金曜マンダム、ゴンチチ貴子
金曜ロードショーを観ると、必ず思い出すCMがある。
小学校の高学年に上がるまで、我が家におけるお子たちの就寝時間は原則21時だった。
ルール上、21時の時点で布団に入っていなければ田中アウトの厳しさである。
今の感覚ではそのスケジュールでいったいどうやって時間のやりくりをしていたのか驚愕するが、小学生ならば15時頃には学校が終わっているわけで、遊んで宿題して夕飯食べてもういっちょ遊ぶぐらいの余裕は十分あったのだろう。最高か。大人もそうするべき。
そんな新妻家だったが、唯一金曜ロードショーだけはこのルールの管轄外となっており、毎週金曜日は21時以降も起きててよし!という治外法権が認められていた。
夕飯も入浴も歯磨きも、その日のうちにやっておくべき重要タスク(宿題以外)をすべて済ませ、パジャマに着替えて観る金曜ロードショーが毎週の楽しみだった。
1階のリビングで両親と一緒に観ることもあれば、2階の子ども部屋の小さなブラウン管のテレビを点けて、いつ寝落ちしてもいいように兄や弟と布団の上で寝転びながら観ることもあった。
そんなときは、自分の家のはずなのになぜかちょっとした"お泊まり会"感もプラスされ、夜ふかし公認という錦の御旗のもと、金曜夜は私たちにとってまさに無敵の時間であった。
そんなスペシャルタイムに放送される、それはもう様々なジブリ映画たち。
ラピュタ、ナウシカ、魔女の宅急便。ぽんぽこ、耳すま、もののけ姫。
展開なんて完全にわかっているのに、毎週夢中で観ていた。
しかし、いつもは21時就寝の我々お子たちにとってのこの金曜ロードショーは、猛烈に襲いかかってくる圧倒的睡魔との闘いの時間でもあった。
なんなら開幕からもうちょっと眠いのだ。あの映写機カラカラハットヒゲおやじの段階で結構キている。
そんな、スタートからすでにまどろみ状態の私たちにさらなる追い打ちをかけたのが、合間に流れていたあのCM。
そう、マンダム「ルシードL」のCMである。
ゴンチチの名曲「放課後の音楽室」をBGMに、自然光が射す部屋の中で、そこはかとないオフ感を漂わせながらぼんやりと佇む常盤貴子。
この世の郷愁という郷愁をすべて集めて沈殿させたような、美しくあたたかなアコースティックギターの音色。
髪をかき分け寝返りをうち、白い肌をきらきらと光らせては物憂げに微笑む常盤貴子。
シンプルダンディーボイスでささやかれる「ルシードL」の商品ナレーション。
フィニッシュはネイティブ企業クレジットの「んマァンダム」。
寝る。
寝た。
めっっちゃ寝た。
このCMが流れるやいなや、びっくりするくらいきれいに寝落ちした。
どこかしらの大学で研究対象として扱ってほしいレベルの凄まじい入眠作用があったと思う。
気がつけばブロッコリー化したラピュタが宇宙空間を漂っていたことが何度あったか。(あれめっちゃブロッコリーですよね。)
流れる時間帯もまた絶妙で、ちょうど一番眠たくなる22時半頃にこのゴンチチ貴子が現れるのである。鬼か、貴子。
繰り返しになるが、いつもは21時に寝ているキッズである。
寝るって。寝るってばよ貴子。
23時半に寝ているオッジの今観ても多分寝る。
まれにコンディションのいい金曜などは、奇跡的に最後の「んマァンダム」まで乗り切れるときがある。
いける。今日こそはエンディングまで起きたまま観られる!というこちらの喜びを嘲笑うかのように、間髪を入れず「ルシードL(貴子夜のおめかしver)」が流れてめでたくスヤッスヤである。
この2連チャンはさすがに大人気なくない?!フェアじゃない、フェアじゃないわよ貴子。
そして結局気づいたときには、聖司くんは雫!大好きだ!をかましているし、その者は青き衣をまといて金色の野に降りたっているし、サンは森で、アシタカはタタラ場で暮らすことになっている。おわり。
今の子どもたちにとっても、ゴンチチ貴子的CMはあるのだろうか。そして皆、ものの見事に負かされているのだろうか。