見出し画像

【エッセイ集】家に帰ってプリキュアになる


東京に超してきて / 2024.8.16

東京に越してきて、居心地が不安定になってしまった。
私は毎日悩んでいる。私に明日に、来年に。人生、未来に。人間関係に。これが働くという事か。社会人になるという事なのか。随分人間的になったものだ。人間的?思考を見つけたサルとでもいうべき?
過去の副産物は今でも足にしがみついて離れないし、根底の性格は変わらずそこの抜けのおバカは健在だけれど、それでも自我を失わせてくれない東京で生きている。生きていく。
越してきた時は毎日嫌で仕方がなかった東京も、慣れてしまえば存外悪いものでは無い。人が多い割に、集団心理なんてクソくらえのごった返したアイデンティティ。拒絶と肯定が沢山あって澱むのには丁度いい。人が多い。こうやって人の人生のピースの1枚になっていく感覚は、酒の肴ばりにクセになる。
こうやって単純に馴染んでいく自分が、とっても虚しくて嫌いだ。


煩い・喪失 / 2024.8.19
かつて好きで愛していたもの達を、それほど大切だと思わなくなると、時の移ろいを身に染みて感じる。経験とともに価値観が変化し、尊いと思っていた瞬間を欲さなくなり、ただ安定した生活に落ち着いてしまう。それが幸せな生活なのかと言われればそうではなくて、ただ昔大切だったものを眺める空虚でくたびれた存在になってしまった事を自覚させられてしまうのだ。単に疲れてしまっただけかもしれないが。
昔の自分が好きな空間や瞬間が、好きだった場所や時間だと気づいた時の寂しさってなんだろう。童心を失うことの寂しさ。変化を楽しめない寂しさ。箱にしまった昔の宝物は、今は使わないのに捨てられない。人はこうして歳をとっていく。これからは何にワクワクできるのだろう。それもともうワクワクする時なんて来ないのかしら。


「京都」人の生き方 / 2024.8.20
東京は生命力がないと生きていけない。機械的にみんなスマホを構えて歩いているけど、ガソリンみたいに燃えてくれる燃料を多分持っている。「生きる」か「死なせて貰えない」の二択しかなく、自我を保つのが大変なのだ。
私の心の中に燃料はあるのだろうか。京都という町が緩く適当に生きることを許してくれたせいで、儚く自由に生きたいなんて思うようになってしまった。京都は海で、漂う空気に乗っかっていれば生きていける。タツノオトシゴのように、居心地のいい場所を見つけては緩く滞在し、エサ「楽しみ」が無くなるとまたフラフラと漂う。それが自由でかっこいいと思ってしまう、厨二病的な生き方に憧れてしまったんだ。


酩酊 / 2024.8.23
人は自分に酔うことで生きている。
みてごらん、あんなに幸せそうに。
たとえば、音楽を嗜む自分に。
たとえば、運動を頑張っている自分に。
たとえば、仕事を頑張っている自分に。
たとえば、毎日自炊している自分に。
たとえば、丁寧な暮らしをしている自分に。
たとえば、お風呂に入れた自分に。
たとえば、お酒を飲んで素直になれる自分に。
どうしてみんなあんなに幸せそうなんだろう。誰も口にこそ出さないけれど、あぁこの自分が好きだという瞬間があって、その酔いが人を人間の形に留めているのかもしれない。みんなエゴで生きていると思っている。そう思わないと、私は自分の形が保てない。


アップルミント / 2024.8.26
アップルミント。私は将来アップルミントと暮らしていきたい。満足感の、充足感のある生活をしたい。行き当たりばったりで生きていくことに疲れてしまった。丁寧な暮らしがいい。
庭にたくさんハーブがある生活。最初に植えるのはアップルミント。夏になったらつまみ食いをしながらミントを摘んで、ミントティーを冷やして飲む。すだれと風鈴と風が、少し汗ばむ程度に体感温度を下げてくれ、夏を楽しむ生活をする。セミの声にほころべる心の余裕が欲しい夏だった。


宵っ張りが恋しくて / 2024.8.27
夜更かしが出来ない身体になった。お酒にも弱くなった。これが社会に適合していくことだと言うならば、私は社会の異物でいたかった。夜更かししても朝から忙しい生活は慣れっこだったのに、「仕事」という責任を無意識で感じとってしまっている。お酒を飲んで翌朝起きれない身体は、「平日は飲まずに帰って寝ろ」と囁いて、私を社会の兵隊にしていく。夜更かしが恋しいのは贅沢なことなのだろうか?飲み明かして、夜更けに帰った徹夜明けの疲労感さえ今は恋しくて。


家に帰ってプリキュアになる / 2024.8.29
平日は、家に帰ってプリキュアになる。5時過ぎに退勤し、1時間かけて帰宅。
ガチャン。「ただいまぁ〜」
仮面を外して、偽りの姿から本当の私へ。堅苦しい服を脱ぎ捨てランパンとTシャツに。ピアスを外してメイクOFF。コンタクトを外して、前髪をあげてバッチリ髪型がキマったら、缶ビールのステッキを手にして。素敵。ミュージックに乗って踊りながら、私のための時間を始める。
いつだって私は、私の味方だから。私を鬱屈とした社会の闇から救い出してくれ。「光の使者!キュアホワイト!」悩みを吹き飛ばして、愉快に暮らせますように。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?