麦とパピコ②
麦との思い出に、まだズブズブなのに新しい子をお迎えした私。
前回書いたように、寂しかった心を紛らわしたかった…と言う、ズルい考えもあった。
でも、やっぱり、麦と過ごした楽しかった日々をもう一度送りたかったと言うのもある。
母親は、麦を亡くした私を、よくホームセンターのペットコーナーへ誘った。
「花を見に行きたいから」とか何とか言って、花で立ち止まりもせずペットコーナーへ。
「見て見て!あんなに小さいのに毛繕いしてるよ。可愛いね。また飼えば?」なんて言う。
「多分、お別れの寂しさに耐えられそうもないよ」と答えていた。
母は麦の種類より小さなジャンガリアンを勧めていたが、私の目はやはりキンクマハムスターに釘付けだった。
ゴールデンののんびりした子達の上に重なるように眠っていた子に目が惹き付けられた。
それがパピコ。
誕生月を見ると、「2023年3月」
麦より小さくて(当たり前)
麦より顔付きがベビたん(当たり前)
その内なんの理由もなく、1人でホームセンターへ行くことが増えた。
出会いから間もなくして、私の心にある変化が見えた。
「麦のゲージを片付けよう」
これは私には大きな一歩だった。
麦が息を引き取る瞬間まで潜っていた布団。
途中まで齧ったガジガジ棒。
使っていた水飲み。
ご飯入れ。
若い頃は明け方までカラカラカラカラ遊んでいた滑車。
そのままにしていた。
夜中にカラカラと遊び始めるんじゃないかと思っていたから。
毎朝ご飯入れには新しいご飯を入れて、お水を交換して。
思っていたというか…望んでいた。
居ないことは理解してるのに。
朝起きたら、麦がのそのそ起きて来て、ご飯を食べる気がしていたから。
それはもう叶わない。
やっとこ心を決めた。
でもやっぱり寂しくて、麦の使っていたお布団と、途中まで齧ったガジガジ棒と、必死で毛をむしっていたタワシみたいなおもちゃをボトルに詰めた。
蓋を開けると、ほんのり麦の香りがする宝物。
お布団も無くなり、麦の香りの無くなったゲージ。
部屋の隅に置いた。
そこから数日が過ぎ、いつものホームセンターへ。
相変わらず一緒のゲージにいるゴールデン達を踏んずけてグーグー寝てるキンクマ。
「この子態度でかいよな」
それがパピコの第一印象。
日が経つ毎にどんどんいなくなるゴールデン。
もうキンクマは踏んずける友達も少なくなっていた。
ふと店員さんに話しかけられる。
「いつも来てくれてますね!抱っこしたい子、いますか?」
私は「いやいや…あの…み、見てるだけなので…」としどろもどろ。
「あの…この子と一緒にいた子達は…皆飼われて行きましたか?」と、キンクマを指し聞く。
そりゃそうだろーよ、って後から考えたら思う。
「ゴールデン、お子さんに人気あって…昨日、1組ご家族が来て、お子さんがハムスター欲しいって言ってて、この子(キンクマ)どうですか?って訊いたら「もっと小さいのが良い」って…」と店員さん。
「え!この子もこんなにも小さいのに?!」と驚く私。
そうだよね。
私、麦の大きさに慣れてるから、生後約2か月の子はめちゃくちゃ小さく見えるよね。
その日、突如、そのキンクマを連れて帰る事に決めた。
だって…きっとこのままどんどん大きくなるんだもの。
そしたら「もっと小さい子が良い」って言われる回数が増えるんだもの。
店員さんに「この子、連れて帰りたいです!」と伝えると、すごく嬉しそうな笑顔で、「良かったです☺もしこの子がこのまま飼って貰えなかったら、私飼おうと思っていたんです。」と。
その店員さんに、麦を失って間も無いこと。
ちゃんと育てられるか不安があると言うこと。
麦を裏切ることになるのでは無いか。麦の身代わりとして迎え入れる様な気がして悩んでいる。
色々話してしまった。
すると店員さんは、「お客様は、この所毎日のように来て、この子のこと見ていたので、きっと飼うことを悩んでいるんだろうなって感じていました。だからいい加減な気持ちなんかではないと思います。前に飼っていた子と、同じくらい、それ以上に可愛がってあげてください。」と背中を押された。
購入する際の説明と、書類にサインしている間、箱に入れられた小さな命は、カサカサと箱を引っ掻いていた。
こうしてパピコと私の生活が始まった。