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COLD BREW

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都会の一角にある純喫茶。先代からの珈琲の味と香りを頑なに守り続ける男。彼の周りを織りなす女性たちの物語。
運営しているクリエイター

#私のコーヒー時間

COLD BREW 36

 既に、秒針は止まっていた。  それを確認して凍りついた。  無理もない。大晦日から元旦に…

百舌
3か月前
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COLD BREW 33 #はじめて切なさを覚えた日

 残像が折り重なっている。  その席にどれ程の愛着があるのか。  厨房内に立つ僕からすると…

百舌
6か月前
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COLD BREW 32

 扉の呼び鈴が、乾いた音を立てた。  僕はオーヴンの掃除をしていた手を止めて、膝立ちの体…

百舌
6か月前
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COLD BREW 27

 驟雨に目が覚めるようになった。  機関銃のように、間断なく降り注ぐ水滴が屋根瓦を乱暴に…

百舌
1年前
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COLD BREW 26

 祐華は同居を望んではいない。  しかし半ば強引に連れてきた。  僕が10年近く住んだ、この…

百舌
1年前
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COLD BREW 25

 祐華の退院の日が迫っていた。  その時期に主治医に呼ばれた。  前回の面会時に相談されて…

百舌
1年前
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COLD BREW 23

 路面に陽炎が湧きたつ陽気だった。  7月に入っても鈍色の梅雨空で陰鬱な気分であったが、その朝は初夏に塗り替えられている。芝居の暗転で、瞬時に舞台が早替りするような一晩だったのかもしれない。  僕はガレージから愛車を繰り出して、ゆっくりと跨った。    雨滴を浸透させたアスファルトが軟らかく感じる。  風に梅雨の名残が色濃く残り、湿度が苛立たしい。  銀色の弾丸のように、温い大気を斬り裂いている。  鼓動が全身に伝わってくるが高揚感は既に失った。  むしろ自分自身に語り掛ける

COLD BREW 17

 有田焼のマグを選んだ。  漆黒のボディに飲み口から金色の霧が降りてくるような色合いのマ…

百舌
1年前
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COLD BREW 13

 水滴が落ちるのをじっと見ている。  漆黒の芳醇な香りの源を見ている。  雨の火曜日の午後…

百舌
2年前
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COLD BREW 12

 梅の花が綻び始めた。  畳まれた白い花弁が、その秘密を明かすように緩くなりつつある。  …

百舌
2年前
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COLD BREW 11

 狼を名乗るバイクがあった。  その希少なモデルが入荷したらしい。  排気量は200ccという…

百舌
2年前
12

COLD BREW 10

 季節外れの暖かい陽光が窓に映えた。  ランチタイムの鉄火場を終えて、一息つける時間帯に…

百舌
2年前
7

COLD BREW 9

 冬になり風は冷たくなった。  僕の家から高校までは自転車で通っていた。バイト先のGSを横…

百舌
2年前
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COLD BREW 8

 冬枯れの季節になった。  僕の住まいから店までは峠を越える必要がある。  小排気量ながら白煙と騒音を撒き散らす、今時では非難の目を向けられる2サイクルエンジンだ。発進時はある程度の回転数を上げておかないと、低速トルクは実感できない。   だが発進して2速に繋ぐときには、後輪は力強く大地を蹴立てている。悍馬が竿立ちするような出力カーブは、カタログデータ通りであり、流石は2サイクルを作り続けたYAMAHAだと思う。  しかし僕の愛車において、凍結路面でアクセルを開くという行為は