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サボイのカメ日記-7 記憶の口

ごはんをたべるようになって
こちらに気を許してからというもの
カメの口は無防備だ。

先日の水中あくびも然り。
どうやらカメは
小さく口を開けることができないらしい。

いつだって全開のカメの開いた口が
ずっと心に引っかかっている。
この既視感は、いつのなんだろう?

脳内記憶マシーンをぐるぐると掻き回してみる。
昔に遡れば遡るほど
商店街の古いガラガラくじのように重たい。
時折スカスカに軽すぎて拍子抜けするところもある。

カラン。
思いがけず、赤玉が一個飛び出して
コロコロと転がり私のすぐそばに近寄ってきた。

指でつまんで拾いあげてみると
赤玉は一枚の赤い折り紙になった。

ツヤのある赤い折り紙に誘われて
四つの隅を中央へ折る
裏返してまた四つの隅を中央へ折る
確かめたい衝動にかられて
指が勝手に動いていく

出来た4つの袋に
両手の親指と人差し指を入れる

これは小さい頃に
折り紙でつくったパクパク。
すっかり大人になった私にも
愛嬌よく動いてみせた
これが亀の開いた口にそっくりだったのだ。

辿り着いてみれば
まだなにかあったような気がして
物足りなさを感じてしまう

外は風薫る5月
亀が連れてきた懐かしい思い出
世にも奇妙なカメ語り



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