祈りの歌<EVE ver.>
※アニメ『ヴィジュアルプリズン』二次創作です。
O★Zメンバーの日常の一コマ。
苦手な方は回れ右でお願いします。
朝ボーッと通勤電車に揺られていたら、ある場面が頭に浮かんだのでツイートしたのですが↓
待ってるより自分で書いた方が早い&待ってますという有り難いコメントをいただいたので、SSを書くことにしました。
(本当は絵が描けたら良かったのですが、無理でした。。。)
同じ話をイヴとギルそれぞれの視点で書いたら面白そうだと思ったので、まずはイヴバージョンから。
祈りの歌<EVE ver.>
”務め”の後には必ずシャワーを浴びる。
体にまとわりつく陰のような穢れを、なるべくこの家に持ち込みたくはないから。
けれど温かいシャワーを浴びているはずなのに体は冷えたままで、どれだけ洗っても染みついた血の匂いは消える気がしない。
そんな感覚を振り払うように雑に体を拭いて、部屋着に着替えた。
ギルが住むこの家で、共に暮らし始めて10年。
”務め”に出て行く時も、そして帰ってきた時も、言葉を掛けられることはない。
特に帰宅時はギルが起きている気配はしても、自室から姿を見せることはなかった。
それが彼なりの配慮なのはわかっていた。
10年も一緒に暮らしているのだから、彼が言葉足らずで、かつ彼自身が思うよりも優しいことくらいは知っている。
”務め”についてはあまり聞かれたくないし、話したくもない。けれど、身勝手なことにそれが少し寂しく感じることもあった。
だから、今日リビングの扉を開けたらギルが立っていた時には心底驚いた。
「ギル…びっくりした、どうしたの?」
「別に。ただコーヒーが飲みたくなっただけだ」
「そ、そっか」
「お前も飲むだろう」
「あ、ありがとう」
戸惑いながらも差し出されたカップを手に腰を下ろす。
「温かい…」
「今淹れたばかりだからな」
「そういう意味じゃないんだけどな」
「わかっている。ただ、お前は色々考えすぎだ」
真っ直ぐ自分に向けられた見透かされるような視線に、不器用な同居人に気を遣わせてしまったのだと気付いた。
「…うん、ごめんね」
「別に謝る必要はない。余計なことを考えずに…」
ギルが言い終わらない内に、声を聞きつけたのか、アンジュとロビンが揃って顔を出す。
アンジュはパンニャを、ロビンは何故か枕を抱えていた。
「イヴ、お帰りなさい」
「イヴさんお帰りー」
「アンジュ、ロビン、ただいま」
のそのそとパンニャが膝に上り、お帰りとでも言うように顔を擦り付けてくる。
「パンニャー」
「ふふ、パンニャも、ただいま」
明るく呼ばれる名前とパンニャの体温に、先ほどまで自分を覆っていた暗い陰が薄くなったような気がしてくる。
ホッとしてコーヒーに口を付けると、その芳香が体中を満たした。
「うん、やっぱりギルの淹れたコーヒーが一番美味しいね」
「そうか。飲み終わったらさっさと寝ろ。疲れは思考を暗くするからな」
「そうだね、ありがとう」
コーヒーを飲み終わると、ロビンが手を引きながら明るく尋ねた。
「ねえイヴさん、今日は一緒に寝よ?」
「本当に?そうしてくれると嬉しいな」
「もちろん!アンジュはどうする?」
ロビンに問いかけられたアンジュは、遠慮がちに首を振った。
「アンジュはまだ寝ないの?」
「あのさ、イヴ…俺、今新しい曲を作ってて、もうすぐ完成するんだ。起きたら聴いてくれる?」
「もちろんだよ。でも、楽しみで眠れなくなりそうだな」
そのまま新曲の話題で盛り上がっていると、業を煮やしたのかカップを片付けながらギルが声を掛けてくる。
「イヴ、子どもと一緒にさっさと寝ろ」
「ちょっとギルさん!僕もう子どもじゃないんだけどー?」
「子どもって言われて怒るのは子どもなんじゃない?」
「あーアンジュ!言っとくけどアンジュだって…って、イヴさん?」
堪えきれず肩を震わせる顔を、ロビンが慌ててのぞき込むのがわかった。
「ふっ、くくっ、ご、ごめん…笑うつもりはなかったんだけど」
「もう、イヴさんまで!ひどいよ」
「ごめんね、お詫びに起きたらうんと美味しいご飯を作るよ」
「絶対?約束だからね!」
「うん。さあ、寝よう」
ギルに抱えていたパンニャを渡しながら微笑みかけると、珍しく優しい微笑みが返ってきた。
「おやすみ、ギル」
「ああ、おやすみ、イヴ」
「パニャ、パニャー!」
「パンニャもおやすみ」
こんなに穏やかな時間を過ごせるだなんて、誰が想像出来ただろう。
ギルの他には名前を呼んでくれる人もおらず、獣のような本性を隠して終わりのない生を彷徨っていたのに。
突然目の前に現れたアンジュとロビンが、呪われた化け物の叫び声のようだと思っていた歌を、祈りの歌だと言ってくれた。
「今日は良い夢を見られそうだね」
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今後二次創作はpixivに公開します。
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