回顧録【ベンガル人からの教訓】
機内から見える地面は緑と茶色で覆われていた。
遠くの方は白く霞んでいてよく見えない。
始めて降り立ったその土地は、海と砂とほんの少しの香辛料が入り交じった独特な香りを放ち、私を出迎えた。
ここ、コックスバザール空港には荷物を返すためのベルトコンベアは無いらしく、キャリーケースが雑多に積まれたコンテナから乗客が各々の荷物を取り出す。
日本では絶対に見ない光景が広がっているのがバングラデシュという国である。
バングラデシュ人の性格を一言で表わすなら、良くも悪くも「適当」である。
お金が足りなくなって、建設途中のまま放置された建物が至る所に見られる。
ごみがその辺に散らかっているかと思えば、店を風船やカラフルなライト(日本じゃクリスマスでしか見ない)で彩り、客を招いている。
そしてなぜかホテルの駐車場で爆弾(枕)ゲームが盛大に繰り広げられていたりする。
それでもこの国がなんとか回っているのは、人々が互いの存在をある意味許し合っているからだろう。
いや、諦めていると言った方が正確だろうか。
道路を埋め尽くすトムトムは、それぞれが動きたいように動き、息をするようにクラクションを鳴らす。早く行けと相手に促すためではなく、自分を通せと主張するようにだ。
価格の交渉も忘れちゃ行けない。この距離ならもっと安くなるはずだ、と言ってのける。
相手に期待しない姿勢は、見ていて清々しい。
それぞれの主張がぶつかれば喧嘩にもなる。
でも、雨降って地固まると言うように、もしその後も関係性が続けば、それはより強固なものになるし、お互いをよく知ることができる。
違いを恐れる勿れ。
私たちはみなそれぞれの道を歩く違う生き物である。
無理に近づこうとも遠ざけようともしなくていい。
目の前で起きた出来事をありのままに受け止め、素直に自分がしたいことをすればいい。
それがベンガルの地の人々から受け取った教訓である。
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