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大きく強く、なるその先は?!

北欧絵本を紹介する記事、すっごく久々に更新します。

今回紹介するのは、"Stor og stærk" 『大きく強く』。現代児童文学作家として、デンマーク国内で最も有名であり、毎年、新作を発表している、キム・フォップス・オーカソンの作品です 。彼の作品は、日本では『おじいちゃんがおばけになったわけ』と『ママ!』の2作品が翻訳されています。


デンマークでは、絵本からヤングアダルト、グラフィックノベルなど、幅広く作品を展開しているオーカソン氏。彼の作品には、いつもオーカソン節というか、彼独特の言葉遣いや話の展開があり、やっぱりなぁ、やってくれるなぁ!という感想をもってしまいます。デンマークでは大人気の児童文学作家ですが、日本であまり訳書が出版されないのは、もしかすると彼が作品を書くときの姿勢が影響しているのかもしれません。

子どもにお話を書くにはふたつの方法がある。一つはあるがままの世界でお話を書いていく方法、もう一つは、こうあるべきという世界でお話を書く方法。ぼくらは難しいことでも、現実に生きている世界で起こっていることを扱っていくべきだと思う。 キム・フォップス・オーカソン

こう語ったオーカソン氏の作品は、以前、ノルウェーで、主人公の子どもの言葉遣いが下品だという理由で、クレームがついたこともありました。

デンマークでは読み手の大人も大爆笑してしまう作品も多いのですが、国や文化を超えた途端、全然笑えない…と、固まってしまうようなこともある彼の作品。もしかすると日本社会には馴染みにくいものが多いのかもしれません。

作品のあらすじ

さて、今回の作品『大きく強く』。主人公のぼくは、まだ幼稚園に通う小さな男の子。毎朝早く、起きたくないのにパパとママに無理やり起こされ、食べたくないのに朝食を食べ、行きたくないのに幼稚園へ行く日々です。夕食には嫌いなキャベツ料理を食べ、お手伝いをさせられ、お風呂では身体と頭を洗い、歯磨きをして、さっさと寝なくてはいけない日々。それがずっと続いていました。

ある朝、「さっさとオートミールを食べなさい!」と、イライラしながら言うパパに「何で食べなきゃいけないの?」とぼくはたずねます。するとパパは「パパとママがそう言ってるからだ。身体に良いから。大きく、強くなれるから!」と言います。けれど、そう言うパパとママは、トーストにバターをたっぷり乗せて食べている…。なんで大人はオートミールを食べないの?とぼくがたずねると、パパは怒って、「もう大人は大きくて強くなってるからだ!言うことを聞かないなら、お尻をたたくぞ」と脅します。

おー、こわこわ。そこでぼくは仕方なく、パパとママの言う通り、オートミールを食べるのですが、するとなんとも不思議なことに、翌朝、ぼくは筋肉ムキムキの、大きくて強そうな身体に変身してしまうのです。

自分が"大きく強く"なったことを確認したぼくは、パパとママの寝室に飛び込んでいきます。「まだ6時だぞ!」というパパに、ぼくは「今日から、朝ご飯にはお菓子が山盛りのケーキを食べる!」と言います。そして「もしぼくの言うことが聞けないなら、お尻をたたくぞ」とパパとママを脅します。

「トーストが食べたい」「コーヒーが飲みたい」というパパとママ。それに対し、大きくなったぼくは「だめ。ぼくがケーキといったら、ケーキなの!」と、パパとママの口調そのままに答えます。

その後、仕事に行きたいとお願いするパパとママを、ぼくは一日中遊びに付き合わせるのです。サッカーもぼくが一人でボロ勝ち。すべてはぼくの言うままに。夕飯はピザ。その後は、ポップコーンを食べながら映画をいくつも見て過ごし、ぐったりしたパパとママは眠りにつく前に「明日の朝は、オートミールが食べたいな」と小声でお願いするのです。


子どもがパワーを持つこと

この作品は、もちろん子どもたちに人気があります。いつも文句を言いながらも、結局は大人の言うことに従って、忙しい日々を送っている子どもたちには、この主人公のぼくの気持ちがとっても良くわかるからでしょう。子どもだって、好き好んでこの生活リズムを続けているのではないし、選択の余地もありません。親に言われたら、いくら反発したって、丸め込まれたり、強制されたりしてしまいます(まぁ親だって嫌々やっている人もいますが)。だからこそ、主人公のぼくが、大人より強くなり、朝からお菓子が山盛りのケーキを食べたり、親と一日中、好きなことをして遊んで過ごすことを、子どもである自分が、大人に強制する!!こんなに楽しいことってないだろうなぁ、という妄想劇場になるのかもしれません。

この本を読んで、わたしは「長くつ下のピッピ」を思い出しました。この人もかなり好き放題に生きていて、どんな大人にも勝ってしまいます。ピッピも力持ちで、そして金貨も山ほど持っていて、周りの大人には全く勝ち目はありません。

ピッピは、作品が発表されてから70年以上、世界中で愛されていますが、作品が発表された頃、ピッピの生まれ故郷のスウェーデンでは、教育関係者から、常軌を逸している、とか、不健全で不自然な子どもの姿だと批判が相次いだそうです。作者のアストリッド・リンドグレーンは、バートランド・ラッセルの「権力への意志」という言葉を引用し、ピッピが子どもたちに人気があるのは、子どもというものが、自分で物事を決められる力にあこがれを持っているからだろうと分析しています。力もお金もあって、学校にも行かず、一人自由に暮らしているピッピの姿には、昔も今も、子どもたちが憧れる要素が多いのかもしれません。

「大きく強く」を子どもに読んで聞かせる側の大人たちは、日々の自分の姿を投影し、少し苦々しい気持ちになるかもしれません。読み終えたときに、喜んだ子どもがあれこれ注文し始めて、イラっとする人もいるかもしれません。絵本は、大人が選んで読み聞かせることが多いですし、あえて大人を敵に回す、とまではいわなくても、大人が苦々しい思いをする本を作るというのは、どんな時代でも勇気がいるのではないかなと思います。

それでも、オーカソンやリンドグレーンが、子どもたちの日常やあこがれに寄り添った作品を作っていることはすばらしいなと思ってしまいます。絵本ってやっぱり、大人の希望の世界だけではなくて、子ども自身の現実や気持ちに寄り添ったものでもあってほしいなと、昔、子どもだったわたしは思ってしまうのです。

"Stor og stærk" Kim Fupz Aakeson, Illustration: Siri Melchior,  Carlsen, 2013

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さわぐり
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