イタリア人
歳を取ってくると本当になにをやっても眠い、だるい、疲れる、という感じで寝起きも時間が掛かるので、すっかり深夜の時間に起きてサッカーを見ると言うことができなくなった。
なので今回のユーロ2020も結果も知りながら、オンデマンド放送を見ているのだが、結果を知っていても準決勝のイタリア対スペインの試合はすこぶるおもしろかった。
今大会のイタリアは中盤でヴェラッティ、ジョルジーニョを両立させて(でも代表だとヴェラッティめっちゃ守備する)、ポゼッションサッカーを両立させていたのが昔っからサッカーを見てるオッサン、それこそ「守備の文化」とか言われてるイタリア(よく考えると守備の文化ってなんだ?他の国は守備しないのか?)を知ってる人間からするとそれは見事なポゼッションで両ワイドに選手を貼らせて幅をとり、ボールを回して引っかかってもすぐにプレス、プレスバックを絶え間なく行いすぐに改修、またボールを回してチャンスを作るという、誰がどうみてもポゼッションサッカーというサッカーを展開していた。
だがイタリアの準決勝の相手はスペインだった。
「チキタカ」と如何にもリズミカルな言葉で表されるワンタッチ・ツータッチでボールを回す、それでワールドカップもユーロも連覇した「貴様に本当のポゼッションサッカーを見せてやろう」っと海原雄山なみにデカイ顔で堂々とボール回しをするスペインが相手だった。
あんまりリーガをちゃんと観てないのでスペインの知識は小澤一郎さんのYouTubeだけなので、あんまり対した事はいえないのだが、初めてバルサのMFペドリのプレーを一試合観て「この人サッカー上手すぎ」っという気持ちになった。
難しいことしない、確実にパスを繋ぐ、ワンタッチ、ツータッチ、スペースがあれば持ち上がって食いついたところでまたパス。それを繰り返して、時々三人ぐらい置き去りにして全線にボールを届けるその緩急が憎い。
絶対一緒にサッカーやったら自分がサッカー上手いと勘違いさせてくれる、チームを機能させてくれる絶妙のバランサー、いや司令塔なのだろう同じ中盤を組むコケ、名手ブスケッツのサポートもあるのだろうけどトップから降りてくるデル・オルモと一緒にイタリアのプレスをはがしていくプレーは圧巻だった。
これだけパス回しに参加して確かキーパス(シュートに繋がるパスの事)は今回の大会ではベスト10にも入ってなかったのは以外だけどそれだけゲームの組立に参加していたということだろうか?
ちなみにキーパス数1位はご存知デブライネ、怪我で本調子じゃないのにそれでも結果を出す、ただのバケモノだなあ。
話それたけどとにかくスペインのポゼッション圧巻だった、でも肝心のペナルティーエリア内でのひと手間がイマイチ、そうしてると当然のごとく先制点を上げたのはイタリアだった(ポゼッションチームあるある)。
スペインの圧に苦しみながらも、耐えて耐えてGKドンナルンマのスローから繋げて、左サイドからスペースにアウトでGKとデンフェンスの間に流されたボールはゴチャゴチャとなってどちらにも付かずになったとき、全速力で駆け上がりながらもフォワード嗅覚でチャンスを嗅ぎ取ったフェデリコ・キエーザがボールを右足のアウトで自分のものにする。
対峙するスペインのデフェンダーは当たり前の如く縦を切るが、キエーザはアウトサイドでボールを自分の足元深いところにボールを置いた、股の下にボールを置くわけでもなく、かといって狭いペナルティーエリア内で遠くにボールを置けるわけではないので、アウトサイドで繊細にボールを動かしていく。
当然キエーザの得意な横のカットインしてシュートコースが一番近いゴールへの道になる、右利きの選手というのもあるけど左サイドでボールを持って左に動いたらゴールから遠くなるし、この時点で右しか無い、キエーザの前を塞ぐように、二枚のデフェンダーが立ち塞がる。
ゴールへの門が閉じようとする瞬間、小さな隙間があった。
二枚のデフェンスはプレスに行こうとしても、デフェンスラインにはインモービレもラインに居て前に出られない、その一瞬、キエーザだけが門が閉じられてしまう門限が分かってたのか、右足で半歩分くらいボールを持ち出して早いタイミングで右足を一振り、彼は門が閉じる一瞬空いた隙間にインサイドでカーブを掛けてボールをサイドネットへ届けてみせた。(後日フットサル場で自分も右足アウトで触ってからすぐにインサイドキックやってみたけど、体幹ブレブレで無理だった)
鮮やか。
全てが一瞬でそこしかなかったゴールへの道に彼の技術と気持ちがボールを届けた。
それを見てそういえば父ちゃんのエンリコ・キエーザもそこに決める?って感じの強烈なゴールを決める選手だった。
喜んでる姿もそっくりで、親子二代でストライカー(決める人)ってのも凄いなあと感心すると共にイタリア人選手の、いやあのスタジアムに居た全イタリア人の歓喜の爆発は色々な鬱屈もあったからなのだろうか、それとも「そういうのが好き」なのか、とにかく耐えて耐えて一発で劣勢を覆す。
ああイタリア人が世界一般のサッカーとかフットボールと呼ぶのではなく自分たちの国の言葉で「カルチョ」と呼ぶものに望んでるモノって「我慢から爆発する歓喜」なんだろうなあと、そのためだけにサッカーと世間一般では呼ばれてるけど、イタリア人のカルチョは一発勝負の博打みたいな、分が悪いけど勝ったら喜びも大きい、そんな集中力というか祈りのこもったものなんだろうなあとバカみたいに燥ぐアズーリを応援する人達の笑顔を見て、忘れてた「これぞカルチョ」ってのを思い出した。
だからその後でモラタに同点ゴール決められて泣いてるイタリア人サポータの顔を見て「まだ同点じゃん」って思ったけど、優勢なスペインのボール支配にもうダメだってすぐに落ち込んじゃったんだろうなあと思うと、勝ち目があるときの粘り強いイタリア人と、勝ち目が無いと諦めるのが早いイタリア人の両極端な性格がますます可愛らしなあと。
そのあと、お互い死力を尽くして、決勝リーグ全部延長戦闘ってるスペインが先に力尽きて、ジョルジ-ニョの芸術的なキックで試合は終了した。
とにかくどっちが勝ってもおかしくなかったけど、イタリアがイタリアの魅力を余すことなく伝えて勝った試合だった。
そういえばサッカーライターの後藤健生さんが「ワールドカップとかで歴史に残る名勝負ってのは準決勝が多い、それは決勝だとお互い勝ちたいから守備的になって堅い試合になるけど、準決勝はまだそのプレッシャーも無いし、チームとしても良い状態で闘えるから、準決勝は名勝負が多い」みたいな事を言ってたなあと思い出した。
やっぱり観るサッカーだったら選手が、いやスタジアムに居る全員が笑って、怒って、泣いて、服脱いだりして感情を爆発させてる姿を見てる方が楽しい。
楽しかった観るサッカーが帰って来たなあと感じた楽しい試合だった。
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