二気筒と眠る 18
京都も盆地で底冷えがしていた。
ここまでは山裾を這うように国道9号線を南下して、亀岡から京へと入った。しかも運悪く陽が落ちかけていて、宿を探すには不向きの時間帯だった。もう野営なんてできないし、そろそろ師走の時期で観光客も多いだろうし。宿泊代には多くをかけられない。
しょうがない、はんなりの京の都だし。
オールナイトをしている映画館があるかもしれない、金曜日だしな。固い床で雑魚寝でもしよう。
そう思って9号線から二条城方面へと左折した。
出石を離れたのは、もう雪の季節が迫っていたからだ。
はらはらと白い粉が宙を漂い、それが地表に落ちると儚くも崩れ去る。しかしそれが積もり始めると厄介だよ、と教えられた。
出石を含む豊岡は、日本でも有数の年間寒暖差の大きい地域で、しかも関西で唯一といっていい豪雪地帯だという。雪に閉ざされればバイクでは身動きができなくなる。
それこそ春待ちの根無し草になるだろう。
民宿の女将さんに夜半に呼ばれて、新生児室のコマ割りのようなベッドで、ぴくぴくと動く赤ちゃんとガラス越しに会えた。まだ羊水に浸かっていた名残りだろうか、赤ちゃんという言葉の印象とは違って青っぽかった。なんだか打ち身をした肌のよう。それでも額とかぷくぷくとした腕は桃色をしていた。
男の子だと教えらえた。
青いお包みに包まれて、まだ開かない瞼をまんまるの拳で擦っていた。
「あんなぁ可愛いでしょ。でもこの子の眼が開く前には出発した方がよかっちゃ。雪がかちんこ積もり出したら危ねぇから」
その言葉が、内心で引かれる後ろ髪よりも、むしろ背中を押してくれた。
9号線を走りながら考えた。
長い旅をしているときは、路面に映る自身の影と語り合う。
ねえ、貴女はどう思うの?
もう、帰路につく頃じゃない?
さあ、意地なんて張っても、結論はでないんじゃない?
そうして己が投影した影法師に答えを求めてしまう。
母は、私が早めに結婚することを望んでいる。でも母はどうするのか。独居でいいのか。それはそれで寂しくて辛そうでもある。
旅立ちの日は血色のいい赤ちゃんも抱っこできた。
娘さんが乳を与えているのを見て、ああ私も哺乳動物だったわと再認識した。そうして母の面影を見てしまった。
喧嘩もよくする。
女同士だからか、肉親だからか。
言葉に棘ばかりがある。お互いに傷つけあって、それを互いに舐め合って痛みを逸らしてきた。
旅はそれを突きつける。
自身の投影なんだけど。