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結婚記念日には

毎年結婚記念日に夫がちいさな花束を持って帰ってくる。
わたしが誰かからもらう花を愛していて

「わたしね、結婚記念日にはまあちゃんが花束をくれるって噂を聞いたよ。」

などと何日も前から噂話を流しておくので仕方なく花を持って帰ってくるのだ。

夫は相変わらず花の名前がひとつも覚えられないし、彼が自分で花を選ぶとなるとスーパーの仏花コーナーから、『可愛かったから』という理由で紫色の小菊を買ってきてわたしをギョッとさせたりするので、最近はお店の人に「妻に渡すのでドライフラワーにもなる花で小さな花束を作ってください。」と言うことを覚えたそうだ。


普段夫だけでは入る事がないであろう花屋 洋菓子店 デパートなどで私のプレゼントを選んで渡してくれる特別な日があるたびに、私は初めてのお使いを頼まれた5歳の夫に会った気分になる。

そっとお店のドアを開ける5歳の夫の緊張した口元や丸まった背中が見える気がして胸がぎゅっとなる。

夫から、お店の人にプレゼントのアドバイスをもらったよという話を聞かされると、自分のテリトリーではない場所に夫がひとりで入って行き、私のために何かを選ぶ姿を想像して胸が震える。

私の喜びそうなものを考えて買いに出かけてくれたという事実と、居心地の悪い店内での夫の心細さを想像して すぐにでも抱きしめに行きたい気持ちになる。

わたしの全く好まない(好まないのではなく自分では選ばないと言ったほうが適切かもしれない)淡いピンク色の花たちで構成され、ご丁寧に同じようなピンクのぴらぴらのリボンを纏った随分乙女な花束を持って、照れ臭そうに「結婚記念日」とつぶやく彼のことを本当に愛しく思う。


わたし達は結婚式で2人のちいさな約束をした。
神の前で健やかなる時も病める時も命ある限りにお互いを愛することを誓うほどドラマチックで大それた愛ではないし、そんなことを一生神に誓える気もしなかった。

友達や家族に見届けてもらえればそれで十分だし、神様と約束なんてできないよ。と人前式を選んだ私たちの約束は、あの日もらった白い薔薇だけでできたブーケと同じようにとてもシンプルだ。

「ごめんなさい」より「ありがとう」をたくさん言える2人であること

結婚記念日には2人で美味しいものをたべること

わたしたち夫婦の約束はたった2つだけ。
参列した友人にもわたし達の家族にも、もっと色々無かったのかと披露宴で質問されるほどだったが、わたし達ふたりにはこの約束さえあれば十分な気がしたし、今でもそれは変わっていない。
わたしたちは守れない約束はしないし、簡単だけどずっと積み重ねていける物事はわたし達を強くするとふたりとも信じている。


今年もまあちゃんは結婚記念日にきっと花屋のお姉さんのオススメで乙女な色をした花束を持って帰ってくるだろう。

わたしは淡いピンク色は好きじゃないのよと何度言っても花屋のお姉さんのオススメを断れない可愛いまあちゃん。

普段結婚指輪を付けたりしないのに、記念日には必ず指輪をつけて出かけてくれる、ぶっきら棒だけど心優しいまあちゃん。

わたしが悩んでいたって泣いていたって、マイペースに自分の世界で飄々と生きるまあちゃんと暮らしているおかげで、依存したり落ち込み過ぎたりせずにわたしは生きていけているのかもしれない。

記念日にはわたしもうんと腕によりをかけたご馳走を作って夫を出迎えたい。
夫は甘いものを滅多に食べないけれど可愛いケーキも作ったりなんかして。
結婚式のDVDでも観ながら2人でお酒を飲もうね。
窓を開けて、秋の風だね なんて言いながら2人で美味しいものを食べて笑い合って、膨らんだお腹で満ち足りて眠りたい。

夜中に寒くなったらそっと毛布をかけてあげるから。
風邪ひかないで。ずっと元気でいて。

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