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祈りの歌<GUIL ver.>

※アニメ『ヴィジュアルプリズン』二次創作SSです。
このページはギルバージョンです。イヴバージョンの先読み推奨。
イヴバージョンはこちら

↑ SSの元になった思い付きツイートです。漫画が読みたい…!

祈りの歌<GUIL ver.>

”務め”の晩、イヴはいつも何も言わずに家を出て行く。
そして明け方にふらっと帰宅したかと思うと、そのままシャワールームに直行してしばらく出てこない。
時折、打ち付ける水音に交じって、かみ殺した嗚咽が響くこともあった。

俺は会話が苦手だ。そんな時に掛けるべき言葉も見つからない。
それにイヴだって顔を合わせたくはないだろうと、”務め”の後には自室から出ないようにしていた。
そんなことが幾度か繰り返され、静かな日常として定着していた。

ところがどういうわけかアンジュとロビンという同居人が増え、更には俺の不注意もあって、二人がイヴの秘密を知ってしまった。
「いずれ偽りはバレるものだ」とイヴは静かに言ったが、二人が来てからの賑やかすぎるくらいの日常をイヴが気に入っていたのは明白で、それを捨てて姿を消すのを黙って見ているのはさすがに酷と言うものだろう。

結局二人の説得もあり、イヴはハラジュクに留まるだけでなくO★Zのメンバーとなった。
そして俺もメンバーの一員となって再び歌うと決意した。

その数日後、イヴがコーヒー豆とパンニャの餌を買いに行った隙に、アンジュとロビンが俺の自室を訪ねてきた。

「ねぇギルさん、イヴさんって…”務め”?の後はいつもあんなにつらそうなの?」
「多分な」
「多分?」
「え、どういうこと?」
「人には放っておいて欲しい時もあるだろう、それに言いたいことや聞いて欲しいことなら、そう言えば良い」

だから”務め”の後には特に声を掛けないのだと簡潔に説明してやると、ひどく不服そうな反応が返ってきた。

「「えええー?!」」
「ギル、それはさすがにちょっと…」
「ないない、それはない!何でそんなにcoolなのさ!?」
「パニャ!パニャニャ!パンニャー!」

子ども二人に加えてパンニャまでが何やら抗議してくるが、何を言っているかはわからない。
わからないが、褒められているわけではなさそうだ。
やはりエリザベスに頼んで言葉が通じるようにしてもらう必要があるかもしれない。

「え、ねえ、ギルさん、何か今物騒なこと考えてる…?」
「ギル、顔が怖いんだけど…」
「パ、パニャ…」
「つまり、俺のフォロー不足だと言いたいわけだな?」
「う、ま、まあ…」
「わかった。次の機会があれば俺も然るべきフォローをしよう」
「フォローって…?」
「イヴに適切な言葉を掛けて労われば良いのだろう?」
「そうだけど…ギルさん本当にわかって言ってる?」
「当然だ。そろそろイヴが戻って来る頃だ。お前達も部屋に帰れ」

同居人というだけでなく、同じユニットのメンバーになったのだ。
そしてメンバーの半数(とおまけの一匹)にフォローが足りないと言われるのなら、今後改善していく必要があるのだろう。

「ねえアンジュ…」
「何?ロビン」
「ギルさんに任せても絶対上手くいきそうにないから、僕達でフォローしようね」
「パニャー…」
「うん…でもロビンはともかく、俺にフォローなんて出来るかな」
「アンジュ、僕達を繋ぐものって何だと思う?」
「!…歌」
「That's Right!アンジュにはアンジュにしか出来ないことがあるでしょ?」
「…うん。俺、部屋に戻って作曲の続きする!じゃあまた後で」
「うん、頑張ってね。…さて、僕はイヴさんの枕でも買いに行こうかなー。今使ってるのってゲスト用だし」
「パニャー?」
「パンニャはイヴさんのそばにいてあげて」
「パンニャー!」

部屋を出てから二人と一匹の間で交わされた会話を俺は知らない。

かくしてその数日後、”次の機会”がやってきた。
俺は会話が苦手だ。だが、コーヒーくらいは淹れてやれる。
イヴがシャワーを浴び、リビングに戻って来る頃合を見計らって用意をした。

コーヒーを挟んでテーブルに着く。
やはり顔色は冴えず、どことなく雰囲気も暗いが、平静を装う努力をしているのが手に取るように分かった。
イヴは他人に気を遣いすぎる。おまけに色々と考えすぎるのも悪い癖だ。
そんなものはコーヒーでも飲んで忘れてしまえば良い…そう伝えようとした時、ふとリビングのドアの前に気配を感じて言葉を切った。

わずかに開いたドアの向こうで、パンニャを抱えたアンジュが心配そうに覗いている。
その後ろでは、ロビンが何とも言えない顔でため息をついていた。
…どうやら俺のフォローは失敗したらしい。
だったら二人でフォローしてみろと目で促して、俺はコーヒーに口を付けた。

数分後、コーヒーを飲み終わり、二人とパンニャの影響で表情が少し明るくなったのを確認して席を立つ。
他愛のない会話でも、こういう場合はずいぶんと慰めになるようだ。
俺には難しいが、これからはこの二人がその役割を果たしてくれるだろう。
ならば俺はコーヒーを用意して、その会話に耳を傾けていよう。

「イヴ、子どもと一緒にさっさと寝ろ」

俺たちの会話に笑う元気が出てきたのなら、もう大丈夫だろう。
パンニャを受け取って自室へと向かうイヴを見送る。

「ところでロビン、その枕どうしたの?」
「あ、これ?イヴさんへのプレゼント!いっつも美味しいご飯作ってもらってるお礼に」
「え、本当に?プレゼントもらうのなんて初めてだ…ありがとう、大切にするね」

先程から早く寝ろと言っているのに、話は尽きないようだ。
廊下から聞こえてくる会話を背にカップを洗う。

沈黙でもなく、慟哭でもなく、明るい笑い声が家に響く。
俺は騒々しいのは好まないが、不思議とその響きは温かい歌のようで心地良かった。

歌は届く。
アンジュが俺の歌を頼りに30年もの時間を超えてこのハラジュクにやってきたように。
そしてロビンが歌声を聴いただけで兄のジャックを探し出したように。
…俺と豊がこのハラジュクで出会ったように。

イヴの歌は、自身を呪い、天罰を与えられることを望みながらも、奥底では救いを求めて祈っていた。
幸いにもその歌はアンジュとロビンに届いて、O★Zとなった。

これからはもっと温かい歌が紡がれるだろう。俺たち四人によって。


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今後二次創作はpixivに公開します。


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