表現には不幸が必要なのか?|セリフ紹介シリーズ①
みなさんこんにちは!「共演者」で稽古場助手としてSNSの運営や稽古場での賑やかしを担当している谷川清夏です。
大学の授業があってなかなか稽古に行けず、この間なにしよう…!ってなってたんですけど、先日、初演の映像と脚本をもらいまして。で、これがもう刺さる刺さる。短編なので一言一言に色々が凝縮されてる感じがして、映像なのに一回も集中を切らさず見たし、脚本は逆に読むのにすごく時間がかかりました。
というわけで、谷川にグサッときたセリフを紹介して、そのセリフや周辺の会話で考えたことをつらつら書くブログを始めます!今回の「共演者」は、再演ということで、初演の雰囲気を知ってもらうことで公演に足を運んでもらうきっかけになれば嬉しいなーと思っています。初演ver.だけでなく今作の戯曲からもちょこちょこ紹介していきます。
前置きが長くなりましたが!記念すべき第一回目はこのセリフです!どん!
「あのときの傷も幸せも全て、これから芝居に使えるから。傷だけで演技する偏った女優じゃないから。」(初演ver.より)
「共演者」は四人の女優の話で、四人は高校のときの演劇部の同級生です。同級生同士で劇団を作るのですが、このセリフを言ったショウ(写真左、鈴木彩乃)だけは劇団には入りませんでした。劇の終盤でショウと、劇団員のやっちゃん(写真右、白石花子)はあることが理由でバッチバチのバトルを繰り広げます。様々な背景はありますが、二人は演劇に対する姿勢の違いで強く衝突します。
私は役者もやっていて、周りの演劇友達や先輩演劇人なんかと話していても自分の経験を演技に活かすということはよくありますし、すごくすごく辛い思いをしたときに、「これも芝居に使えるから…!」と自分の気持ちに整理をつけることもよくあります。「芝居に使える」は「痛いの痛いの飛んでいけ」みたいなもので、実際に痛みが和らぐってわけではないのですが、立ち直るためのとっかかりとして有効だなーと私は思っています。
ちょっと不思議なのは、「芝居に使える」という思考をするのはもっぱら辛い思いをしたときなんですよね。幸せなときは幸せなのでそんな風に思う必要ないっていうのもあるでしょうが、「幸せは芝居には使えないのかな」みたいなことも思ってしまいます。演技に限らず、表現一般の話かもしれませんね。
「共演者」では、ショウは芝居があまり上手くなくてやっちゃんは芝居に本気でしかも上手、ショウは(彼女の意志ではないけれど)芝居から離れ日常の幸福を手に入れ、やっちゃんは芝居を続け追求しようとしたがゆえに日常はなんか、色々大変そうです。芸能人のインタビューを見ても、だいたい皆さん壮絶な人生経験をされています。
不幸じゃなきゃ、良い芝居はできないのでしょうか?
私個人の考えとしては、否です。演技の元は、経験それ自体ではなくてそこから自分が考えたことや、その経験でどのように自分の感情が動いたかの観察だと思うからです。
あと、否と思いたいという気持ちもあります。だって幸せな方がそりゃいいじゃんね!不幸対決ほど虚しいマウンティングないし。
ちょっと話がそれるんですけど、こないだ友達と話しててすごく悲しくなってしまったことがあってですね。その人は芝居やったり絵本書いたり小説書いたり、エネルギー溢れるとっても素敵な人で、なかなかに壮絶な人生を送っています。で、その人はある日こんなことを言われたらしいんです。
「○○さんの人生ってドラマチックで羨ましいなー。表現にめっちゃ役立つじゃん。私にはなんもないからなー。」と。
(※友達の話はぼかしたり変えたりしています。)
いやそれは違くない?!?!と思いました。”なんもないから”うまくできませんってのはただの言い訳っていうか思考停止だよ!!!
起きてしまった辛いことをなんとか芝居に活かそうとするのは、その人が救われるために必要だし、それで実際に表現が素敵になることはあります。でも、良い表現のためにより衝撃的な不幸を求めることとか、それがないと良い表現ができないと思ってしまうこととか、それは色々な方向に失礼では、と思うわけです。
まあ、やっちゃんは別に傷を求めているわけではないんですけどね。むしろ、深く傷ついてしまってそれを表現に昇華することでなんとか自分を癒そうとしている感じです。けど、その思考回路が彼女をむしろ不幸に縛り付けてしまってるのではないかな、みたいなことも私は思ってしまいます。
辛いことが起きる→芝居に使おうとすることでどうにか自分を慰める→結果的にいい表現になる、という一連が一種の成功体験になってしまって、不幸だといい表現ができる→いい表現がしたい→不幸を求める→不幸になる、みたいな。
いや!そんなのいやだ!自分で書いといてなんですけど!人生楽しい方がいいじゃん!!!
辛さや傷は避けられないこともあるけど、あるからこそ!やっぱり幸せを求めて生きていきたいです、私は。大部分の人はそうだと思います。で、演劇をやりたいってなったときに、必要なのは不幸ではないと思うんですよ。っていうか必要なのは不幸ではないってことにさせてください…!辛いこと起きたら辛いし。
必要なのは、突き詰めて考えたり徹底的に悩んだり、そういうことだと思うんです。それで、考えたり悩んだりの材料は、傷でも辛いことでも、嬉しかったことでも楽しかったことでもいいと思うんです。だからショウのあのセリフに、傷だけじゃなくて幸せも芝居に使えるとあったのが、私はなんか嬉しかったんです。
うーんいやでもそりゃ傷ついてる時の方が色んなこと考えるよなー。「共演者」だとショウはやっちゃんほど芝居上手じゃないみたいな感じで書かれてたりもするしなー。うーんでも不幸はなきゃいけないものではないと思うの…!思いたいの…!えー!どうなんだろう……!!!
「共演者」の初演から1年経って、大石さんがその辺をどういう風に書くか楽しみですね!(無理やり繋げんなってツッコミが聞こえる…)
こんなとっ散らかった長ーい文章を最後まで読んでしまったあなたはもう予約するしかないですよ!
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ちょっと今回やっちゃんがなんか散々な言われようなのですが私はやっちゃんの立場や気持ちもめっちゃ分かる…と思うので、次はやっちゃんのセリフを紹介したいなーと思っています。乞うご期待!
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