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『くじらぐも』にのって

さやか星小学校 教務主任・第1学年担任 島岡次郎

 天を衝くような巨人が、空をキャンバスに、自由自在に筆を走らせる。真っ白い絵の具が、まるで生き物のように空を駆け回る。そんな空想をしてしまうような雲空を、子どもたちがりんごのように赤い顔で見上げる。真っ先に駆け出した女の子が、「あの雲が、『くじらぐも』だよ!」と、空に浮かぶ一番大きな雲を指さして叫ぶ。その言葉を合図に、子どもたちが手を繋いで円を作る。まるで、校庭に最初から描いてあったかのような、綺麗な円。空から『くじらぐも』が呼びかける。「ここへ おいでよう。」子どもたちも、身体中から空気を集めて叫ぶ。「天までとどけ、一、二、三!」全力で跳んだけれど、身体は地球が発する重力に引き戻されて、校庭に着地する。また、『くじらぐも』が呼びかける。「ここへ おいでよう。」子どもたちは、さっきよりも声を響かせて跳ぶ。「天までとどけ、一、二、三!!」地面を蹴った子どもたちは、「あの雲に乗れる」と信じて疑わない。だけど、地球と人間の楔はそんな簡単には断ち切れない。1秒後には、やっぱり地面の上。それでも、『くじらぐも』は呼びかける。三度目も、同じ言葉を。「ここへ おいでよう。」子どもたちも、同じ言葉で応える。「天までとどけ、一、二、三!!!」子どもたちの身体は地球の上から離れないけれど、心は身体を飛び出して、確かにあの『くじらぐも』の上に乗った。そして、『くじらぐも』の上から星を見た。子どもたちが大好きな、さやか星を。