文房具エッセイ③ 『安全刃折器』(オルファ) さやのもゆ
数年前の8月のことです。
文房具好きの私にとって、ショックな出来事がありました。
小学生の時からお世話になっていたとなり町の文房具店が、近々閉店する事を知ったのです。
長年にわたり、奥様と共にお店を切り盛りされてきた店主は、御年94歳(当時)。
何日か前に奥さまが突然の病に倒れ、ひとりでの経営は無理だからーと、閉店を決意されたのでした。
突然の知らせに驚いたのは、言うまでもありません。一瞬、何を言われたのか分からなかったほどでした。
でも、茫然としているヒマはありません。
せめて、少しでも在庫整理になればと思い、閉店までの約1ヶ月の間に欲しい文房具を買えるだけ買いそろえたのでした。
学生の頃は学校の帰りに。そして、大人になってからもー何度となく通った、町の文房具屋さん。
おそらく創業当時の店名であろう、紙店(かみてん)の名を今に残しており、印刷業をしていた時代もあったとか。
そうした歴史も手伝って、同業の量販店には無い、古き良き品揃えには定評がありました。
それなのに、閉店するなんて・・。
しかも、店じまいまで、あと1ヶ月しかないのだー。
覚悟を決めた私は、週末を利用してお店に通いつめ、店内を隈無く見て回りました。
数ある商品のなかでー自分がよく使う物や、手元に置きたい物をと選んだ中のひと品がー「オルファの『安全刃折器』(写真)」です。
店内の商品には値札シールが貼られていたのですが、コレに限っては(紙箱入り)値段の表示がなくー書いてあるのは、商品のナンバーとおぼしき〝No.3○○〟という印字だけでした。
すると店主は「ナンバーが値段、という事にしてー」と、300円で販売して下さったのです。
帰宅後に、グーグルやアマゾンを検索したのですがー全然、画像にたどり着けない所を見るとー相当、古い年式かもしれません。
それに加え、仮に昭和の製造であるとしても、300円では買えないと思いますが・・。
あれから閉店後、文房具店は早々に解体されてしまいー現在は駐車場になっています。
今でも店主さんには、感謝の気持ちでいっぱいです。刃折器をはじめ、お店で購入した文房具は、これからもずっと、大切に使っていこうと心に誓いました。