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陰謀論について語りたい──【書評】チャック・パラニューク著『インヴェンション・オブ・サウンド』

SNS台頭後、ハリウッド映画は作品に「語る仕掛け」を織り込んでいる。そのために、一見普通に楽しめる映画に敢えて違和感のあるものや雑なものを投げ込んで、人々に「あれは変だろ」と指摘させ、その議論まで計算してメッセージを伝えることまである。……そういった手法を小説界に持ち込んでいるのが、映画「ファイトクラブ」原作者のパラニュークだ。

パラニュークの18年ぶりの邦訳作『インヴェンション・オブ・サウンド』は、ハリウッド映画の音響技師ミッツィと、誘拐された娘が児童性犯罪者の餌食になったのではと疑うフォスターが視点人物の作品である。

ミッツィは映画で人が殺されるシーンに使う悲鳴づくりを得意としている。その悲鳴は聞くものをパニックに陥らせる。なぜそれほどの力を持つか。それには秘密がある。実はその悲鳴を録音するために、──薬物漬けのミッツィは、その録音の様子を覚えていないけれども──実際に人を殺しているのだ。ギャー!

一方、フォスターは娘を探すために、日々児童性犯罪者の違法動画サイトを漁る。モザイクがかかっていようと、タトゥーや手の形などから犯罪者の特徴を探り、携帯に自前のデータベースを作って特徴に合う人物を見つけ、捕まえようとする。間違って無実の人を吊し上げ、その過程で自分がお尋ね者になってしまったりもする。

こんな2人が、落ち目の元人気女優の復帰目当ての自作自演誘拐劇に巻き込まれる形でつながり、その結果、フォスターの娘に起こった出来事やハリウッド映画界全体を激震させる大掛かりな組織的犯罪が明らかになっていく。阿鼻叫喚のクライムサスペンスと、息もつかせぬどんでん返し。悲鳴たっぷりで恐ろしい出来事がじゃんじゃか起こり、ページをめくる手が止まらない。

そして読み終わり、ハタと気づく。あれ? あれとあれ、回収されてたっけ? てか、これ、要素があまりに経済的に使われすぎてない……? 政府が絡むって何……? 何か読み飛ばしたっけ……

むずむずしたまま、本の最初に戻る。すると、気づくのは、冒頭の「──たかが映画と信じておけばいい(Keep Telling Yourself It’s Only a Movie)」という警句。小説だからフィクションに決まっているのだけれど、もしかしたら、作者はこの話を信じてもらおうとは思ってないのでは……。

そう考えると、原書のやけにキッチュなピンクと黄色の表紙や、やたらにわかりやすい原書の言葉遣い、アクロバティック設定が意味深に見えてくる。

キッチュ。

そしてタイトルの「The Invention of Sound」。初独時には「効果音の創造」を意味すると思っていたこの言葉は、「無意味な騒ぎのでっち上げ」と取れるように思えてくる。(soundは耳から入る音全てを意味し、inventionには「でっち上げ」という意味もある。)

この話は陰謀論をおちょくる話ではないのだろうか。映画の悲鳴か本物だった、だなんて、映画界の陰謀論でしかないよね。作品内でも謎に「陰謀論」って書いてあるし、この作品は2020年、陰謀論が吹き荒れたトランプ政権下のアメリカで発表されたし。パラニュークはジャーナリズムを専攻した、元新聞記者でもあるし。

…と、とにかく語りたくなってしまうのだ。ねえ、あなたも読んでみて。読んだ人と、やいやいと語り合いたくなること請け合い。私のような読み方をした人は仲間内にはいなかったから、あなたの感想はまったく違うかもしれない。

(想定媒体:ブログ 1406文字)

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先日、翻訳家向け書評講座に参加しました。
講師は書評家の豊崎由美さん。課題は、チャック・パラニューク『インヴェンション・オブ・サウンド』か、自由課題かのどちらかを選んで800字〜1600字で書評を書くというものでした。

そこで私、ぶっちぎりの最低点をとりまして。0点連発の最低点。その書評はちょっと講座のマガジンに入れてもらうとおかしなことになってしまうので、こちらで見ていただくことにして、反省して課題だったパラニューク『インヴェンション・オブ・サウンド』も読んでみました。あまり読まないタイプの本だからおっかなびっくり読みました。

でも、読んでみたらどうしても語りたくなった。ということで書評をガーっと書いてみました。つまり上記は講座には出していないものになります。荒い。でもみんなも読んで。そんで、語ろう。

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FelixSayaka
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