【世界の彷徨い方】片道切符だと日本脱出できない話
まずはエジプトに1年住もう! と思い、1999年初めての海外一人旅で空港に向かいます。何もかも初めてのことばかりでまったく何にもわからないけど、当時はまだインターネットもそんなに普及していなかったので、どっちにしろ手に入る情報が「地球の歩き方」ぐらいでした。
当時は奈良に住んでいたので、在日エジプト大使館で情報収集することもできません。情報がないなら出たとこ勝負で、怖いもの知らずになるしか他に方法はありません。
(あ、今はダメですよ。中東はいつも政情不安定ですし、テロや戦争の危険もありますから、インターネットでちゃんと最新情報を入手してください!)
さて、エジプトのビザはカイロ空港で取得できる、というのは有名な話でした。観光立国エジプトは観光客ウェルカムなので、ビザも取得しやすくしてくれています。最初の滞在許可は1か月ですが、現地の市庁舎で申請すればその後1年ごとに簡単にビザが延長できる、というのが当時の常識でした。このため、エジプトはバックパッカーが沈没(1つの宿で長期滞在すること)しやすい国だったのです。
何の疑問も持たず、私は日本で事前にビザを取得することなく、成田空港に向かいました。成田からはエジプト行の直行便が出ています。初の海外一人旅なので、直行便なら間違いなく送り届けてくれる。向こうに着きさえすればこっちのものです。
まずはエジプトに1年住んで、そのあとシリアに1年住んで、あとは無計画で地中海を回って帰る予定でしたから、当然、飛行機のチケットは片道切符でした。これも何の疑問も持たずに。
ところがです!
いざ空港について出国の手続きをしようとすると、足止めを食らってしまったのです。
「片道切符でビザがないんですか?」とカウンターのお姉さん。
「はい、ビザは向こうの空港で取れますし、そのあと別の国に行くので」
「でも、これだと出国させることはできません」
「……え?」
出発時刻まであと2時間なんですけど。
「往復切符なら問題ないんですけど」
「だから、2、3年住むつもりなので」
「それなら、エジプトのビザが必要です」
「ビザは向こうの空港で取れますよね?」
「この場合は、在日のエジプト大使館でビザ取得が必要です」
「……え?」
出発時刻まであと2時間なんですけど。
はい、今だったらよーくわかります。
ビザが必要な国にビザなしの人間が来て、しかも片道切符だったら、それは亡命扱いなんですよね?
エジプトのビザは空港で取れる。←これは正しい。
2年以上住むなら片道切符を買う。←これも正しい。
ただし! この2つを組み合わせてはいけなかったのです!!
いや、無知とは本当に怖いものです。
しかも私は、民間の航空会社が、出国の許可・不許可を決定できるのだということもその時初めて知りました(だって、税関じゃないんですよ?)。
とりあえず、刻一刻と迫る出発時刻。下手したらビザ取ってもう一度出直せみたいな空気になっています。
「往復切符を買ったら出国できますけど?」
とお姉さんから提案が。ところが、空港ですからバカ高い正規料金です。そんなお金、今すぐに支払えません。
「なんとかなりませんか? ビザは空港で取れるのは間違いないですし、その後、陸路で他の国に行くということは伝わりましたよね?」
「でも、条件の合わない人を出国させるわけにいかないんです!」
ここはお役所か? と思いましたが、まあ、悪いのは私の方です。
その後、お姉さんもさすがに気の毒だと思ったのか、新たな提案をしてくれます。
「エジプトからビザのいらない近くの国に行く片道切符を買ったら認められます。現地で切符を解約したらお金が戻ってきますよ。一番近い国はトルコですね」
なるほど。それならとりあえず亡命の疑いは建前上なくなるという訳です。しかもなんとか支払える料金です。ありがとうございます!!!
というわけで、ギリギリ時間に間に合って、無事脱出することができましたが、初日から波乱の幕開けです。日本を出るのが一番難関だとは思いませんでした。こんなことでこの先だいじょうぶなんでしょうか。
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