脳みそ05:【番外編】RingNe 緑進の儀 設定・制作過程
この記事では、先日2024年9月22(日)に行われたImmersive Festival "RingNe"にて【企画・演出・衣装デザイン・衣装制作】を担当した"緑進の儀"について設定や制作過程を記すことで、よめ。の"ソウゾウ"する脳みその一片を覗いていただければと思う。
"RingNe"とは
このフェスティバルは、体験作家アメミヤユウ氏による
同名のSF小説『RingNe』がすべての源泉となっている。
3章構造となる『RingNe』。
そして、今年顕現するのが第2章。
2024年4月吉日。
さわのよめ。のさわに命を受け、RingNe第2章へ参画することとなった。
ソウゾウの糸口
有志で集まったメンバーは希望や適正によって、大まかなエリアに振り分けられた。私が所属するのは、ダンサー・振付師の集まる"根の間"。
根の間の至上命題は、RingNe第2章のメインとも言える"ジュピターセレモニー"を顕現させること。
配属されたメンバー、自身のスキル、根の間の立地等々を考慮し、奥まった地形にある根の間に観客の気を誘導し、メインであるジュピターセレモニーへの気の高まりをもたらすパレード制作することとした。
スキルとしては、ディズニーランドのエンターテイナー出身であり、パレードやショーに出演していたというものだ。
まぁはじめのmtgまでなにもしないのもなんだし、とりあえず考えておくか、無しなら無しでいいしというくらいのテンションだった。こう見えて、真面目で自己肯定感は低い方なのだ。げふん。
ソウゾウの材料となるのは、原作小説のみ。
余談であるが、私以外のさわけのメンバーはAIのようにまるごとデータを取り込める優秀な脳みそをお持ちである。
夫であるさわくんは文字情報をそのまま保存・出力できるし、我が子のひなたは動画情報をそのまま保存・出力できる。
そして、わたしの脳みそはというと…
本を読んでも、何か観劇しても、そのとき感じた感情や感覚の【色や触感】しかデータとして保存してくださらない。
いやいや、使いづらいて。
「あぁあれですよね、ピンクと赤がぐわぁぁぁぁでしたわ」
「あの本は、あぁ深緑のふかふかじっとりです」
会話にならんわ。
とはいえ、このCPUしか搭載しておりませんゆえ、こちらで頑張ります。
色と触感の海をぐわぁって漂って、手繰り寄せていくとふわぁ〜って見えてくるんですね、こんな感じに。
現行のものと変わっているところもありつつ、おおむね初めに見えていた景色と同じものを作ったようですね。自分でも6ヶ月前ともなると他人ですもんね。へぇ、こんなこと考えてたんだ。
じゃあ、あとはこの資料読んでみてね。
で、終わりにしたいところですがそんなことをしたらさわくんがおこになるだろうし、いつかよめ。ちゃんが本にでもなったときのネタとして一応解説しておきましょう。そうしましょう。
根の国の使者
この世のものとは思えぬ美しき根の国の使者。
その姿をまなこに移せば、夢現。
全ての思考に霧をかけ、人の生き死にさえもなんともたわいのないことよ。
悲しみも、苦しみも、愛も、幸せも全てを飲み込む。
柔らかく、優しく、そして鋭く最期の時を知らせる。
これが私が見、皆と顕現させたパレードのイメージだ。
ここで、「あぁ、私はソウゾウしていなかったのだ」と今気づく。
我々にはこんな歴史があり、こんな文脈で、こういうことを考えているのだとなにものかが語りかけてくる。ここから伝聞形式になるが、そういうことなのだと思っていただきたい。
「植物信仰が根付くある地方都市に、脈々と受け継がれていたものの、村民の減少により消滅してしまった儀式。その儀式を発掘し、復活させることによって、歴史的権威を自らの団体儀式に付与しようとしたものだと考えられる。」
この参進の儀は、そもそもどこかの山奥で脈々と受け継がれてきた歴史ある儀式だったのか。それをダイアンサスが発掘、復活させたと。ダイアンサスにとっても、一大プロジェクトだったのであろう。
さて、あらかたのイメージを掴んだら、細部にフォーカスを合わせる。
誰がいる…あぁ老婆、否老婆のような幼子がみえる。
あぁ、この隊列は輪廻を表現しているのか、とここで気づく。
露払 -tuyuharai-
隊列を先導するは、露払。
根の国の使者や神花人(シンカビト)を円滑に送り届け、様々なお手伝いを任されている。神に仕える天使同様、幼く清らかなものたち。
本番では、双葉のように二名の露払が根の国の使者たちの道をつくり、根の国の衣を神花人に献上するお手伝いをする姿を見ることができ、まさに天使のようであった。
嬰児 -midorigo-
参進の儀において象徴的なキャラクターである"嬰児"。
ダイアンサスの人々にとって最も神=神花(シンカ)に近い存在とは、死に近しいものである。
人の生において死に最も近いもの=老人
植物生において生に最も近いもの=子葉、新芽
死と生のあわい
それを体現するために、老人の格好をした子供が演じてきた。
祇園祭で神輿を先頭する「久世駒形稚児」にも影響を受けているとも考えられているという。
老人を表現するためか、顔は真っ白く伸びた髭を模したもので覆われている。
初期設定では神楽鈴のようなものを手にしていたが、最終的にはダイアンサスのアジトに浮かぶ人工太陽を模した飾りを手にしている。
生と死、老と若、淡く鋭い…全てを飲み込むみ、溶け合わせる儀式の象徴にふさわしい愛すべき役だ。
元となった地方都市での儀式では、代々嬰児の役を演じる由緒正しき家柄があり、その中でも特に精神性の高いとされるものが選ばれこの大役に任命されていたという。この隊列の最後尾に控える落花媼(ラッカノオウナ)とも関係があるが、該当の章で説明する。
打子 -uchiko-
嬰児が新芽であるとするならば、打子はぐんぐんと葉や枝を伸ばしている若木といえるであろう。嬰児を守り、これから神花となる神花人がお通りになる道を清めていく。
手には、根の国における錫杖・神楽鈴を持っている。
神花の忠実な僕であり、猛々しく雄々しい姿である。
咲撓女 -syoudoume-
この隊列においても、人の生においても、植物の生においてもまさに花形である"咲撓女"。
「咲き撓る女」という名前からも分かる通り、結婚適齢期といわれるものたちが演じていたとされる。(現在の価値観では、よろしくない表現が続くが、架空のある地方都市の大昔の習わしであったためご容赦いただきたい。)
村におけるお見合い、品定め的な役割も持ち「あの咲撓女はいい、ぜひうちの嫁に」という会話があったとかないとか。他の村からも咲撓女たちの舞を目的におとづれる若人も少なからずいたとか。
天女の羽衣のような美しく儚い衣を身に纏い、植物の花同様、芳しい香りを放ち、誘い惑わす。
小さい頃から咲撓女に憧れ、露払から入り咲撓女を目指す少女たちも少なからずいたという。
落花媼 -rakkanoouna-
「悪いことすると、締切婆(シメキリババア)がくるぞ」
村に住むものたちは、必ず一度は爺様や婆様に言われたことがあるであろう。秋田のなまはげのように、子供たちにとって畏怖の対象であった。
大きな頭巾が顔を隠し、太く大きな綱を持ち、ずるずると衣を引き摺り歩く姿は、子供ならずとも異様で忌み恐れていたと考えられる。
嬰児の章で触れたように、嬰児と落花媼は深い関係がある。
由緒正しき家柄から選出された嬰児。この嬰児を演じたものが老齢に達した時、"落花媼"(通称:締切婆)を演じる習わしであった。
最も神花に近いものとして尊ばれ、打子と呼ばれる護衛や露払と呼ばれる先導が付いていた清らかなる存在の嬰児は、一生を経る最後には忌み恐れられる存在である締切婆となる。そして、輪廻転生し、また嬰児としての役を全うすることとなると考えられていた。
すべては、はなのまにまに
以上が、緑進の儀の設定情報である。
このイメージを皆が受け取り、振付・演出・音楽・祝詞・わらべ歌・映像etc.に拡がり、メインとなるジュピターセレモニーへバトンが渡せたことに心の底より感謝する。
さて、このイメージの状態から衣装という物体に変換しなければならない。衣装の意図や細部、制作過程等を次の記事でまとめようと思う。
背景を知った今、あなたも2045年に生きるひとびとの感覚に近づけていることだろう。あなたの目映るこの儀式が、この記事を読む前と後で変化があることを祈る。
最期に、本番では荒天により泣く泣くキャンセルとした舞の曲にも使用されていたわらべ歌の歌詞と共に、緑進の儀のティザー映像を置いておく。
「いってらっしゃい」