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ガーベラとリュウキンカ、クリスマスローズ/さやのもゆ
日曜日の朝になると、母は必ずと言っても良いほど、庭の鉢植えで新しく咲いた花を見せてくれる。
二月半ばの週末。この日に咲いていたのは、近くの直売でフンパツして買ってきたピンクのガーベラと、リュウキンカ。
母はお勝手から庭に出て行き、軒下に並んでいる、いくつかの鉢植えのなかから、リュウキンカの鉢を手にして戻ってきた。
リュウキンカは、去年もそうだったがー花をたくさん咲かせたのを、やはり母が嬉しそうに見せてくれたのだが、今年は開花が遅れているようで、見える限りで二~三輪の花が細い花びらを立てていた。
母は、鉢の中を埋める葉っぱの茂みをかき分けながらー「ほらね、たくさん蕾を持っているでしょう?」と、言いーこれから次々に花が咲いて行くのが嬉しくて仕方がない、といった様子だ。
そして、これから花を咲かせるであろうクリスマスローズも、大きな蕾が頭(こうべ)を垂れている。今は五つの鉢で育てているが、以前はもっと沢山、鉢植えのクリスマスローズを持っていた母である。
「何年か前に、『もう、花を増やすのはやめよう』と、思ってね。けっこう整理しちゃったんだけど・・やっぱり、やめられないね。」
なんか、損しちゃったみたいー母は、ちょっぴり後悔をにじませた。
ここ何年かは、今日の花に加えて、ナデシコやマリーゴールドなど、比較的小さめの花を鉢植えで育てることの多くなった母だが、いつかその理由を、こう話してくれた事がある。
「お母さんは、小さいものが好きだというのもあるけどね、お父さんの祖霊舎(それいしゃ)にお供えするためでもあるんだよ」
よく考えたらー亡き父もまた花が好きで、三方原の親戚に借りていた畑で、サツキやルドベキヤ、はてはユリにキボウシまで植えていた。
そんな父が世を去ってから、早いもので九年目になる。
今も母はーそして、これからも。
春が来れば桜の花を、いち早い季節の花を父に手向けることだろう。
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「ちょっと高かったけど」
買い求めた、鉢植えのガーベラ。
なめらかなピンク色があでやか。