電車のドアの重みを知っている
上越線には大人になるまでほぼ乗ったことがなかったのだけど、高崎から新潟の長岡までを繋いでいるらしい。行こうと思えば鈍行で新潟まで行けちゃうんだな。
冬季に群馬県内を走るJRは、ドアが自動で開かないものが多い。外気が冷たすぎる上に乗る人も多くないから、乗り降りする人が手動で開け閉めする。開閉ボタンですらなく、重いドアを手動で横に引いて開ける車両が未だにメジャーだ。
初めてこのことを知ったのは両毛線内で、あれは本命の高校を受験する日の朝だった。降りる駅に着いてもドアが開かず、パニックになってしまった私は「すみません降ります!開けてください」とドアを叩きながら半泣きで懇願した。誰かが、たぶん手でドアを開けてくれた。電車を降りた瞬間我に返り、恥ずかしくなったことを覚えている。
その日の試験で無事合格した高校に、3年間両毛線で通った。誰かがドアを閉め忘れる度に、冷たい空気が舞い込んできて車内の温度を勢いよく冷やす。その度に座席を立ち、ドアを閉めてからまた座席に戻る。ということをよくやっていた。
県外から来た友人が手動開閉式であることに大層驚いていて、その時に初めて「田舎だから(群馬だから?)手動だったんだ」ということに気がついた。たまに山手線に乗っていても、癖で手で引いてドアを開けようとしてしまう。とても恥ずかしい気持ちになる。
車ばかり使うようになって地元のJRにはほとんど乗らなくなってしまった今も、あのドアの重さはまだ手の中にずっしりと感覚として残っている。
私の生きているうちに車両が一新されたりして、もう重いドアを開く必要がなくなる日が来るんだろうか。電車のドアがどんなふうに重いかということを乗客の誰も知らない日が、いつか来るんだろうか。そう遠くなく来るような気もする。
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イラストレーター・グラフィックデザイナーです。写真も撮ります。持ち味は柔らかさ、あたたかさ、親しみやすさ。
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