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人生、どうにもうまくいかない時には、腰を低くして、ゆっくり進む

先日、長野県と岐阜県にまたがる乗鞍岳に行ってきた。日本百名山のひとつで、2千数百メートルのところまでバスで行けて、登山初心者でも3千メートル級の山歩きを味わえる。前々から登山ツアーを予約して、楽しみにしていた。

荒天のなかを登る

秋のはじめ、下界はいいお天気だったのに、山の上はあいにくの荒天だった。霧であたりは真っ白で、強風が吹き、断続的に雨が降っていた。山は天気によって全然違う顔になる。私たちの少し前に上ったパーティーは中断して下山したという。ガイドさんもわれわれも中止の可能性があると理解を求めつつ、持参のレインウエア上下を着こみ、上り始めた。
飛ばされると危ないのでストックは禁止。ザックカバーはしっかりとつけるように指示される。
強風の中で歩くと、平穏な時より疲れるし、手袋をしていても手指が冷たくなる。足がつったと訴える人、気分ば悪いという人も出始めた。
進路を熟知しているガイドさんだったので、
「もう少し進むと風が弱まるところに出るので、そこ休憩しましょう」
といった指示に従っていくと、本当に少し風が穏やかなところに出た。
「これから非常に風の強いところに出ます。現時点で自信がないという方は、山小屋で待機していてください」
この言葉に、参加者22人のうち8人が添乗員と一緒に山小屋に戻った。
体質的に高地に強い人と弱い人がいるそう。今回のようにバスで一気に高地に来るパターンだと、高地順応できないこともしばしばあるという。

強い風をやり過ごす体勢

山は峠のところが風が吹き付けていくので特に風が強い。そういう場所のことを「コル」「乗越(のっこし)」などと言うそう。ガイドさんの予想通り、猛烈な風が吹き渡っていた。こういうときの体勢を習った。

  • できるだけ体勢を低くし、小股でゆっくり進む。

  • 強風が来たらしゃがんで頭を下げ、両手で足首をつかんでやり過ごす。

  • 風は呼吸のように、ビューッと吹いて弱くなり、またビューッと吹く。風が弱まったタイミングにゆっくり進む。

霧の中を山の呼吸を感じながら進んでいると、山全体が何か巨大な生き物で、その体内を進んでいるような、不思議な気持ちになった。

どうにか登頂できたときには、えもいわれぬ感動があった。晴れているときに絶景を見たような感動とはまた違うが、なにかやり切った感だろうか。世の中には、わざわざ厳しい山に登ったり、雪山に挑む人もたくさんいる。山には自分の限界と向き合わされ、力づくで乗り越えていくおもしろさがある。だから気づけばはまってしまうのだろう。

人生も、うまくいかない時には、腰を低くし、ゆっくり進む

強風の時には身をかがめる。
小股でゆっくりと進む。

これは人生にもいえることだと思った。人生も、天気も流れもあって、いい時には何をやってもうまくいったりするが、そういう時ばかりではない。強風にあおられ、冷たい雨に降られ、行く手をはばまれることがある。次々に道を閉ざす大きな岩が出てくることがある。

そんな時には、身をかがめること。腰を低くすること。風をまともに受けない。正面から戦おうとしない。風の少ないところがあったら休んで体力温存する。少し風が弱まったところで、一歩、一歩と進んで行く。きっといつか、どこかに出るはず。

山は、いつも必ず何かを教えてくれるものだな。また、行こう。


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