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サボイのカメ日記-9 忘れていたあの日

あの日あの時あの場所で 君に会えなかったら〜
僕らは いつまでも 見知らぬ二人のまま〜♪
小田和正さんが透き通る声で歌っていたとおりだ。

出会いとは不思議なもの。
でも
運命の出会いがあっても
環境が整っていなければ
その縁は無情にも途切れてしまう。

私も出会いと別れをいくつ繰り返しただろう
ふと遠い空を眺め
目を細める。

あの日もそうだった。
子どもの頃
友達と行った近所の公園の縁日。

ひときわ人だかりがあったので見ると
赤やオレンジ、黄色の光がゆらゆらと揺れる水面に
小さな丸い亀たちが、プカプカ浮かんでいた。

血気盛んな猛者たちの亀すくいの網は
つぎつぎと夢破れていった。

こんな時の私は無駄に運がよかった。
なにかの偶然で
いっぴきのカメをゲットすることができた。

有頂天で家に帰った私は
「イマスグニカエシテキナサイ。 」
と母にきつく叱られた。

口論もむなしく
数分前にウキウキしてきた道を戻る。
ドナドナの気分だ。

固いコンクリートの地面が
涙でむにょむにょにみえる道を歩きながら
母を鬼だと思った。

自分が大人なら一緒にいられたのに
出会うのがもうすこし後だったら
そう思った。

あれから時は流れに流れ
あの日の悲しい別れなどすっかり忘れていた私は
また一匹のカメに出会った。

物語はいつから始まっていたのか。
もう見知らぬ二人ではないのだ。

ふたたび動き出した
東京カメストーリー 2022




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