10回目 税務調査の在り方について 9

「税務調査の在り方 4 税務調査の背景にあるもの」の続き

(2)租税法律主義の存在
憲法第84条(租税法律主義)「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。」
 租税法律主義とは、誰も法律の根拠がなければ、税金を賦課されたり、徴収されたりすることがないという考え方である。

(3)調査手続の明確化(平成25年1月から施行)
 調査手続の透明性と納税者の予見可能性を高め、納税者に対する説明責任を強化するものである。
国税通則法第74条の11(調査の終了の際の手続)
 税務調査が終了すると、納税者に調査結果を説明することになる。納税者が調査結果に応じた修正申告書を提出すれば完了となるが、修正申告が得られなければ調査結果のとおり『更正』(税務署側が税金を決める)という処分を行うこととなる。
 これまでは修正申告を前提に税務調査が行われて来たが、この規定によって税務調査は法律的に更正が前提となったと言える。

(4)税務運営方針(昭和51年4月1日)の存在
① 調査方法等の改善
「税務調査は、その公益的必要性と納税者の私的利益の保護との衡量において社会通念上相当と認められる範囲内で、納税者の理解と協力を得て行うものであることに照らし、一般の調査においては、事前通知の励行に努め、また、現況調査は必要最小限度にとどめ、反面調査は客観的にみてやむを得ないと認められる場合に限って行うこととする。」
 法律で規定されている質問検査権の趣旨に照らして、相当後ろ向きの内容である。これが現場の調査官の足を引っ張っている。「一般の調査」とは何だろう。組織、調査官、納税者、税理士それぞれの立場で、それぞれの都合で解釈されている。「一般の調査」という前置きがあるが、相当額の過少申告が疑われるなど特段の理由(必要性)があれば、無予告現況調査で臨むべきである。
② 納税秩序の維持
「税務調査は、納税者相互間の負担の公平を図るため、国民からの信託を受けてこれを実施するものであり、すべての納税者は、本来その申告の適否について調査を受ける立場にある。従って、各種の妨害行為をもって税務調査を拒む者に対しては、納税秩序を維持し、かつ、課税の適正を期するため、これらの妨害行為に屈することなく、的確な調査を行い、一般納税者との間に、不均衡が生ずることのないよう特段の配意をする。」
 あるべき姿だと思が、「的確な調査」「特段の配意」とは何だろう。これも、それぞれの立場で、それぞれの都合で解釈されている。

(5)最高裁の判例
① 間接強制に関して(昭和47年11月22日)
(要旨)「・・・収税官吏の検査を正当な理由がなく拒む者に対し、・・・刑罰を加えることによって、間接的心理的に右検査の受忍を強制しようとするものであり、・・・その目的、必要性にかんがみれば、右の程度の強制は、実効性確保の手段として、あながち不均衡、不合理なものとはいえないのである。」
 正当な理由がない場合は、調査は拒めないと判示しているものである。

② 質問検査権に関して(昭和48年7月10日)
(要旨)「・・・質問検査の範囲、程度、時期、場所等実定法上特段の定めのない実施の細目については、右にいう質問検査の必要があり、かつ、これと相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまるかぎり、権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられているものと解すべく、・・・」
 客観的な必要性があると判断される場合には質問検査をすることができる。また、調査の方法は税務職員の合理的な選択にゆだねられていると判示しているものである。
 なお、昭和52年3月25日の判決で、反面調査についても同様の解釈がなされている。

(6)国家公務員に任官した際の宣誓文
「私は、国民全体の奉仕者として公共の利益のために勤務すべき責務を深く自覚し、日本国憲法を遵守し、並びに法令及び上司の職務上の命令に従い、不偏不党かつ公正に職務の遂行に当たることをかたく誓います。」

<続く> 次回は、「5 税務調査はどうあるべきか」になります。


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