初日の出

口を馬鹿みたいに大きく広げて、ゆっくりと溶け落ちてくる虹の雫を受け取ります。

悴んだ手を分厚いコートのポケットに入れたまま、通りすがりのマラソンランナーに会釈します。

少し山を下ると展望台があって、お正月になると町の人達がみんなそこに集まって同じ初日の出を寄り添って眺めます。

山の頂上から見える景色はいつも靄がかっていて、思うように景色は見えないけれど、見上げれば世界一綺麗な大空が4光年先までくっきりと見えました。

私は今日もまたこの山頂でぼんやりと、さして何かを期待するわけでもなく、ハガキくらいの大きさの緑色の紙をポケットから出し広げて、朝日にかかげて見つめるのでした。

何か気に詰めた事があるとこうして、かつてここで出会った不思議な一時を、もう再び出会うことはないと分かっていながら、どうしてもまた戻ってきてしまうのです。


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