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さやのもゆ/読書会ノート      『おかげで、死ぬのが楽   しみになった』          遠未真幸/著    【note版】ー第2部ー

【掛川ほんわかブッククラブ読書会】 
ー第2部・もくじー
『ランチ読書会』
『高校生が選ぶ掛川文学賞』授賞式&交流会

ーーーーー《ランチ読書会》ーー――――――
掛川中央図書館にて開催した読書会のあとは、街なかを流れる逆川(さかがわ)のほとりにあるカレーのお店、「JAN」さんに移動。
スパイシーなカレーランチをいただきながらの、読書会の続きとなりました。
ここでも、読書会テキスト『おかげで、死ぬのが楽しみになった』の著者、遠未真幸先生がご一緒して下さり、店内のレトロでヒップホップ風?な雰囲気も手伝って、忘れられないひと時となりました。
図書館での読書会では、主に読者の感想を作者に直接お伝えする形でしたが、こちらでは遠未先生をかこんでの質問コーナーとなりました。
遠未先生は、読者からの少々突っ込んだ質問にも、マイクパフォーマンスで終始、にこやかにお答え下さいました。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー🎤〈MCあいさつ〉
みなさん、今日は「せーの」でランチをいただきません。注文のメニューが来た人から、温かいうちに(勝手に手を合わせて)召し上がってください。歓談されながらで結構ですので、遠未先生への質問も、随時おねがいします。
ここまで来たら、何でも聞いちゃいましょう。
ー掛川に来たら、何でもアリ。あきらめの境地だったりして・・(笑)。

❔【Q】 『おかげで、死ぬのが楽しみになった』は、なんとなく「寅さん」みたいで、シリーズ化してもいい位だと思うのですがー。
この本のストーリーは、どこから想を得たのでしょうか?
✒️【A】そういった事は、よく訊かれます。
きっかけは、〝シニア世代をワキ役にするのは、なぜか?〟と、違和感を覚えたこと。
これは、編集者と話をした時に端を発しています。
ちょうど執筆中、僕の母は70歳でしたがー。
その母が〝メチャ元気〟なのに〝映画ならワキ役〟という「ナゾの空気感」が、あるわけですね。でも、どう見ても母は、元気。
『おかげでー』に登場する〝シャイニング〟の3人は、おたがい様同士で支え合う、コミュニティの主役。ワキ役なんかじゃない。
これはある意味、僕の〝反骨精神〟なのです。
普段なら言えないけど、「物語」という形であれば、これを提示できる。
もっともこれには、「説教」になりがちな側面もありますのでー説教クサイと感じさせないように描くことで(ダジヤレも満載)、世代をつなげられるようにと筆を尽くしました。
「主役に、年齢は関係ない」。この本が、〝架け橋〟になれたらと、考えました。

バカバカしい所もあるけれど、読者の皆さんにはグッと来るものが、あるのかもしれません。
僕としては、世代をつなぐラインを突きたかったのです。

❔【Q】『おかげでー』の単行本が出来上がるまでのプロセスなど、お聞かせください。
特に、本文の文字フォントが大きいのには、読者の皆さん、スゴく喜んでいます。
また、表紙カバーの材質などは、どのようにお決めになったのでしょうか?

✒️【A】本書の内容が、おじいちゃんを主人公にしている事もありましてー。出版社の70代会長に、サンプルを10種類ほどお持ちして、最も読みやすい物を選んでいただきました。
それ以前に「電子書籍でないと(文字を拡大できないから)字が読めない。でも、紙の本でも読みたいんだよね」との声も、いただいてましたのでー。
また、デザイナーさんにも掛け合い、本の持ちやすさ・めくりやすさ等、細部にわたってギリギリまで調整を重ねていきました。
そうした過程を経て、この本が完成した訳ですがー。出版社って、ホントにいろいろ考えて下さってるなぁ、と。

🎤〈MC〉こうした出版社の、ひとかたならぬ苦心や工夫には、もちろん本を売るため、という理由もあるでしょうがー。
結果的には〝読者のため〟になるんですよね。

❔【Q】 『おかげでー』の出版元である「サンマーク出版」さん(以下、『サンマーク社』)は、主にHowTo本や自己啓発本、ビジネス書を出版されていると伺ってますがー。
そうした業態の出版社さんで、遠未先生の小説本を出版されるに至った経緯、またはエピソードなどありましたら、お聞かせください。

✒️【A】僕の本を担当した編集者・Rさんが、サンマーク社の中で随一の小説好きでして、ずっと「文芸をやりたい」と、言っておりました。
もとより、サンマーク社には「編集者特権」なるものがあったのですがー。
これは年に一冊だけ、企画会議を通さずに自分の好きな本を製作できる、というものです。
もちろん、文芸に関しては経験の無い出版社でしたから、企画段階で「ウチには難しいのでは」と、いう意見もありました。
でも、「Rがそこまで言うのなら」ということで、出版までこぎつけた訳です。
Rさんが特権を使って出版した最初の本、これが「コーヒーが冷めないうちに」(川口俊和/著、2015)でした。
もともとは劇として演じられていた物(劇団『音速かたつむり』の脚本家・川口俊和の戯曲)を、Rさんが川口氏に小説化を交渉。約5年の歳月をかけて出版されました。
そこで彼女は結果を出したわけですが、次は僕のところに「小説を書きませんか」というオファーが来たのです。
ー話としては、そんな感じでしたね。

相変わらずサンマーク出版は、いわゆるビジネス書やHowTo本、なのですがー。
その中にあって、Rさんのように文芸を手掛ける編集者もいる。面白い会社だと思います。

❔【Q】 文字フォントを大きくした等、他社の文芸出版ではやらない事が実現したのは「サンマーク出版」ならでは、でしょうか?

✒️【A】 そういう冒険ができる出版社なのだと思いますし、逆に「ノウハウが無いから、何が売れるのか分からない」とも言えます。
むしろ、「やれるものなら、やってみろ」という気風があるのではないでしょうか。
だって、〝ナゾの僕〟(の本)を出すくらいですから(笑)。応援団ではありましたけど・・。

これまでに小説を書いて賞をもらった事など、一度も無いーそんな僕でも、編集者の熱意を汲んで、背中を押してくれた。
そういう、自由な社風でもありますね。

❔【Q】 遠未先生は、今までにどんな本を読んでこられましたか?

✒️【A】 じつは僕、二十歳くらいまで全然、本を読まない人でした。
なぜかと言うと、ミュージシャンになりたくてーずっと音楽をやっていたからです。
そんな僕でしたが、二十歳になって読んだ小説が面白かったのをきっかけに、本を読むようになりました。
伊坂幸太郎さんとか、辻村深月さんなどーちょうど、僕の大学生時代に活躍し始めた作家さんの作品です。
あと、エンタメ性に富んだものとかー面白かったり、ホロッときたり。それでいて、読者のハートにはしっかり〝刺さる〟と、いうようなものが好きでした。
そうしたわけで〝自分も小説を書きたい〟と、思うようになったのです。
とは言っても、まさか本当に小説を書くようになって、その上ー今、こうして掛川に呼んでいただいているなんて。
僕には思ってもみなかったことですし、ありがたいことですね。

🎤【MC】 遠未先生に、そのように言っていただける掛川市も、幸せ者です。
ちなみに、久保田市長は〝活字中毒〟という位、本を読んでおられますがー。
ほんわかブッククラブの活動を評価して下さってまして、掛川市を「文芸のまち」にしたいとも仰ってます。

❔【Q】 私も、自分の書いた児童文学作品が初めて出版された時、一番の驚きは〝編集者の力の入れようを肌で感じた〟ことでした。
それこそ、「大人のしあわせ体験」だったのですがー。
遠未先生が『おかげでー』を出版されて、もっとも驚きだったことは何でしょうか?

✒️【A】 
『おかげで、死ぬのが楽しみになった』への反響には、思わぬ評価もありましたが・・まずは、(足元を指して)〝ココ〟です。
僕が、何よりも驚いたのはー「高校生が選ぶ・掛川文学賞」を受賞したこと。
もちろん、高校生のハートには〝届かない〟と思ってたわけじゃない。
老若男女、すべてに〝刺さる〟ものとして書いてますから。
とは言うものの、果たして高校生がこの本を手に取るのか?と、考えてみますとー。
おそらくは、取りづらいだろうな・・とも、思うんですよね。
もっとも、マーケティング的には「シニア世代に読んでいただきたい」という点も踏まえて、書いてはいたのですが。
ところがー事前に、高校生の選考委員がどのような感想・選考過程をもって審査したのかをお聞きしたところー。
それは、ひと口に言うと〝メチャクチャ、刺さってるじゃん〟という感じでした。
なぜなら、お聞きした感想の言葉が「高校生に特有の何か」という、限定的なものでは無かったからです。
何よりも、彼らが彼らなりに『おかげでー』の中に、生きることの普遍的な部分をカチッとつかんで下さっていると感じられました。
逆にいえば、それはどの世代でも変わらないのかもしれないーそう思えた嬉しさもありましたね。
結局、20代だろうと70代であろうとー〝変わらないじゃん〟と。
やはり、誰だって死ぬのはこわい。でも、それを〝楽しみたい〟と思ってる自分もいます。
で、どうすれば最期、楽しく死ねるんだろうってー。
怖かったり、モヤモヤするのはー男女の区別もなければ、年齢や世代などカンケー無い。
そう思い切れたのは、高校生の感想の言葉のおかげです。
〝楽しく死んで行く〟勇気を、もらいました。
ほんわかブッククラブの皆さんの感想をお聞きしても、同じように感じますし。
やはり〝本だからこそ〟つながれたのかな、と。
もし、この本が無かったなら、高校生が思っている事も知り得ないでしょう。
まさに、これこそが本を出版して良かったと思える事なのです。
もしかしたら、彼らとは〝違うのかも〟と、
思っていたのですがー実は、〝同じである〟ところを見つけられた。
その気づきが、嬉しかったんです。

🎤【MC】 読書会ー特に、作家さんがいらっしゃる場合などはー作品について〝素晴らしい〟とか〝スゴクためになります〟等々、
イイ事ばっかり言おうとする傾向がありますけれどー。
今日の読書会では、そればっかじゃない、別の視点の感想も聞かれました。
作家さんに直接お話を伺うのって、滅多にできない事ですが、中には結構、遠慮なく思ったことを言っちゃう人もいて(年代もありますが)。そこがまた、いいんですよね。

❔【Q】 遠未先生のような〝アツい〟方を育てられたお母様にお聞きします。
ーどういう風な、お子さんでしたか?

🍁【A・遠未先生のお母様】
 どちらかと言えば「私が育てた」と、いうよりは「子供に〝育てられた〟」と言ったほうがピッタリしますね。
とにかく、母親の私には考えつかない事ばかり、やってくれるので(笑)。
そのたびに、ハラハラ・ドキドキしたものでしたーいったい、どうしたら良いのかと。
逆に、子供の方から〝人生の奥行き〟とでも言うものを、教えてもらった様な感じさえしております。
ほんとうに、心配ばっかりして・・・。
今日も、こうして息子に付いてきました(笑)。

❔【Q】 (遠未先生は)〝ヤンチャ〟でしたか?

🍁【A・お母様】
 ヤンチャ、と言いますかー。
とにかく、やることが突拍子(とっぴょうし)もなかったですよね。
高校生のときなんかー音楽レーベルを立ち上げたんです。
何でも「CDを発売しちゃう」とかで、「タワーレコード」で話をつけてきたりなんかして。
普段は、おとなしいのに(笑)。

✒️【A・遠未先生】 
僕の中学時代の話になりますが、本当はバスケ部に入りたかったんですけどーちょうどその年は顧問の先生の異動があって、バスケ部がなかったんです。
仕方なくバレー部にしてはみたものの、やっぱり「バスケやりたい」という事で、行動に出ました。
何をしたかと言うとー「(通ってる学校に)バスケ部が無いから、よその学校のバスケ部に入部できませんか」と、教育委員会に行って交渉したんです。
(ちなみに、お母様は『ちっとも知らなかった』そうです)
するとーこの事が世間で話題になりまして。
何と、異動された顧問の先生が、他校から僕の通う中学に、もどって来てくれたんですよ。
そういう意味での、ヤンチャぶりでした(笑)。
「何、やってんだ!」みたいな。
母に対して、今でも〝スゴいな〟と、思うのは〝口出しをしなかった〟ことです。
「やめなさい」などとは、一度も言われませんでしたからね。
それは、本当にありがたいと思っています。

〈ランチ読書会のおわりに〉
ー店主・〝JAN〟さんよりー
僕は『おかげでー』の本はまだ、読んでなくて。
ネットで見たんですけど、応援をテーマにしたお話ということでー僕にも応援の歌があるので、ここで歌わせてほしいです。
みなさん、胸のうちに引っかかってるモノ、ありますかね?
まだまだ、お元気だけどー死ぬまでに絶対、やりたい事とか、大きな夢をあきらめていませんか?
あのー夢を応援するっていうか、忘れかけていたモノを思い出してほしいです。
ー『Dreamer』。
 
 ♪夢があれば どんなことにも
  負けやしない
  
  だから ぼくは
  どんなことにも 勝ち続けるよ
  
  夢のために 夢を思い
  夢をもって 夢を見る
  
  Tu・tu・tu ーYou,Dreamerー
  That´s All Right!
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『高校生が選ぶ掛川文学賞』授賞式&交流会於:掛川中央図書館・会議室  14:00~

『高校生が選ぶ・掛川文学賞』は、今年で第2回目となります。
高校生による、文学賞の創設ー。
その先駆けは、フランスの権威ある文学賞のひとつ『ゴングール賞』を本賞とした『高校生のゴングール賞』(1988年)。
これに学んだ形で、日本でも高校生の文学賞が創設されるようになりました。
ここ掛川でも「高校生は、選ばれた本を夏休みの課題図書として読むことはあっても、自分たちで本を選ぶ、というのは無い。それなら『高校生が選ぶ文学賞』を作ったらいいのでは」と、いう話になったのだそう。
ちなみに、本家フランスの『高校生文学賞』では、仏国全土から約2000人の高校生が参加。
候補に選定した15作品を2ヶ月かけて読み、選考したと言いますがー。
その際、単純計算でも三万冊の本が売れたことになります。
これに比べますと、掛川文学賞は冊数的には少ない(候補作は5作品)のですが、掛川市内・4校から参加された高校生の選考委員(12名)の皆さんは、真剣に議論してくださいました。

『文学のまち・掛川』の実現を目指してー。
高校生を主体とした文学賞を開催することで、高校生の読書活動の推進と継続を期するものであります。
当日の授賞式および交流会においては、選定委員の高校生が司会・進行を運営し、アットホームで心のこもったシンポジウムとなりました。

ここでは、シンポジウムにおける「作家と高校生の交流会」の様子や、第2回『高校生が選ぶ・掛川文学賞』受賞作『おかげで、死ぬのが楽しみになった』の作者・遠未真幸先生のスピーチを、まとめてお伝えします。(以下、【遠未】と略称)
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〈第2回・高校生が選ぶ・掛川文学賞〉
ーシンポジウム/作家と高校生の交流会ー

*『おかげで、死ぬのが楽しみになった』を
      書いた理由ーその魅力について*

【遠未】
こんなに多くの高校生に囲まれるのは、初めてです(笑)。

【Q・高校生】
『おかげでー』の主人公を、いわゆる〝お年    寄り〟にしたのは何故ですか?
【A・遠未】
理由のひとつには、「おじいちゃんが主人公」の物語を読んだ記憶が無かったことが、挙げられます。
映画だと、主人公はたいてい「若者」。
別に何歳だって良いはずなのに・・なぜ?と、疑問に思いました。
それで、主人公を「お年寄り3人組」とした物語に挑戦したいと考えたわけです。
僕が作ったらきっと、面白くなると思いまして。
また、自分は応援団をやっていましたので、それが出来なくなった人の事を描いてみたい、というのもありましてー。
作中では、おじいさん達がどうやって〝応援〟したのかを表現してみました。
当時、僕の母がちょうど70歳でしたが、ぜんぜん元気だし、まだまだやれる感じ。
それを考えれば、応援だって出来るんじゃないかと、思ったんです。

【Q・高校生】
登場人物のなかで、もっとも気に入っているのは、誰ですか?
【A・遠未】
『宮瀬』かなぁ?ー自分に近い、というのでもありませんが。
彼が第2話『シャイニングメモリーズ・宮瀬実の恋は実らなかった』の主役で登場した中で、
「取るに足らない平凡な日常こそが、特別だったー(略)今、幸せだよ。そう伝えたかったんだね(232~233頁より抜粋)」ーその言葉通りの〝幸せ〟に、彼は気づいたのです。
伝えたい人に、思いを伝えられなかった経験。
たった一瞬のチャンスを逃したばかりに、「いつかは・・」と願っても、そんな時は二度とこない。
それを宮瀬は、別れた奥さんに伝えることが出来たのですから。

【Q・高校生】
今までに遠未先生が出会った方のなかで、『おかげでー』のモデルは居るのでしょうか?
【A・遠未】
モデルは・・居ないですね。
どの登場人物も、僕自身の一部分をグイッと引き伸ばしたようなものですから。
あの「4人」の要素を混ぜ合わせると、「自分」になるような気がします。
(本のなかで)「『がんばる』ことも『がんばらない』ことも大事」と言ってくれたのは、ありがたいですね。

【Q・遠未】
なぜ、僕の本を〝掛川文学賞〟に選んでくださったのでしょうか?
【A・高校生】
私は最初、ほかの候補作品を推せんしていたのですがー。
でも、話し合いながら読み込んで行くうちに、『おかげでー』は他の本とは視点が異なっており、自分たちの人生にとって学ぶことが多いと感じられてきたのです。
題名を聞いたとき、「いったい、どんな話?」と、興味がわいてきました。
確かに、今どきの文学作品として、高齢者向けの物が求められている部分はあると思います。
しかも、この本の主人公はお年寄り。
でも、作中には「大人も、高校生を経ていると再認識」と、あります。
確かにそうだったはずだけどー大人になってからは、忘れちゃってますよね。
そこの所を、この本で追体験できるのです。
登場人物の〝おじいちゃん〟にも(読者と同じ)
高校生だったコトがあったんだと。

ー「過去」と「今」は、言うなれば「地続き」。
あるいは〝過去があってこそ、今を生きている〟とも言えます。
それが見えれば、相互の共通点が生まれるのではないでしょうか。
ここにいる高校生(選考委員)は、お互いに違う考えを持っている中から、共通点を見つけて行かれました。
そもそも皆が、はじめから〝ドン〟とひとつにまとまらなくて当たり前ですよね。
相互に、共通点を見出して行くー。
そういう視点、というものが本を通じて養われた、というのは素敵なことです。

【Q・パネラー】
(市民選書委員に)候補作を選書する過程で、『おかげでー』を選んだ理由は?
【A・選書委員】
どの本にしようかと考えた中で、「高校生が選ばないんじゃないか」と、思われる内容だったことから、候補作に決めました。
(タイトルにもありますが)『死ぬ』という言葉が、高校生の読者に対して、どう響くか?とも思いましたがー。
自分でも読んでみて、高校生にもぜひ、読んでもらいたいと。
生きてるなかでは、いつでも「青春」。
年を取ったからとあきらめるのではなく、最後までワクワクしたい。
本書に登場する、そんな70代の気持ちになれるかなと、考えまして。
年を重ねても、中身が変わらないことを『おかげでー』を読んで追体験することで、イメージできる。
さらに、散りばめられた言葉の数々を、噛めば噛むほど美味しく感じるという〝気づき〟もありました。
これなら「何度でも、繰りかえし読みたくなるはず」と確信し、本書を推せんしました。

【Q・パネラー】
『おかげで、死ぬのが楽しみになった』ーを、実際に読んでみて、いかがでしたか?
(高校生への質問)
【A・高校生】
私は、候補5作のうちの2冊目に、この本を読みましたがー。
主人公の年齢である70代といえば、自分の祖父母の話になります。
これは、理解しにくいのでは?と、思いながら読んでみると・・そうでもなくて。
お年寄りにも高校生の時があって、そこを初心にして70代になったのかな?と、思えました。
人は年をとったからと言って、そんなに変わるもんじゃない事に、気づきをもらいました。

【A・高校生】
最初はむずかしく考えていたけれど、おじいちゃんの高校生時代の、さまざまなエピソードに触れたせいでしょうかー。
今、私たちが抱えていることー若さゆえの失敗、だとか人間関係も含めてーこの先、楽しい人生になっていくのかも、という希望がもてました。

【A・高校生】
表紙の絵が「おじいちゃん」。
あと、タイトルの〝死ぬのが楽しみ〟って、何だろう、この本は?と、思いながらの冒頭シーン。
これは、「遺書を読み解く、謎解き」小説なのかと思いました。
そうして読み進めるうちにーおじいちゃんの知恵を結集して、巣立進の〝遺書〟が何を意味しているのかを探索していくーそんなゲームを観ているような気分になったんです。
その、謎解きをしている姿がカッコ良かった。
ひとつの謎に、みんなが意見を出しあって解いていく感じー。
「こういう視点があるのか」「そんな意見もあるんだな」と、楽しくなりました。
最後に謎が明かされた所では、まるで、推理小説を読み終えたときのような気分でしたね。
高校生にもどったみたいな〝おじいちゃん〟。そしてー謎解きのメッセージを面白いかたちで遺していった、〝巣立進〟。
彼の「自分を忘れないで」という意思を感じて、『おかげでー』を楽しく、読めました。

【A・高校生】
『おかげでー』は、お年寄りの気持ちを〝分かってる〟感じがしました。
生き方というものは、何歳であろうとーその人次第、なんだなと。
それをどう選ぶかでカッコ良くもなり、素敵なものになっていくんですね。
今では、何かと年齢で括(くく)りたがる所があるけれど、それを取り払えば「70代って、スゴイ!カッコいい!」と、なるでしょう。

*コミュニティ・ツールとしての、読書会*

【Q・パネラー】
「掛川ほんわかブッククラブ」(以下、ほんわか)では、主に掛川中央図書館で月に一度の読書会を開催しておられます。
これにも、幅広いい世代の方々がつどい、相互に分かり合える場になっていますね。
【A・パネラー/ほんわか代表】
当会は、今年で11年目になりますが、月に一度の読書会を中心に、コツコツと、途切れることなく続いています。
「若い人に、いかにして『読書』をつなげて行ったら良いのか」
ーそう考えた時、読書をつなぐ〝バトン〟に、読書会は最適だと感じました。
他には年2回ほど、掛川工業高の〝掛工図書館〟で同校・文芸部の生徒さんや、一般市民のみなさんにも解放する形での「合同読書会」を開いております。
また、同校を含む市内の各所・図書館などにおける「文化の匠(たくみ)」と称した講演活動や、文芸誌「文芸高久書店」の発行など、積極的な文化活動を行ってまいりました。

【Q・パネラー】
「ほんわかブッククラブ」の読書会に参加されたそうですが、いかがでしたか?

【A・高校生】
一冊の本を通じて、自分よりも年上の人と対等に会話できるのが、新鮮でした。
人生観だとか、普通では得がたい知識が身に付いて、良かったです。
【A・遠未】
今日の読書会は、僕の人生で初めての参加となりましたがーメッチャ面白かった。
感想をいただくのも嬉しいですが、本の前では年齢に関係なく、みんなが対等。
それぞれの立場から語られる言葉に、自分には無い視点があり、興味深いものを感じました。
そうした対話を経て、結果的には〝本を通じて人を知る〟ことになります。
これは、スゴい事だと思いますし、「本だからこそ」出来ることではないかと。
【A・パネラー/選書委員】
当日午前中の読書会では、感想を述べる順番クジで〝ナンバーワン〟を引いてしまいましたが、それでも楽しかったです(笑)。
読書会では、感想の言葉に正解はありません。だから、素直に感じたままを、話せました。
また、他の参加者のお話を聞くことで、自分のそれとはまた違う捉え方や、新たな視点が入ってきます。
そうなると、もう一度テキストを読み返したくなるのですね。
素敵な時間でした。

*『おかげで、死ぬのが楽しみになった』を
  第2回『掛川文学賞』に選んだ理由は?*

第2回「掛川文学賞」の選考過程においては、最終段階で下記の2作が残り、いずれか1作を「第2回『掛川文学賞』」に決定する運びとなりました。

📕『おかげで、死ぬのが楽しみになった』
  遠未真幸・著/サンマーク出版、2023

📕『成瀬は天下を取りにいく』
  宮島加奈・著/新潮社、2023

高校生選考委員・12名の話し合いには、教諭などの大人はノータッチ。予定は1時間とされていましたがー。
所定の時間が経過しても結論には至りませんでした。
最終的には、3時間にも及ぶ対話の末の結論としてー『おかげで、死ぬのが楽しみになった』を「第2回『高校生が選ぶ 掛川文学賞』」に決定しました。
最終選考作品・2作品の特徴としては、『成瀬はー』が〝女子高生・成瀬あかり〟をヒロインにした「青春小説」なのに対し、一方の『おかげでー』は、〝70代のおじいちゃんトリオ〝が主役の「老春(おいしゅん)小説」。
この両者は、まったくの「対極」と言えます。
なぜ、『おかげでー』を選んだのでしょうか?
【A・高校生】
『成瀬はー』に登場する〝成瀬あかり〟は、確かに私たち高校生と同世代の主人公ですがー。そのようなキャラ設定の小説は、数多く出版されています。
それに比べると、『おかげでー』のような〝お年寄り〟が主役の物語は、数少ない。
むしろ、こちらの方がインパクトがあって良いのではと思いました。
【A・高校生】
実は、私も〝『おかげでー』推し〟なんです。
テーマの「老春」というのも、ツカミがありますし、『成瀬はー』よりもコッチの方が、読後感としてのストーリーが印象に残りました。
【A・高校生】
『成瀬はー』と『おかげでー』、両方とも好きですがー。
では、どちらが賞にふさわしいのか?と、なった時、「同じ世代にも読んでほしいと思える」という意味で、『おかげでー』を選びました。
良し悪し、ではなくー『おかげでー』は、着眼点がユニークで意外性のあるところが、魅力的です。
【遠未】
選考委員の12人で、文学賞作品を発表するのですからー。
当然、どの作品が賞にふさわしいか、という議論になりますよね。
「私たち12人が推す作品とは?」
「掛川文学賞で、何を伝えたいのか?」
このような観点で話し合った結果だと、おもいます。
「自分たちなら、普段は選ばないけれどーこの作品を選んだことで、ほかの人が『どうして○○なんだろう?』と、興味をもって読んでくれるかもしれない」
ーと、いう考えに、たどり着いたのでしょう。
さらに、新たな出会いを生む可能性をもつ作品、という期待もにじませてー12人の『推し本』に、同意を以て決定された。
今、こうして授賞式を迎えるまでの、長いプロセスには、美しいまでの手間を感じます。
期待どおりの結果となりましたね。

*ここで、一般参加者より、
        ちょっと長いメッセージ*

「年寄り」から、ひと言。
今、話を聞いてたら『おかげでー』のことを、「年寄り(が主役)だから話題になった」とか言っていて、とにかく〝年寄りだから〟で、終わらせようとしてる感じですがー。
僕はこの本の主人公、なにも年寄りだなんて思わないですよ。若々しいじゃないですか。
それを、「年寄りだから出来た」「この年寄りは魅力的」ーそういう事にして終わらせてはいけない。
そんな反抗心が、ムラムラと湧きあがってきたんです。
ここにいる人達の3人や4人、それこそー20代とか高校生だって、やってやれない事はない。
『おかげでー』には、主人公がさまざまな人の悩みや困り事にかかわるエピソードがありましたがー。
あれこそは、人間の生き方であってー年齢じゃない。
僕はこの話、なにも70代とか年寄りだとか、そういう読み方は一切、してません。
「普通の人たちが、普通にやりたい事をやった」と、いう風に読みました。
だからー高校生のみなさん、年を取ることは、そんなに悪い事じゃないですよ。
ぜひ、希望をもってーそのためにも、今を頑張ってもらいたいと思います。
言いたいことが、上手く出てこないのですが、
(話の流れが)〝年寄りだから〟に結論が行きそうになってたのが、気に食わなかったものですから(笑)。
ひとこと、言わせていただきました(皆の拍手)。
【遠未先生より】
お年寄りにしても、やってる事は10代と変わらない。
だからこそ、『おかげでー』の主人公に親近感を抱いてくれたのだと思います。
僕自身にも、一冊の本が、年齢や世代を越えたところでイイと思ってもらえたらーそんな願いがありました。
読者の皆さんから、たくさんの気持ちをいただきましたことに、感謝しています。

* 遠未先生のエピソード・
        応援団時代のことなど *

僕は、去年(2023)まで、応援団をやっていました。社会人になった時(2007)、兄に誘われたのがキッカケです。
高校・プロのスポーツ選手、イベントに企業からの依頼などー15年以上に渡って、1500回の応援を行いました。
今回の小説は「応援」がテーマでしたが、これには理由があります。
応援団をしていた時ーすべての案件が、それぞれに違う形のケースだったものですからー。
依頼に応じた応援のやり方を考えるにも、むずかしいものがありました。
自分としては、ひとつひとつのケースに心を込めて対応したつもりでも、後で考えた時に「実は、こんな言葉が必要だったのでは」と、なってしまう。
そんな思いが、自分の中に溜(た)まっていくように感じられました。
心に積もった思いー相手にうまく伝わらなかったという、救いのない思いを埋めるかのようにー言葉が、物語の中へ入っていったのかなと。
昨年末より、次作の執筆に入っております。
内容は、今後二転・三転しそうですが、今回の『おかげでー』では出来なかった事をやろうと考えています。
同じような作風を、繰り返すのではなく・・・敢(あ)えて選ばなかった道をえらび、チャレンジする。
これからの道のりを、乗り越えて行くつもりです。

*交流会の終わりに
 ~クロージング・スピーチ・
        高校生から、遠未先生へ~*

今回のシンポジウムは、「読書とは?」「対面で人が集まるとは?」といった事について、改めて、その大切さと意義を見つめ直す機会となりました。
確かに、事実を知りたければ〝検索〟すればいい。でも、そこに「人の意思」は、入ってきません。
しかし、まず「読み手」の顔があって、これに「書き手」が関わることで「対面」となる。
そうしてー直接の「対話」をすることで、相互に伝わるものが、確かにあるのです。
『高校生が選ぶ・掛川文学賞』。
本を通して、新たな交流のかたちが生まれて良かったと思います。
「人(ひと)」・「物(もの)」・「事(こと)」において、人と人とが協力しあい、学ぶだけでなくー作り手となって「何か」を体現する。
「掛川文学賞」がその一歩となったことが、今回の成功につながりました。

【高校生より】
遠未先生。
このたびは素晴らしい作品を、ありがとうございます。
そして、今日のこの会「高校生が選ぶ・掛川文学賞 授賞式および交流会」を開いてくださり、感謝しています。
正直、「私が参加して、良かったのかな?」と、今でも思うのですがー。
同じ本を読んで感動された方々や、作者・遠未先生のお話をうかがって、あらためてこの本の魅力を実感した次第です。
違いを越えた『文学』が、ここにあると思いました。

*『おかげで、死ぬのが楽しみになった』
    ~作者・遠末真幸先生のスピーチ~* 

今日は、ありがとうございます。
僕が『高校生が選ぶ・掛川文学賞』に選んでいただいて一番嬉しかったのは、初めての文学賞
だったことでも、高校生に選ばれたから、でもなくー皆さんの「選び方」でした。
その過程をうかがった時「僕にとっての『スゴイ仲間』が、見つかった」ーそんな思いがしたのです。
なぜかと言いますと、選考委員の12名の高校生が全員納得するまで、何時間もかけて話し合ったから。
それって、メチャクチャ大変なことだったでしょう?仮に、多数決で選んだとしても、問題はなかったはず。
でも、そこを敢えて手間をかけ、話し合いで決める方に舵(かじ)を切ったのですね。
お互いに異なる意見にも耳をかたむけ、同意できる点をさがして議論していった。
「私とあなたは、もともと違うのだからーその中で、同じところを探そう」
そうして、面倒な方法を選んだ姿勢は、美しいと思います。
一方で本を書く側もまた、大変な労力を要します。僕の本だって、執筆に6年半もかかっていますから。
その間、出版社をはじめとした周囲の関係者が力を尽くしてくれて、何年もかかってやっと、読者のもとに届くのです。
確かに世の中には、効率の良いシステムやツールが沢山ある。
でも、そうした〝コスパ・タイパ〟が悪いことの中にこそ、大切なものがあるのも事実です。
だから、みんなも僕と同じ〝仲間〟だと感じました。
掛川には、そういう〝まわり道の仲間〟がいるのだと、思えるのです。
この先、いつかまた皆さんにお会いできた時にー「僕は、今もそうです」と、胸を張って言える。
今日は、そういう出会いでした。

高校生に選考のすべてを任せ、大人は一切手を出さずに、見守った。
そうして、たった一人の作家が受賞したのが、
『掛川文学賞』。

この賞を創設・運営し、希望を見いだして下さってーありがとう。
僕は、この出会いに感謝しています。
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編集の「部室」
ずいぶん長い読書会記録となりましたがー。
まずは、ここまでお読みくださった皆様に厚くお礼を申し上げます。
当日は、「掛川ほんわかブッククラブ読書会&ランチ読書会」と「高校生が選ぶ・掛川文学賞 /授賞式&交流会」がタイアップした、非常に盛りだくさんな一日でした。
自称・かわら版物書きの私といたしましては、この日の様子を、参加できなかった方々にもお伝えできればと願いつつ、可能な限りにおいて筆を尽くした次第です。
このたびは、「note」ユーザーの皆様にも一読をお願いできればと思いまして、A4コピー紙・14頁の手書き新聞「ほんわかブッククラブ・読書会ノート」をnote版にて投稿させていただきました。
今後も読書会記録・note版の投稿を、コツコツとやっていく予定です。
もしもまた、お目にかかれました時に、ポッカリと空いたお時間をいただけましたら、お読みくださいね。
             さやのもゆ


























 









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