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学校で学ぶことの意味
さやか星小学校 教務主任・第1学年担任 島岡次郎
2月20日(木)の朝,外に出ると今までとは違う刺すような寒さに覆われました。気温は氷点下10度。呼吸をすると肺の奥が凍るような,「寒い」というより「痛い」と表現した方が適切な感覚。白い着物を纏った八ヶ岳を眺め,「ああ,自分は今,長野にいる,佐久にいる」としみじみ思いながら,1日が始まりました。
考えを伝え合う
学校の授業でしかできない学びとはなんだろう(体育や音楽など集団で学ぶことが多い教科は除く)?教師になった時から,いつも考えていました。四則計算の概念を学び,練習問題を解いて流暢性を上げることは一人でもできます。漢字を書くことも,文章を読むことも,歴史を学ぶことも一日の気温の変化を調べることも一人でできます。では,一つの教室に集まってみんなで学ぶ意味ってなんだろう。その答えを,私は表紙の写真の子どもたちの姿に見ました。それは,友達の意見を聞いたり,友達に意見を伝えたりする学びではないでしょうか。
小学校1年生最後の算数科の単元は,「おなじ かずに わけよう」という割り算につながる単元でした。導入で,「12個のチョコビスケットがあります。2個ずつ分けると,何人に分けることができるでしょう?」という問題をみんなで考えました。「2個ずつのまとまりに分けると6個のまとまりができるから,6人に分けられるよね。」と最初から教師が説明し,混乱なく問題を解けるようにするのも教え方として正しいと思います。私も,多くの授業では全ての児童にとって発言が容易な発問を多用し,たくさん反応を引き出してたくさん強化するようにしています。そして,子どもたちが混乱しないように学習課題を丁寧に説明し,全てのお子さんが理解できるようにします。しかし,子どもたちが考えたそれぞれの解き方を説明し合うことで,説明する行動と,友達の説明を聞く行動を意図的に強化することも必要だと考えています。この授業ではそれを目的とし,児童が自分の考えを説明する活動をメインに据えて展開しました。
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A子さんが自分の考えをホワイボードに書き込みながら発表すると,B男君が「ああ〜,なるほど。」と呟きます。B男君はA子さんの説明で問題の解き方を理解しました。友達の説明を聞けば問題の解き方が分かる。これが好子になって友達の説明を聞く行動は強化されます。A子さんは,自分の説明を友達がおへそビームで聞いてくれることや,B男君の「なるほど」という納得の言葉で説明する行動が強化されます。このような学びは,やはり学校ならではだと私は思います。ただし,こうした随伴性が生じるようにするためには,説明を求められる課題の難易度が,多くのお子さんにとって「他の子どもにも理解できる説明ができる程度」である必要があります。どんな課題でも「とりあえず伝え合いだ!」と子どもに説明させる授業を展開すれば,前述したような強化の随伴性が生じず,「説明が伝わらなかった」経験や「友達の説明を聞いても理解できなかった」経験を積み重ねてしまい,説明する行動も説明を聞く行動も消去されてしまう危険性があります。
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この授業の学習課題は,生活場面でも多くの児童が経験している可能性が高く,教材も操作できるように工夫したので,概ね間違えずに説明できるだろうと判断し,説明をメインにした授業に踏み切りました。結果,ほぼ全員が自分の考えを発表することができました。もちろん,上手に説明できないお子さんもいました。それでも,友達の説明を聞いてから再チャレンジするなど,一度や二度の間違いでは挫けず挑戦する行動も身についていることが確認できました。何より,友達の説明を聞く時の子どもたちの姿が素晴らしかった。説明をする友達に身体と視線を向け,時に頷き,時に首を捻りながら説明の内容を自分の血肉に変えようと積極的に聞いていることが伝わってきました。自分の説明をしっかり聞いてもらった子どもは,友達の姿をモデルとして聞き方を学びます,学び合いは,話の聞き方という行動レベルでも発生させることができます。教員として駆け出しの頃,「良い学び手を育てることは,良い聞き手を育てることから始まる。」と大先輩から教わりましたが,その意味を教えてくれるような子どもたちの姿でした。
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自分一人だけで思考を広げるには限度があります。だからこそ本を読んだり,他者の意見を聞いたりすることで自らの思考の領域を広げていきます。本は一人でも読めますが,他者の話を聞くのは一人ではできません。それができるのが,学校という場所で学ぶ真の価値なのではないかと私は思っています。
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