コクガン足環物語② ~渡り鳥がつなぐ世界~
■ 標識コクガン、見つかる!!
野付湾での調査から帰ってきて12月に入り、そろそろ越冬地のコクガンも増えてきたころか。
日本のどこかで観察されないかなぁと思っていた矢先。
2016年12月15日にロシアのガンカモ類研究者から1通のメールが届いきました。
「アメリカで黄色い足環をつけたコクガンが回収されたようだが、そちらのものか??」
なんということ!!
よくよくメールを読んでみると、アメリカ・カリフォルニア州のHumboldt bayで、12月10日にハンターが狩猟したコクガンのうちの1羽に足環が付いていたとのことで、写真が送られてきた。
まさしく、これは我々が装着したリング!!!
92番のクニちゃんではありませんか!
↓生前のクニちゃん
標識した個体が移動して、違う場所で見つかるのは、まさしく標識調査の成果!しかし、撃たれて回収かぁ。。。
うれしいような悲しいような、でも見つかって興奮するというなんだかよくわからない感情が沸き上がってきました。
今回は、地元のハンター ⇒ アメリカの研究者 ⇒ ロシアの研究者 ⇒ 私 とつながってきたようで、メールに最初の発見者のハンターのアドレスも入っていたので、早速、彼に連絡をくれたお礼と標識したときの情報に加え、現地の環境がどんな様子なのか聞いてみました。
すると、すぐに写真を何枚か送ってくれました。
ほとんど、ハンティングのときの様子で、デコイ(鳥の模型)を使って大々的にやっているんだなという感じでした。
アメリカでは、コクガンは狩猟鳥になっています。アメリカの場合は、鳥も「資源」として考えられており、狩猟鳥に指定するからにはきちんとした「資源管理」がなされています。そのため、毎年アラスカで繁殖のモニタリングがされており、その繁殖成績に基づいて、狩猟数の割り当ても変わるのだとか。(ハンターの協会からの研究資金もかなりの額なのだとか)
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閑話休題。
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さて、本題にもどると、
これまで、ロシアで実施されてきたコクガンの標識調査では、アナディールやコリマ川河口で標識されたものは、同じく北米大陸西海岸へ(1990年代の日本雁を保護する会の調査より)、レナデルタより西で標識された個体は、ヨーロッパへ渡ることがわかっていました。
過去の文献からもレナ川とその東隣のヤナ川河口部がアジアに渡るコクガンの繁殖地と目されており、さらには、2014年に宮城県で標識したコクガンがレナ川河口の近くで発見されていたのです。そんな状況からレナデルタの個体が日本に来るかなぁと期待していたのですが、見事にアメリカに行ってしまいました。
日本のコクガンはどこから来るのか?という問いは振り出しに戻りました。
さて、次の一手を考えなければいけません。
ここで、クニちゃんが決死の渡りをしてくれたおかげで、なんとアメリカのコクガン研究者とつながることができました。
そして、
「東アジアで越冬するコクガンの個体群は、少なくて希少(アメリカでの越冬個体群は15万ほど。東アジアは1万以下)。なのに、渡りルートが解明されていない。しかも、日本では天然記念物されているのにアメリカでは狩猟鳥。もし、日本に渡ってくる個体群がアラスカを経由していたりすると(アラスカには10万羽以上のコクガンが集結するアイゼンベックという中継地がある)、アメリカでの狩猟がアジアの個体群に影響を及ぼす可能性もある。なので、アメリカからもぜひ協力したい」
との言葉をいただくことができ、なんとも心強い限りです。一気に今後の研究のモチベーションも高まります。
これも、足環をつけたコクガンがつないでくれた縁。
しっかりと、コクガンの研究を進め、保全へとつなげていくことで、クニちゃんをはじめ、足環をつけさせてもらった鳥たちへの恩返しをしていかなければなりません。
このことを肝に銘じ、今後の展開へと進んでいきます。
ちなみに、レナデルタのコクガンがアメリカに渡っていった論文は、こちら
Sawa Y, Sato T, Ikeuchi T and Pozdnyakov V. in press. Banding survey at colonies of Brent Goose, Branta bernicla in the Lena Delta, Russia and a recovery record. The Bulletin of the Japanese Bird Banding Association
⇒2019年にアクセプト済みで、もうすぐ出版されます(多分)。
(つづく)