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映画大好きポンポさんとクリエイターの福音

何気に予定が出た時から楽しみにしていた作品が、ついに公開された。

『映画大好きポンポさん』である。

pixivで話題を集めた作品だけど、私はいいだけバズっている時には特に興味がなく、なんとなく、本当になんの脈絡もなく、コミックが2冊出た後に突然買ってハマった。

映画を観る側ではなく、撮影する側から描写した作品が『映画大好きポンポさん』である。クリエイター属性にはたまらないエピソードが盛り沢山。何よりも映画愛が伝わってくる。エモ。

仮にも『映画大好き』と題した作品を『映画化』するのだから、半端なものをお出ししたらファンがガチ切れすること間違いなしである。

そんなわけで、期待と不安がまざりつつ観に行ったのだけど、おおむね期待していた以上のできだったので、元気よくおすすめしたい。

以下、原作・映画共にネタバレをするので、ネタバレOKの方はスクロールしてね。














ポンポさんを映画化で、一番気になっていたところは「1巻までの内容なのか、2巻までの内容なのか」である。

ちなみに、結論を先に言うと「原作1巻までの内容にオリジナル展開で肉付けした」のが映画版ポンポさん。

1巻だけでは尺が足りないけど、2巻までやると盛りすぎてしまう。2巻最後の例のあのセリフがタイトル回収なところがあるので、正直あのシーンなしでまとまるんだろうか?と思ったけどちゃんとフラグは回収した。

ストーリーは基本1巻のおわりまでなので、ポンポさんに突然仕事を任せられたジーンが、初監督作品でニャカデミーを席巻するまでの物語(作品内ではハリウッドではなくニャリウッド、アカデミーではなくニャカデミーなので誤字ではない)なのだが……。

まず、原作と違う部分は、作中作の「マイスター」のストーリーにまでかなり踏み込んでいる。

ジーンの同級生だったアランというオリジナルキャラが登場し、資金調達にかんするエピソードが盛られている。

あとは、編集作業のシーンにかなりエピソードを盛っている。

ジーンはなりふり構わずに映画のことだけを考えている映画中毒の男なので、苦難を苦難とも思っていない。倒れてでも編集をやる。

タイトルはポンポさんであるけど、この作品のヒロインは、素人からポンポさんに見込まれて主演女優に大抜擢されたナタリーの方。

これは、ポンポさんという「神プロデューサー」によって引っ張り上げられた監督と女優のサクセスストーリーであって、ポンポさんはヒロインであってヒロインではない。デウスエクスマキナ的な舞台装置といってもいい。

ジーンはその「神」に作品で挑む。

時間が足りなくなったり、資金が足りなくなったり、シーン追撮のために脚本の修正を要求したり、それは全てジーンのこだわりで起こる。

神プロデューサーであるポンポさんですら、映画に骨まで浸かっているジーンに振り回されてしまう。

やりたいことのためになら、命も平気で削るし、土下座だって厭わない。それがジーン。

このジーンというキャラ像、クリエイターにとってはきっと理想形のひとつなんだろうと思う。自分が作るものに対して一切の妥協や忖度をしない。撮りたいものに貪欲で、プロデューサー兼脚本家のポンポさんを振り回しても悪びれない。

神様に見出された、神様すらも困惑させる真性のクリエイター。

そんなジーンが「どこまでいっても信念を一切曲げない作り手」として大成していくのが、「映画大好きポンポさん」の大筋である。正確には2巻で一度彼は大きなやらかしをするのだけど、それは映画には関わってこないエピソードなので、気になる人は原作を読んでね!!!

とにかく、この「ジーンの才能を信じて、彼の狂気的なクリエイティブ精神を肯定する」のがポンポさんである。こんな風に作品を作れたら幸せだろう。そりゃあなんだってできる気持ちになるだろう。ポンポさんの世界は、ジーンにしろ、ナタリーにしろ、「信念を捧げる者」に肯定的だ。

本当に良いものを作るためなら、どんなこともやってみせる。クリエイターがこうありたいと思う理想だ。この作品はクリエイターの福音だ。

この世界では、クリエイターの情熱は大きな力を持つ。

現実ならもっと世知辛い大人の事情がいくつもあるだろうけど、これはクリエイターの福音を描くフィクションだからこれでいい。

この辺、映画オリジナルキャラクターのアランを銀行員にして、資金調達の立役者にしたのはいいオリジナル要素だなーと思った。ジーンの夢に理解のない嫌味なキャラだったらこのスッキリ感はないし、期待値をクラファンや動画の視聴者数で可視化するというのは、現代っぽくて良かった。

現実はもちろんこんなにうまく行かないだろうけど、この話はこれでいい。理想を追い求めるクリエイターの、夢の物語だからだ。

ナタリーが「監督を信じます」と言えるのは、彼女もまた理想を追い求めて走ってきた人間だからだ。すでに夢を掴んでいる人間ではない。今まさにつかもうとしていて、その夢がジーンの手にかかっていることを理解して「信じる」物語だからだ。

クリエイターは、自分の作るものを信じなければならないし、また次の作品を作るためには成功したところからまた仕切り直しをして走りださなければならない。

これは原作3巻でも語られている。作品の完成はゴールではなく、また次のスタートラインに立ったことを意味する。

だから、ニャカデミー賞をとった後に、作品の好きなところを聞かれて

「90分なところですね」

と答える。

ジーンが作品を90分にしたのは、ポンポさんが「映画は90分がいい」と持論を語ったからなのだけど、その90分に収めるために、数多のカットを犠牲して、その上さらに追加の撮影までして編集したものだということを観客はもう知っている。

この作品の面白いところは、絵面的に映える映画の撮影シーンではなく、編集のシーンをクライマックスに持ってきているところ。

編集は基本、ジーンの独壇場であるのだけど、それをビビッドな色合いの画面でフィルムを刃物で斬って斬って斬りまくるジーンという映画ならではの表現で、盛り上げてくる。

どうやっても地味になりそうなシーンを、ちゃんと盛り上げてくれたのはっ良かった。

主題歌や挿入歌の使い方も良かった。

あとは、映画のカットを想起させるカメラワークも良かった。

声優初挑戦陣の演技はどうなのかなーとなったんだけど、人づきあいが苦手なジーン、女優初挑戦新人ナタリーという役柄もあってか、そんなに気にならなかったですね。

唯一残念かなってなったのは、入場者特典の書下ろしコミックが「前編」だったことですかね……。これ、2回行かないとダメなんです?

後編の時期にしか行けない人ももちろんいるだろうし、2回行く暇がとれない人もいるだろうから、特典を前後編でわけるのはやめてほしかったかな……。

あ、特典の内容自体はよかったです。前後編じゃなければもっとよかったなー!

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