靴下人生
夜が明けたら真っ暗だった。ここがどこかは分からない。いつもと同じ匂いだけどすこし埃臭くて、とにかく暗い。
少し冷たいような気もするし、ジメジメしているような気もする。上からはたまに、ギシギシ軋んだ音が聞こえてくる。とにかく居心地は最悪だ。
いつもの場所にはいつ帰れるのだろう。分からないけど、自分で動くことは出来ないからそこでジッと待つ。見つけてくれる日をただジッと待っている。
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いつまた会えるかは分からない。
なんとなく、遠くにはいない気がしてギリギリ精神を保つ。
「また」は明日かもしれないし、3週間後かもしれないし、5分後かもしれないし、来シーズンかもしれない。
でも捨てられたわけじゃないから。
たぶんまた会えると思う。そう思いながら今日も1日を過ごす。
パチリと目が覚める。心地よい光を浴びながら身支度をする。
いちばん最後に準備するのはいつも靴下で、でもコイツがいちばん厄介だったりする。
絶対に捨ててないし、外に落とすわけもない。履いてるし。
足が気になってしょうがなくても、さすがに脱いで脱ぎっぱなしとかはない。失くす機会はめちゃくちゃ少ないはず。鍵とかのほうがよっぽど危ない。
そう思っているのに、
やっぱり家を出る寸前で手元にある靴下は1枚。
95%その謎は闇に消えていくし、普通に七不思議だ。「絶対に消えない靴下」もいい加減開発されてほしい。
いつの間にか消えてる靴下は夜の学校よりよっぽどこわいし、靴下が失くならないことのほうがよっぽど大事だ。
同じデザインだけ買えばいいとか、そういう問題ではないのだ。その日の気分の靴下があるし、気になってる人とデートしてるときにチップとミッキーが片足ずつ顔を覗かせるわけにはいかない。
というか、デールもミニーも可哀想だ。
たぶん、アイツは私の部屋のどこかを旅してるんだと思う。
どこかにあるはずで、今見えてないだけ。
それなのに。まるで無いと錯覚する。見つからないわけがないのに、無いだなんて言いきってくれるな。
たしかに、ベッドの上で靴下を履きながら、思う。
手元には1枚だけの靴下。それならいっそこの靴下も捨ててしまえばいい。
何度も頭をよぎるけど、出来ない。
捨ててしまえば、そこでおしまい。
見つかるのは明日かもしれない。3週間後かもしれないし、5分後かもしれないし、来シーズンかもしれない。でも捨てなければ多分揃うから気長に待ちたいとおもう。
もしかしたらアイツも待ってたりするのかな〜と思いながら、今日も片方だけの靴下をしまった。