。
1.何が教えづらいのか
まず、この構文が、「節」ではなく「句」構造をもっているのにも拘らず、withに後続する名詞とその直後の補語(分詞などが代表例)が、能動・受動の関係にあることが難しいと感じます。
統語論(生成文法;極小主義理論)では、おそらく否定形CP(Complementizer Phrase)になる気がするのですが、学校文法では生成文法のような柔軟な考え方は教えないので、厳格な句と節という枠組みで教える必要があります。
基本形
① with + 名詞 + 現在分詞 「名詞がVしている状態で」「名詞がVしているまま」(名詞と分詞は能動関係;つまり名詞が分詞の主語のはたらき)
ex. I left the car with the engine running. (エンジンが走っている=かかっている)
② with + 名詞 + 過去分詞 「名詞がVされた状態で」「名詞がVされて」(名詞と分詞は受動関係;つまり名詞が分詞の目的語のはたらき)
ex. He was standing with his arms folded.(腕が組まれている)
注「腕が(他の何かを)組んでいる」というのは非文であると思われる。解釈が成り立たない。
教えづらいのは、この能動、受動の関係がわかれば、学習者視点で言えば、すんなりと理解が進むのだが、大きな壁として、「そもそも能動と受動ってなに?」「え?目的語ってなに?」という、日本語には助詞があるために存在しないが、英語には存在する概念である「自動詞」と「他動詞」というものを理解することから逃れられない点にあると考える。
なぜなら、自動詞・他動詞というのは、日本語の間接目的語を表す助詞「〜に」と、直接目的語を表す助詞「〜を」とは一致しないからである。
両者を区別しているのは、「動詞単体で行為が完結するか否か」であり、決して「〜を」「〜に」の有無ではない。後者だとすると、「プールに行く」というgo to (the/ a) poolというgoが他動詞としてカウントされうるのである(もちろん間違いである)。
2.生徒にとって難しいこと……自動詞・他動詞って結局ぜんぶ暗記するしかない点
自動詞と他動詞は、私を含め英語をある程度以上慣れ親しんでいる日本人はみなそうであると思うのだけれど、「暗記」するしか他に方法は無い、と思っている。少なくとも、私は暗記している。動詞ごとに、である。出てくる動詞が、すべて自動詞なのか他動詞なのかを覚えなければ、文法を理解できないのである。
ここが大きなつまづきであるのだが、ここを未消化のまま学習が進むと、今回のテーマである分詞を用いた付帯状況のwithが理解できなくなる。
能動は、自動詞・他動詞ともに起こりうるが、受動に関しては、他動詞しか使えないのであるから、当然、他動詞と目的語について理解ができていない状態だと、この構文は躓く。
3.自動詞と他動詞の違いを教えるのは一番難しい
文法書・教科書に書いてある、自動詞と他動詞の説明を読んで理解できるのであれば、日本人は英語の習得にここまで困難を極めていない。
別の学会でも発表したばかりだが、時制動詞(述語動詞)と非時制動詞(準動詞)の区別が最も大事であるに拘らず、扱いがおざなりになっている高校教科書。
それは、自動詞と他動詞の説明にも悪影響が及んでいる。
そもそも母語に存在しない動詞の概念なのだから、教師による補足説明なしには理解し得ない。
ただ単に、OとCの区別が付けば良い、というものではないのである。
根本としての、動詞がもつ行為について、それと被行為者の有無、語順の上で直後に被行為者を表す名詞を必要とするか否か、一方で意味上で考えた場合、自動詞+前置詞で、他動詞の役割を果たしうる場合もあるなど、ふかーい点を理解できて、点と点がつながる感覚に至ることが可能なのだと思っている。
たかが5文型と侮るなかれ。自動詞と他動詞の違いを正確に、分かりやすく教えられることこそ、英語科教員には最低限求められる素質だと私は考える。なぜなら、この違いが、後に他の構文、構造の理解の基盤になりえるからである。使役動詞、知覚動詞、関係代名詞(目的格)、などなど…。
4.まとめ 付帯状況は自動詞と他動詞の違いを意識しよう
ということで、結局何が言いたいのかというと、べつに付帯状況だけではないが、自動詞と他動詞を理解することは他の英語の構造への理解にもつながることである。逆に言えば、それが乗り越えられないと、乗り越えられない壁がたくさんある、ということでもある。
もし次回、気が向いたら、自動詞と他動詞のことを深く書いてみたいと思う。