老後の夢とアイデンティティー
「お父さん、退職したら何したいか知ってる?」
と母に聞かれ、私はすぐさま、「今の会社で再雇用してもらって、もう少し働いていたいって言ってたよね?」と答えた。
「そうそう。でも、もし再雇用してもらえなかった、何したいって言ってると思う?」
「ん〜、お母さんと一緒に農作業すればいいんじゃないかな?せっかく、うちには畑あるしさ」
「畑は嫌なんだって。」
「え〜。そうなの?んじゃ、何?」
「あのね、お父さん、コンビニでバイトするんだって。」
と笑いながら母は言った。
もちろん私は、この父の浅はかな考えに愕然とした。
あんなにぶっきらぼうで、他人に笑顔なんて一切見せない父が、コンビニでバイトなんてできっこない。なんて、自己分析が不十分なんだ!と私は思った。そして、きっと私が瞬時に思ったこの考えは、母と一致しているであろうと、母の笑みから悟ったのであった。
老後の夢を持つことの重要性
私はよく自分が退職したらのことを考える。中学生の頃から両親と離れて祖父母の家で暮らしていた私にとって、きっと、老後は非常に身近なことだからかもしれない。
人に言わせれば、私はこれからの人。老後以上に考えるべきことがあると思われてしまうかもしれないが、私は老後の夢を持つことが今の自分の支えになると感じている。
一方、私の父は高校卒業してから、ずっと今の会社で働き続けてきた。今の会社に自分の人生を捧げるような働き方をしていたのだ。
どんなに理不尽なことがあってもグッと我慢して、家族のために働き続けている姿を見ると、尊敬する一方で、父にとって今の会社の肩書きがアイデンティティの一つになっているようにも感じる。
だからこそ、その会社を辞めた時、何十年とかけて形成してきた自分のアイデンティティが揺らいでしまうのではないかと私は心配している。
アイデンティティクライシスとは?
私は、過去に一度、自分は何者であるか分からなくなる、「アイデンティティクライシス」というものを経験したことがある。
アイデンティティクライシスという言葉を知ったのは後々のことだが、当時の私は、自分自身の何に誇りを持ち、どのような集団に混ざり、誰と友達関係を形成すべきなのか、社会的な立場が分からなくなり、毎日がしんどかった。
自分らしく生きよう
なんて、ありきたりな言葉をよく聞くが、アイデンティティクライシスに陥る時は、自分らしさが分からなくなる時なのである。
きっと、誰にでも起こり得ることなのだが、それがアイデンティティクライシスであると理解できる人は一握りであり、アイデンティティクライシスがどれほど辛いものであるかと、分かることができる人は、体験した人のみであろう。
アイデンティティクライシスに陥らないためにも
アイデンティティクライシスに陥らないためには、確固とした自分というものを持ち、自分の好きなことを知り、夢や目標を持ち続けることが重要であると感じる。
私の父にとって今の会社で勤めている自分の存在が、一番のアイデンティティであるのだが、仕事以外で好きなことを聞くと、特にない。
だから、きっと、「退職後はとりあえずコンビニでアルバイトをしようかな」という考えに至っているのだろう。
まぁ、そんな父のコンビニ話はさておき、私の話に戻そう。
人間にとって、老後は人生の大きな転換期なのだ。人によってはアイデンティティクライシスにも陥りかねないと思っている。だからこそ、老後の楽しみを考えるというのは、自分らしさを再発見する人間としての重要なプロセスであると考えるのだ。
私の年齢で、その老後の楽しみを考えるのは、早すぎるという意見もあるかもしれないが、物事を考えるのは人それぞれ自由であるし、それに、早すぎたり、遅すぎたりはしないと思う。
自由に自分の思考を膨らまし、好きな時に自分の好きなこと、やってみたいと考えることは素敵なことであると思うからだ。
私の老後の夢
もうすでに私は老後の夢を持っている。
それは、田舎の小さな街で喫茶店を経営することである。その喫茶店の自慢は、コーヒーである。ドリップだけでなく、サイフォン、フレンチプレスで自慢のコーヒーをいれる。可愛いモカポットがお店には並んでいるのだ。
ゆったりとした空間で、ふらっと読書をして長居したくなる。
そこには、地域に住んでいる外国人がふらふらと集まってきて、英語と日本語でくだらない話をして楽しむ。時には、将来の夢を語りあい、お互いに励まし合うのだ。
そして、時には、哲学カフェとしての役割を持ち、常連さん方が、絶対に起こり得ない架空の状況についての話を、永遠に語り合い、その状況を楽しむ。ただし、相手の傷つくようなことや、相手を否定するような発言をしないという道徳的なルールを設けて、純粋に楽しむ小規模な会が開会される。
お客さんが来ない日には、私はここの空間で文章を書いている。
この空間は、私の大好きなものがいっぱいに詰まっている場なのだ。私が人生を歩み、蓄えてきた知識や教養、そして経験が形として現れている空間なのだ。それを、お客さんは感覚的に、なんか面白い空間だな〜と感じ取ってくれることを期待している。そんな目では見えない私の空間を作りたい。
これが、私の老後の夢。でも、これが、できるかできないかは、今はどうでもいい。
ただ、これを考えていると、年齢を重ねることが楽しくて仕方がないのである。
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