非IT企業のエンジニア内製化事情
テック業界でリクルーターをしています。
近年DXという言葉が盛んに叫ばれている中で、非IT企業はどれだけ内製化が進んでいるのか、気になるところではないでしょうか?
今回は内製化を行っている代表企業をいくつか例に取り、実際エンジニアチームの内製化はどこまで進んでいるのか見ていきたいと思います。
この記事を読んでいただくと
・内製化を行う代表企業の実情
・やっぱりまだまだ成功している企業は少ないが、一体なぜなのか?
・今後も内製化の波は続いていくのか?(個人的見解)
といったことが理解頂けるように、まとめてみます。
実際のところ内製化がうまくいっている会社はあるのか?
情報処理推進機構(IPA)の「IT人材白書」によると、IT人材の7割超がIT企業に属すると言われています。つまり日本の非IT企業(ユーザー企業)はシステム開発をITベンダーに委託する形がほとんどだということです。日本に対しアメリカでは、非IT企業に属するエンジニアの割合は65%とも言われており、日本とは反対の状況になっています。
なぜアメリカではこれができるのかというと、人材の流動性も関係しています。プロジェクトを数年間(2年であったり5年であったり)と決め、そのプロジェクトが終わったタイミングで次の職場を探すといった人材流動が、アメリカではうまくいっているということです。ただ日本でも特にエンジニアは2~3年に一度転職する方も増えてきており、今後流動性は高まっていく可能性は大いにあります。
ですがいまだにそこまで流動性が高くない日本では、このような非IT企業がエンジニアを募集してもなかなか採用できません。そのため結局SIerに投げてしまい、自分たちが中身をよく理解できていないシステムが出来上がり、そのままそれを使い続けているという状況です。
そんな日本でも、内製化に取り組み実際成功を収めている企業はあります。某有名企業でも、いつの間に内製化してたの?なんて声も聞くことがあるので、そんな各社をいくつかご紹介させて頂きたいと思います。
内製化の実情とは?4社それぞれの例を見比べてみる
Fast Retailing
Fast Retailingと言えばユニクロ、ジーユーの親会社であり、日本発のグローバル企業として名高い企業です。
この会社も数年前までは主にアクセンチュアを中心に、コンサルティングファームやSIerにシステム開発を依頼する形でしたが、今やかなりの規模のエンジニアリングチームが出来上がっており、内製化に成功している企業例の代表と言えるでしょう。
内製化をスタートさせたのは2014年にデジタル戦略強化の方針を掲げて以来です。Fast Retailingは本気で情報小売企業に生まれ変わることを目指し、それを実行してきました。
そもそもなぜ内製化が必要だったのか?Fast Retailingの理由としては、ブランド力を高めるために国や地域で同じプラットフォームを展開し、スピーディーなアップデートをグローバルで常時実行することが必要であり、そのための解決策が内製化だったのです。
もちろんシステムはかなり大規模な開発となるため、そのすべてを自社で開発するというのは難しく、協力会社の力を借りてハイブリッド体制でプロジェクトを実行しています。ですが現在ではかなりの規模のエンジニアリングチームとなり、非常に多様性のあるグローバルエンジニアリング組織になっています。
これができた理由は何か?まず一つは全社を挙げて本気でDX・内製化に取り組んできたことが成功の大きな一因です。やはり非IT企業では経営陣がITの重要性を理解していないと、成功させるのは難しいでしょう。またエンジニア向けの説明会を実施したり、給与水準もグローバルスタンダードの水準に近づけようと努力していることも一因と言えます。
カインズ
ホームセンターでお馴染みのカインズですが、こちらも内製化を成功させている一例の代表と言えると思います。
実は2019年からエンジニアを大量に採用し、わずか10人にも満たなかったデジタル戦略本部のメンバーが、今や200 人近くにまで増えています。
この背景には、次なる成長に向けてデジタル戦略の強化を進めたいという思惑があったためです。迅速にデジタル施策を打てる強い小売業を目指すには内製化が不可欠と判断され、推薦されました。
ではカインズの内製化がうまくいった理由はなんなのか?一言で表すと「グローバル」です。
外国人エンジニアの採用を積極的に進めたことに加え、タタコンサルタンシーサービシズ(TCS)との提携も行われました。これによりインド・チェンナイのTCS 施設内にカインズ専用のオフショア開発拠点(CAINZ Offshore Development Center=CODC)を開設しました。TCS のグローバルなリソースとケイパビリティを活用し、さらに開発スピードを上げていく狙いです。
この結果、内製化したデジタル組織の開発能力は2倍になり、コストは15%削減できたという目覚ましい結果を残しています。
あまり日本にはない技術エリアにもチャレンジして、いろいろな付加価値の付いた店舗を実現するため、内製チームの拡大を進めています。
星野リゾート
ホテル業界で大きな成功を収めている星野リゾートですが、現在情シス部門は50名規模と拡大してきています。
日本で新型コロナウイルスの感染が拡大した際に、運営する宿泊施設でIoTを使い3密を回避するためのシステムを6週間で開発したり、政府がGoToトラベルキャンペーンを始めた際には対応の予約サイトをわずか2週間で開発するなどしてきました。この迅速な対応によって落ち込んだ宿泊予約数を急回復させたという貢献もあったのです。
実は星野リゾートの内製化は、近年で行われたものではなく、最初にこの動きがあったのは2010年頃にまで遡ります。これは他の会社に比べて異なり紆余曲折があったストーリーになっています。
初期の段階は、「ひとり情シス」期が2003年から2007年まで続いた後、一時は8人体制にまで拡大しました。そこで2010年頃、内製化にチャレンジしようと動き始めます。
この頃オフショア開発が流行っていたこともあり、インドでのオフショアにトライ。3年間トライしましたが、つくりたいものと違うものが仕上がってきて、修正をかけることになり、「費用は低くても3倍工数がかかって、品質ではマイナスになるような状況」だったため断念。
ただ会社はどんどん成長していったので、一旦またベンダーに依頼する形に戻しましたが、内製化を諦めたわけではありませんでした。
ベンダーやコンサルに自分事としてプロダクトを作ってもらうことは難しいと判断したことから、新たな策に出ます。それは現場をよく知るメンバーをプロダクトオーナーに立て、チームを作るという方法でした。この方法で新規のプロダクト開発はうまくいったもののやっぱり運用フェーズになるとなかなかうまくいかない。
そこでエンジニア採用に後ろ向きだった経営陣を説得するため、まず1人採用し上手く回ったことでさらなる採用に踏み切ったそうです。
セブン&アイ
こちらは残念ながらあまり上手くいっていない事例として取り上げられることが多いようです。
これまで大手SIerがほぼ独占でシステム開発をしていましたが、2019年10月にエンジニア専用の採用チームを立ち上げ、2020年4月にDX戦略本部が発足。既に2021年6月までに約160人のIT/DX人材を中途採用しました。
ところが2021年秋、DC戦略を統括していたトップがグループを去り、1,200億円を投じて推し進められていたDX戦略の撤回が発表されました。
この理由としていくつか考えられているものがあります。
まず一つは、DXが難しい環境だったのではないかと言われています。これは経営陣の本気度であったり、社内政治が問題だったのではないかという声もあります。
もう一つは、DX人材の優遇が現場の反感を買ってしまったとも言われています。これはDX人材だけ研修が免除されたり給与が高かったりしたことにより、現場の不満が大きくなってしまったということだそうです。
ここでご紹介した企業はほんの一例に過ぎません。その他にもエディオンであったり、良品計画や東急ハンズ、ニトリ等も内製化を進めています。子会社を作ってそこで開発を進めたり、外国人を積極的に採用したり、様々な工夫をしながら進めているような印象です。
実例から見る内製化のポイントとは?
いくつかの例を見ていく中で、成功している企業に共通している2点を整理していきたいと思います。
①経営陣が本気
本気で内製化をするというのは、組織に大きな変革を起こさないといけないということです。
中小企業であればボトムアップで変革していくことも比較的容易ですが、大手企業となるとそうはいきません。
これほどの大きな変革には強いリーダーシップが必要であり、そもそもトップが内製化に協力的でないと難しいと考えられます。もっというとトップが積極的に主導して内製化を行うくらいの本気度が成功に繋がっている要因の一つだと考えられます。
②採用力があるか
現在の転職市場は完全にエンジニア側が強い構造になっていると言っても良いでしょう。それくらいどこの会社もエンジニアを採用したくて必死です。
今回紹介した例はBtoCの会社が多く、私たちにも非常に馴染みのあるよく知った企業が多かったと思います。これらの企業が採用できている理由の1つが、そもそも知名度が高いことが関係しているのではないかと見ています。
もちろんエンジニアにとって働きやすい環境を整備したり、給与面などの待遇を良くするといった努力もありますが、名の知れた企業の方が人が集まりやすいのは妥当だと考えます。そういう意味で採用力があると言えるでしょう。
逆にそういったアドバンテージがない場合、採用力を高める努力がより必要になってきます。
ではこの2点が揃っていれば成功するかというと、そんな簡単な話ではないという気もしています。中には内製化を断念している企業もありますので、転職先として選ぶときはご自身でも企業をジャッジする意識を持つことが重要です。
今後の内製化の方針や現状の課題、それをどう解決していく見通しなのか等、面接の中で質問して頂くと良いと思います。
今後内製化の動きは活発化するのか?
事業の成長にDXやITは欠かせなくなっており、内製化を進めたい企業の数は増えるはずです。
ただし上手に進められるかというと、上手くいく企業とそうではない企業に分かれる可能性は大きいです。
特に内製化の上で難しいと思われるのは「採用」です。今後間違いなくエンジニアが不足すると言われている中で、日本人の情報工学科出身の方だけを採用していくのは非常に困難です。
とはいえ未経験・微経験のエンジニアを育てる労力はかけられないという会社さんもいらっしゃると思います。そんなとき注目したいのが外国籍エンジニアです。
もしかするとオフショア開発で苦い経験をされた企業さんもあるかもしれません。ですがオフショアという形ではなく社員として入ってもらい、重要なポジションになるエンジニア(ビジネス側と接続できるような方)はバイリンガルで英語も日本語もできる方を置くというやり方が、一つの解決策になるのではないかと思っています。
外国籍エンジニアが内製化のキーとなると私は考えていますが、やり方が分からなかったり、やる前から不安を感じ中々一歩を踏み出せていないのではないでしょうか。
もしグローバルエンジニアリングチームを立ち上げたい、その可能性も考えたいという企業様がいらっしゃいましたら、ぜひ情報交換をさせて下さい。
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