鳩羽色の夜明け
薄く青紫がかった灰色だった。鳩色の夜明けだな、と思った。
調べたら『鳩羽色』という呼び方があるそうだ。
そんな美しい色の朝、父が亡くなった。
涙は出ない。父とわたしの関係は乾いていた。
最後に父親として慕ったのはいくつの頃だったか。昔を思い出しても感じるのは郷愁だけだ。
余命が添えられた病名を聞いた時も、喪服の準備を告げられた時も、最初に浮かんだのは『めんどくさいな』だった。
お互いが歩み寄らなかった結果であって、何度やり直しても関係は潤わないだろうと思う。
ただ、父が亡くなるという一大イベントに涙がひとつも溢れないのが、寂しい。
後悔すら浮かばないのも、寂しい。
大切なひとが居なくなったというより、居なかったということが改めて証明されてしまった寂しさだ。
これから鳩羽色の夜明けを目にした時、キンモクセイの香りにくすぐられた時、この寂しさも
思い出すのだろうか。
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