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カリガネ研究 ~資金調達編~

先日、捕獲に成功し、スタートラインにたつことができたカリガネ研究ですが、研究を始めるにあたっては当然、研究資金が必要になります。
今回は、カリガネの研究資金を獲得するに至った、仕込みについて記載します。

■ 国際的な注目種だったカリガネ

 カリガネAnser erythropusは、スカンジナビア半島からユーラシア大陸の東端まで広く分布していますが、同じ雁類のマガンなどと比べて、個体数は極端に少なく、全世界で24,000-40,000羽と推定されています。
 IUCNのレッドリストでも,危急種(Vulnerable)に(BirdLife International 2020),環境省レッドリストでは,絶滅危惧IB類に指定されています(環境省 2014)。

 カリガネは、アオガンと並び、ヨーロッパでは国際的な保護種に指定されており、移動性野生動物種の保全に関する条約(通称 ボン条約)をベースに、国連環境計画(UNEP)のもとに設置された「アフリカ・ユーラシア渡り性水鳥保全協定(通称 AEWA:Agreement on the Conservation of African-Eurasian Migratory Waterbirds)」の中で、保全のための作業部会が組織されています。

 その作業部会の中で、保全のための計画が立案され、各国の研究者や政府組織に保全措置をするように働きかけていくことになります。

 カリガネ国際作業部会は、第1回:2010年11月、第2回:2012年12月、第3回:2016年4月、第4回:2019年11月 と、これまで4回開催されています。こうした会議を経て、保全計画が採択されていきます。

■ カリガネ国際作業部会第4回会議への招待メール

2019年10月11日、突然、知らん人から一通のメールが

Dear Mr. Kurechi and Mr. Sawa,
as announced earlier this year, the 4th Meeting of the AEWA Lesser White-fro
nted Goose International Working Group is taking place on the 11-13. November 2019 in Bucharest, Romania hosted by the Romanian Ministry of the Environment and Climate Change. Please find the official invitation attached.
Non-funded participants are kindly requested to register for the meeting via
the link below by the 31st of October at the latest:

いや、誰ですか??初めて聞いたし、
いきなり1か月後にあるルーマニアでの会議に参加しないか?自費で。
といわれても…

と、いつもなら思うのですが、この時は違いました!

そう、ちょうど雁の里親友の会の池内氏と、「カリガネの追跡を今後やって行こう!」と話をしていたところだったのです。

なぜ私に招待状が来たのかは謎だったのですが、おそらく、EAAFP(東アジアオーストラリア地域フライウェイパートナーシップ)や渡り鳥条約会議などの国際会議で、やたらとコクガンの発表をしていたので、誰かの目に留まったのかもしれません。日本に最近、若いの(?)が雁やっているぞ、と。

11~13日という会議日程だと、ほぼ1週間会社を休まなければなりません。でもまぁ、どこにいたってメールは見れるわけだし、時差を利用すれば仕事はできるし、何とかするしかないだろうということで、1週間の休みをとることにし、早速「行く!」という返事をしたのでした。

■ 会議参加が何になるの??

 主にヨーロッパのカリガネ個体群を扱う会議に、自費(飛行機代+宿泊で30万円くらいかかった!)で行って、なんのプラスになるのか??

 そう思われる方も多いかと思います。ちょっとした背景情報と私たちの狙いをお話しします。

【背景】カリガネ国際作業部会では、もともとヨーロッパのカリガネ個体群の保全が対象でした。しかし、第3回会議では、中国での減少がみられている+最近ロシアの極東の方に分布が広がっている という背景から、東アジアの状況もきちんと把握しておいた方がいいのでは。となり、第3回会議には、中国からCao Lei氏と、日本から呉地正行氏が参加して情報共有していたのです。今回もその流れで、日本にも声がかかったのでしょう。

【狙い】 第4回会議は、2021年からの保全計画の内容を練る会議、とのこと。
そう、参加した狙いの一つは、この保全計画に、「日本がカリガネ保全に向けて調査・研究すべきこと」を明記してもらうこと
そしてもう一つは、あわよくば、欧米の研究者と共同研究を立ち上げ、発信器の提供をうけること

 後者はかなり虫の良い話ですが、前者くらいは達成してこないと。。。
ということで、日本からのプレゼンもプログラムに入れてもらい、保全計画の内容を議論するワークショップにも混ぜてもらうことになりました。
プログラム↓

 後者は、発信器の提供を受けるという直接的な利益があるから、わかりますが、では、なぜ保全計画へのインプットだけで、30万もかけて会議に参加するのか

 それはルーマニアに行きたかったから。でなく。
 自分の顔を売っていくという目的もありましたが、しっかりと活動の実績をつくり、しかもそれが、国際的な保全計画の中で「日本が調査研究すべきこと」として、明記されることにより、国内での研究資金獲得のためのアピールとするためです。つまり、国際的な枠組みで日本がすべきことが書いてある方が、取りやすい助成金があるということ。
 非常に打算的に見えるかもしれませんが、そもそもしっかりとした重要性(もしくは重要な可能性)の裏付けがあってこそ、国際的な保全計画にも入るのです。そして、そのインプット作業が実はとても大事だと思っています。

 実際、日本のカリガネ個体群は、ヨーロッパ、中国と減少しているなか、ほぼ唯一、増加している個体群です。
 
それを日本人の研究者が、重要性を国際会議の場でアピールできなければ、簡単に見過ごされてしまいます。日本の個体群の重要性をきちんと訴えて、海外の研究者にも認めてもらう(=次の保全計画に入れてもらう)ように活動することで、我々の研究費獲得、ひいてはカリガネ全体の保全につながっていくのです

■ 会議に参加して

 会議では、池内氏のデータでがっつり日本の現状を説明し、「なぜ、日本の個体群は増えているのか?」について、推測を力説しました。
 報告はこちら↓

 つたない英語でしたが、皆さん、質疑応答も含め、とてもやさしく聞いていただけました。まぁ、旅の恥は搔き捨てということで、なんでも突っ込んでいきます。発表で失敗しても死にませんから。

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 その後の保全計画の素案について議論するディスカッションでもそれっぽく意見します。ディスカッションになると、全部はわかりませんが、「日本の個体群の動態把握、渡りルート追跡」は、入れてもらうように進言。

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ということで、例によって皆さん、やさしい。
無事に会議は終了。エクスカーションでアオガンを見て、ご満悦。

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■ 研究費の獲得に向け

 さて、本題の研究費ですが…

 会議に参加したのが、11月中旬。もともと出そうと考えていた助成金が12月上旬締め切り。なんとか、会議の報告も含めて書き上げました。
 今回はかなりタイミングも良かったですが、会議での活動を盛り込むことで、かなり重みのある申請書が出来上がったと自負しています。そして、みごと、2020年度からの3年プロジェクトとして、助成金を得ることができました。

 今回、ここに書いたことの中で、私が関わったのは国際会議でのひとまくでした。もちろんそれも重要なこと(だと思っている)なのですが、なによりもまず、カリガネの研究を始めることができたのは、

これまで雁の里親友の会の池内氏が10年以上積み重ねてきた観察データがあったから

に他なりません。
やはり、地道な基礎データにかなうものはありません。そのことを肝に銘じつつ、これからも取り組んでいきたいと思います。

渡り鳥の研究には、旅費や発信器購入、罠の作成など、そこそこのお金がかかります。もちろん科研費や助成金などを最大限獲得していますが、それだけでは大変厳しく、手弁当も多いです。渡り鳥についてもっと知ってみたいという方々のご支援よろしくお願いします。