春の歌
ぶくぶくぶく、と空気を逃がしてやる。
代わりに苦しみでいっぱいになっていく。
ぬるめのお湯のやわらかな水圧は、とはいえ確実に人を殺す力を持っている。
もう無理、と、たてがみを振り上げるライオンのように水面から顔を上げ、息を、吸って、吐く、を、繰り返す。
張り付いた前髪をかきあげ、何度目かの呼吸を、余(よ)韻(いん)とともに吐ききったとき、園子は生まれ変わることに成功していた。
母親は園子の長い風呂の時間を気にしていた。
同時に、気にしすぎている自分を自覚し、園子にどう接するべきか、考えがまとまらないままであったので、彼女の長風呂に助けられてもいた。
園子があれほど慟(どう)哭(こく)したところを見るのは初めてであった。合格発表に自分の番号がないと見ると、くずおれるように泣き叫ぶ娘を抱え帰宅した。彼女がかけてきた努力の熱量を思えば、当然といえば当然の成り行きといえた。
同時にひやりとする。
風呂で音がしなくなってどれくらい経った?
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