誰かを攻撃する時はちゃんと悪者になろう|セリフ紹介シリーズ②
こんにちは!晴天ブログをのっとった稽古場助手の谷川です。「共演者」セリフ紹介シリーズ第2弾。今回は、前回予告した通り、
やっちゃんのセリフをご紹介します。やっちゃんと言えばこのやっぱりこのセリフしかないでしょ!だん!
「わたしは気づいたわ、っていう女の顔が一番ブス。」(初演ver.より)
「わたしは気づいたわ、っていう女の顔が一番ブス」というセリフはチラシにも掲載されていて、『共演者』を象徴するようなセリフです。私もこのセリフは超かっけえと思うので、今回の記事ではそのかっこよさを力説したいと思います。
このセリフは、高校の時の同級生で結成した劇団に所属しているやっちゃんと、劇団には所属せず事務所に入ったショウがバッチバチのバトルを繰り広げている時に飛び出すセリフです。ショウはやっちゃんがやらかしたことが原因となって演劇の世界を離れざるを得なくなり、その5年後、劇団の公演の初日の上演が始まる前の楽屋に”遊びに”来ます。そしてやっちゃんがやらかしたことを暴露しちゃいます。そしてバッチバチのバトル。
私は「わたしは気づいたわっていう女の顔が一番ブス」というセリフは、”被害者の立場を利用して誰かを攻撃しようとすることほど卑怯なことはない”って意味だと思うんですよね。まあそういうことしてる時の人間の顔は男でも女でもブスだと思うんですけど、でも自分の弱さを強調して逆に相手を刺そうとする戦法は女の人の方がよく使ってる感じがします。こんなこと書いたら怒られるかな。
やっちゃんが加害者でショウは被害者だというのは事実です。私もあの楽屋にいたらやっちゃんはちゃんとショウに謝るべきだと思うと思います。だがしかし!やっちゃん→加害者、ショウ→被害者と簡単に構造化できるほど話は単純ではないんですよ!やっちゃんが言ってるのは、私が気に入らないなら私が気に入らないってちゃんと言え、被害者の立場を利用して私だけを悪者にしようとすんのは卑怯だぞってことだと思うのです。
ショウがやっちゃんに謝ってほしいと思うのは当然なのですが、彼女が突撃して告発を始めるのは、舞台の初日の楽屋なんですよ。いや、ショウさんこれから3人の劇団の公演が始まるぞって時にやっちゃんを貶めてやりづらくさせる、なんなら劇団を崩壊させる気満々やん。謝ってほしいだけなら千秋楽終わってからでいいじゃん!ショウは、被害者による加害者の告発という形を取って、やっちゃん(と劇団)に攻撃を仕掛けに来ているのです。
事件が起きた時にすぐに被害者責任を問い出す流れには私ももやっとしますが、「私は被害者である」というカードはその人が誰かを攻撃しようと思ったら非常に強いカードであるのは確かです。被害者カードはそれを持っている人の悪意を綺麗に覆い隠し、攻撃することの責任からも逃がしてくれます。私たちはなぜか加害者=悪、被害者=正義っていう謎の思い込みを持っているので、周りの人間も被害者カードを持っている人を自然とサポートするでしょう。
やっちゃんがかっこいいなあと思うのは、彼女がやったことはまあ正当化できるようなことではないんですが、でも彼女は一切言い訳をせずに自分が悪者であることをきっちり引き受けている所なんです。自分がショウは邪魔だと思ったから攻撃した、そこに彼女なりの正義はありますが、やっちゃんは一切自分を”いい人”にしようとしません。ショウに対する感情をむき出しにして、まっすぐな敵意を叩きつけます。
大人の喧嘩がこじれるのは悪意を隠してあたかも攻撃してないような顔をして攻撃を仕掛けるからだと私思うんですよ。そんなネチネチやるくらいだったら「お前が嫌いだー!」って言って一発ひっぱたいたらいいんです。でも私たちはそれができません。周りに自分のこといい人だって思ってほしいし、自分でも自分のことをいい人だって思いたい。
だから必死に自分を正しいことにできるロジックを探し、攻撃の意思を隠し、使えるなら被害者カードも使って、”いい人”のまま後ろからチクチク相手を刺そうとします。そういう悪役認定は嫌だけど他人を貶めたい、我々の卑怯な部分をバッサリ切り捨ててくれるのが「私は気づいたわ、っていう女の顔が一番ブス」というセリフだと思います。
でも初演の戯曲読んでるとショウも実はかなり潔くって、被害者カードをきっちり利用しつつ、彼女もやっちゃんに向かってまっすぐな敵意を叩きつけてます。あのバトルのシーンは何回映像を見返してもヒリヒリします。
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