一合瓶で、日本中の酒蔵を元気に。 現代版ワンカップを目指す「きょうの日本酒」
はじめまして、きょうの日本酒株式会社代表の濱道佐和子(はまみちさわこ)と申します。
発信することが得意ではなく、今回なかなかに重い腰をあげて、ようやくnoteを始めることになりました。
タイトルと社名の通り、日本酒の話をします。
このミッションを胸に、先日6月4日に、「Makuake」でのプロジェクトを先行販売として開始しました。
開始前は、自分たちが考える一合瓶の世界について、どれだけ共感いただけるのか本当にドキドキしていましたが、
おかげさまで、これまでに350人を超える方に応援いただいており、嬉しい限りです。
このnoteでは、Makuake内に収めることができなかった、
「きょうの日本酒」を始めた背景や、準備段階の裏話、今後の展望についてお話ししたいと思います。
このnoteを読んでくださった方が、
「日本酒って面白いかも」「今度日本酒飲んでみようかな」と、
これまでより少しだけ、日本酒を身近に感じていただけたらなによりです。
毎月3つの酒蔵が廃業している、日本酒業界の現状
「毎月3つの酒蔵が廃業している」
日本酒が好きで日々楽しんでいたわたしにとって、2年前に知ったこの事実は衝撃的でした。
現在、国内には、およそ1400の酒蔵があります。
日本酒の製造免許は新規発行されないため、酒蔵数は増えることなく、廃業に伴い減る一方。
消費量は低下し続け、1970年代と比較して酒蔵数は1/3以下になっています。
酒蔵の経営は大変だから、子供には継がせたくないという蔵元の声もあるそうです。
時代の流れとともに、一定の変化は免れないのかもしれません。
ただ、全国各地の酒蔵を訪問して感じたことは、
日本酒は「人の手と想い」そして「蔵の環境」がつくるものであり、一度その酒蔵がなくなると、二度と同じ味は作れないということです。
日本古来のお酒であり、生活や祭事に深く根付いていた日本酒。
その多様性や酒蔵独自の技術が、このまま何もしなければ、廃業とともに失われていってしまう。
近年コロナの影響で、飲食店や旅先での日本酒消費が落ちたことも、販路のほとんどを酒屋経由の飲食店が占める日本酒業界においては、さらなる打撃となっています。
酒蔵さんの声を聞く中で、なんとかできないものかと、考えていました。
日本酒は「もったいない」
そもそもなんで日本酒を好きになったのか、少しだけ個人的な話をさせてください。
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きっかけは、大学祭でした。
所属していた東大農学部では、毎年3年生が大学祭で利き酒を提供する伝統がありました。
日本各地のおよそ100の蔵から、200種類近い日本酒を毎年寄贈していただき、来場されたみなさまに利き酒という形で提供していました。
連日大盛況でしたが、それでも3日間の大学祭期間中に数百本の一升瓶を提供しきることはできず、
余った日本酒を研究室の冷蔵室に保管して、学科の友達と研究の合間に楽しんでいました。
それまで、わたしにとって日本酒は、
居酒屋さんで飲む銘柄もない「日本酒」でしかなくて、味の印象があまりなかったのです。
ただ、日本各地の酒蔵さんの想いとともにお送りいただいた日本酒は、いろんな表情があって、本当に美味しかった。「日本酒って、こんなにいろんな味があるんだ」と、純粋に驚きました。
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それ以来およそ10年間、お店で日本酒がメニューにあれば必ず頼み、自分でも日本酒を買ってみたり、酒蔵見学の機会をいただいたりと、日本酒にたくさん触れるようになり、その魅力にどんどん引きこまれていきました。
そして、日本酒を知れば知るほど、「もったいない」という気持ちが強くなりました。
人の想いや技術が詰まった、唯一無二の銘酒が全国各地にある。
ひとつひとつにストーリーがあり、表情があり、米と水と麹というシンプルな原材料によって作られた味わいの多様性に常に驚かされる。
そして、これだけ人の手がかかっているお酒なのに、安すぎるのではと思ってしまうくらい、手に取りやすい価格帯。
ただ、その魅力が十分に伝わっていないのではないか。
専門用語の多さからなんとなく難しいもの、ハードルを感じてしまうものになってしまっていないか。
日本酒好き=日本酒に詳しくないといけない、と感じてしまっていないか。
もしくは、「日本酒は好きだけど、飲むのはお鮨屋さんや旅先で」というような、ちょっと特別なものになってしまっていないか。
最近の日本酒は、酒質が大幅に良くなり美味しいという印象を持っている人も少なくないと思うのですが、どこか"特別なお酒"として扱われることも多いためか、日常で楽しむお酒として捉えている人が少ないことは、やはりもったいないと感じています。
もっと日本酒を身近なものにして、その魅力をたくさんの方に知ってもらいたいと思うようになりました。
「余すことなく、丁度よく」お届けすることで、日本酒をより身近に
日本酒を身近にするためにはどうすればいいか。
1日の終わりに、ビールやハイボールを一杯飲むことが特段特別ではないように、その選択肢に日本酒が入ったっていいのではないか。
昨年、きょうの日本酒株式会社を創業するにあたって、20代から30代を中心に、日本酒との関わり方についてヒアリングをしてみました。
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この世代には、
日本酒は好きだけど自分では買わないという人が多く、
その理由として「飲みきれないから買いにくい」「選び方がわからない」という声をよく聞きました。
一升瓶は大きすぎるし、四合瓶でも1~2人だとなかなか飲みきれない。
一方で、お酒を劣化させないために開けたら早く飲みきらなければいけない気がして、なかなか開けられない。
また、日本酒の味わいを、そのラベルから自分で読み取ることもなかなかに難しい。
一部には、飲食店において記憶に残る日本酒体験をしている方もいました。
「大将が語ってくれる日本酒の魅力を聞きながら飲むと、いままでとまったく違う日本酒のように思えた。」
「お店で説明を聞きながら、日本酒の飲み比べ体験をしたときに、日本酒ってこんなに味の幅や広さがあるんだと、感動した。」
まさにここにも、”もったいなさ”があると感じました。
ちゃんと情報に触れることで一気にその日本酒体験が良いものになる、
その一方で、お酒のラベル情報だけだと、その一本のせっかく魅力が伝わりきっていないこともありそうだ、ということ。
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そういった声を受けて、
①「一合瓶の飲みきりサイズ」で、
②「味わいをわかりやすく伝える情報設計」により、
日本酒へのアクセスを良くできないかと考え、
「きょうの日本酒」は誕生しました。
①「一合瓶の飲みきりサイズ」とワンカップの戦略
日本酒を小容量化し身近なものにすることで、新たな消費のシーンを作りたい。
ー 実はこれ、「ワンカップ大関」が60年ほど前にやっていたアプローチと同じなのです。
当時、一升瓶から徳利で飲むのがお決まりの消費パターンであった中、
「いつでもどこでも飲める」カップ酒として「ワンカップ大関」は誕生しました。
2級酒が普通の時代にあえて1級酒を詰め、ラーメン1杯より高い価格設定と、実は結構割高だったといいます。
瓶やラベルのデザインは芸大・美大の先生に依頼し、新しいスタイルで若者を取り込もうとしていたそうです。
そんな「ワンカップ大関」も最初から売れたわけではなく、転機は1966年に始まった駅売店での販売と、1967年の専用自販機の登場だったとのこと。
ワンカップならではの販路、消費シーン提案により、当時の日本酒業界に新しい消費を生み出した、ということです。
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「ワンカップ大関」の誕生から60年、「きょうの日本酒」は、一合瓶ならではの販路開拓・消費シーン提案を、現代にあわせた形で行おうとしています。
②「味わいをわかりやすく伝える情報設計」
日本酒の味わいって、なかなか瓶のラベルの情報だと、読み取りづらい部分があると思っています。
酒蔵名、銘柄、酒米、精米歩合、アルコール度数、酵母、日本酒度などの情報に加え、
純米大吟醸・特別純米などの「特定名称酒」と呼ばれる区分や、
生酒・火入れ、生酛・山廃、ひやおろし、あらばしり、斗瓶囲い、などの造や搾り方に関する言葉。
たくさん情報は載っているのだけど、こういった情報のどこを見ればよいのか、どこから味わいを読み取っていくのか、即答できる人は少ないと思います。
それもそのはずで、結局のところ、味わいを作るのはすべての要素の掛け合わせであり、最終的には造り手の技術に非常に依存するものなのです。
同じ酒蔵さんの同じ銘柄のお酒でも、味わいや表情は違っていたりします。また、造りの段階だけでなく、保管方法や保管期間、飲む時の温度や瓶をあけてからの経過時間によっても、味は変わっていきます。
なので「きょうの日本酒」では、直感的にお酒を楽しんでいただきたいと思い、お酒の味わい・表情を、瓶の首部分に140字にまとめています。
難しい言葉は使わずに、ちょうど良い情報のお伝えをしたいと思っています。
「きょうはどれにしようかな」と、お酒を選ぶ際の基準にしたり、飲みながら読んで「たしかにそんな香りがする」と楽しんだり。
日本酒と飲み手の距離を縮めるための、“お酒を読む”ツールとなっています。
「きょうの日本酒」は、一合瓶と140字の情報で「余すことなく、丁度よく」日本酒をお届けしていきます。
全国の酒蔵さんを巡り、想いを伝える
一合瓶の構想ができたとき、最初に抱いていた不安は、「酒蔵さんに協力していただけるだろうか」ということでした。
本当におすすめする全国各地の銘酒を、良い状態でお届けしたい。
そのためには、わたしたちの手元で既製品の瓶から詰め替えをするのではなく、酒蔵さんの方で「きょうの日本酒」の一合瓶に詰めてもらわないといけない。
そうなると、どうしても手間にはなってしまうし、一合瓶の製造ラインがない酒蔵さんは、手詰め対応なんてしていただけるのだろうか。
そもそも、まだ実績もモノもない、新参者の私たちの話なんて聞いてもらえるのだろうか。。。
しかし、実際に全国各地の酒蔵さんに足を運び、向き合ってお話しさせていただく中で、そんな不安はすぐに杞憂であったと感じました。
どの酒蔵さんも、とても熱心に私たちの声に耳を傾けてくださったのです。蔵元さん・杜氏さんに共感いただけることが、本当に嬉しかった。
なかには「まさに“きょうの日本酒”のようなものを待っていた。日本酒の未来をつくる人が現れないかなと思っていたんだよ」と言ってくれる蔵元さんもいらっしゃりました。
各地の酒蔵さんを訪ね、酒蔵や蔵人さんの雰囲気・熱量を肌で感じ、蔵元・杜氏さんとお酒も交えながら日本酒造りにかける想いを伺う。
ひとつひとつの蔵が、こんなにも違うのかと毎回感じ、この表情・魅力をしっかりとお届けしたいと毎回強く思うのです。
岩手県・南部美人
秋田県・大納川
群馬県・土田
富山県・富美菊
兵庫県・龍力
島根県・天穏
今回、はじめての販売にもかかわらず、本当に素敵で美味しく、違った表情のある6本のお酒をお届けできることになりました。
共感していただき、本当に親身にご協力してくださった酒蔵さんたちには、感謝の気持ちでいっぱいです。
たくさんの方の想いの詰まった日本酒を、一合瓶に詰めてお届けできるのが、ほんとうに楽しみです。
日本酒は生きている、だからこその難しさ
一合瓶で日本酒へのアクセスを良くしたい。
多様性を楽しみ、飲み比べてもらえるように、全国各地の美味しい日本酒を一合瓶でお届けしたい。
ただ、複数の酒蔵さんの日本酒を一合瓶に詰めてお届けするためには、想像以上にたくさんの課題がありました。そのひとつが品質管理の難しさであり、また瓶の規格を揃えることの難しさです。
日本酒は生きています。
先述の通り、造りの段階はもちろん、瓶詰め後も保管のされ方や瓶詰めされてからの経過時間、飲む時の温度、瓶をあけてからの時間、酒器選び、そのすべてが味に影響します。
だからこそ、温度管理をはじめとした品質管理をしっかり行わないと、せっかくの日本酒が美味しくなくなってしまう。
本当に美味しい日本酒をお届けしたいので、「きょうの日本酒」では一升瓶から一合瓶への詰め替えではなく、全て酒蔵さんにて一合瓶に瓶詰めしていただき、適温での保管・クール便発送をしています。
また、酒蔵さんにて瓶詰めしていただくということは、酒蔵さんが持つ製造ラインにはまる必要があるということです。
統一規格の瓶・キャップで進めるために、何度も何度も各酒蔵さんと細かな調整・確認を行いました。
結果的に、瓶は統一規格でまとめることができましたが、キャップを完全に統一規格で進めることは難しいという結論になりました。
それでも「きょうの日本酒」としてフォーマットを揃えたかったため、瓶の首部分に紙筒を巻くことでキャップの不揃いを隠しつつ、一番読んで欲しい情報をそこにまとめることにしました。
また、日本酒のできあがる時期も、人の都合で調整できるものではありません。
お酒の様子をみながら、一番良い状態で仕上げていただくために、お酒を絞る日はどうしても前後してしまう。
今回のために特別に醸造してもらったお酒も多く、設計図はあっても最終的にどのような日本酒がいつ完成するかはわからない、という見通しが立ちづらい中で調整を進めていく難しさもありました。
日本酒は工業製品ではなく、生きている。
あらためて、生きている日本酒を扱うことへの難易度の高さを痛感するとともに、それを含めて日本酒の魅力をお届けしたいと感じました。
一合瓶ならではの消費のあり方で、酒蔵を元気に
今回「きょうの日本酒」の最初のラインナップとして、6つの蔵の個性あふれる日本酒を一合瓶でお届けできることになりました。
日本酒へのイメージや、消費のされ方は、近年変わってきていると思っています。
酒蔵さんの絶え間ない努力により、美味しいお酒が作られたり、
日本酒スタートアップによる、高級路線や独自のブランドだったり。
ただ、もっともっと、日本酒にはポテンシャルがあると思っているのです。
それを、一合瓶による新しい消費のあり方をつくることで、しっかりと証明していきたいです。
一合瓶だから、「ちょっと飲みたい」が叶う。
「知らない銘柄だけど買ってみよう」ができる。
コンビニでビールやハイボールを買うように、日常の選択肢に日本酒が入ってくる。
一合瓶により、日本酒の多様性に触れ、好きな味・酒蔵を見つけてるきっかけになりますように。
日本酒をより身近に感じ、自由に楽しんでもらえますように。
そうして日本酒を楽しむ人が増えることで、日本中の酒蔵を元気にしたいと思っています。
作りたいのは、「きょうは日本酒」を叶える世界
「ワンカップ大関」の例で出したように、「きょうの日本酒」は、プロダクトだけでなく、届け方でも積極的な挑戦をしていきたいと考えています。
ひとつは、フードデリバリーサービスでの販売。
「きょうは日本酒が飲みたいな」と思ったときに、数十分で美味しく丁度いい量の日本酒が家に届く。
そんな体験を、この秋から早速お届けしたいと思い、準備しています。
また、提供銘柄数は年内20~30を目指しており、近い将来には、好みに合った日本酒が届く、一合瓶サブスクの提供も検討しています。
家の冷蔵庫に一合瓶を並べていただき、「きょうは日本酒」と思ったときに、手にとってもらえるようにしたいのです。
「きょうの日本酒」では、かならず美味しい日本酒が飲める。
「きょうの日本酒」では、新しい銘柄に出会える。
そんな安心感とわくわく感をもったサービスにできるよう、
全国各地の銘酒を「余すことなく、丁度よく」一合瓶に詰めてお届けしていきます。
きょうの気分にあわせた一合瓶で、1日の終わりに潤いの時間を。
さいごに
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
日本酒を身近なものにしたい。日本酒の魅力を伝えたい。
その想いで始め、素敵な酒蔵さんに共感いただき、ここまでやってきました。
けれどまだまだ、ここからです。
これからさらに多くの酒蔵さんにご協力いただき、より多くの方に日本酒の魅力を知ってもらえる機会を増やしていきたいと思っています。
ぜひ、わたしたちの最初の一歩であるMakuakeプロジェクト、
一緒に盛り上げていただけると嬉しいです!
一合瓶で、日本酒の新しい未来を創っていきましょう!
noteのほかにもTwitter・Instagramも始めたので、こちらもフォローいただき、応援いただけたらとてもうれしいです。
かなりの長文になってしまいました。
最後までお読みいただき、どうもありがとうございました。
プロフィール
濱道佐和子(はまみちさわこ)
1992年、福井県敦賀市生まれ。東京大学農学部卒業。ボストンコンサルティンググループ、Google Japan、Google UKでの海外勤務を経て、株式会社スタートトゥデイに入社。大学祭で、運営していた利き酒イベントで日本酒の魅力にはまる。日本酒をより身近なものにしたいという思いのもと、創業。