1-9 リストカッターならぬハート♡カッター
大手日系メーカー、ベンチャー企業、と2社を経て、やりたいことがよくわからなくなってとりあえず仕事を辞めてみた29歳、独身、男。仕事について、人生について、考えたり、サボったりするリアルな様を、自伝エッセイ風小説にしています。最後、現状の自分に追いつけるような予定です。ぜひお付き合い頂ければ幸いです。
この頃、僕は自信を無くしていた。
そもそも低い自己肯定感。
それに加え自分への信頼度が更に落ちていた。
特に、仕事をすることに対して自信を無くしていたんだ。
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きっとうまくやれると思っていた。
いつもの自分でいれば何でもできると思っていた。
でも、何もできなかった。
何よりも、それを乗り越えられない自分の弱さを見るのが悔しくてしょうがない。
そうして僕は心を閉ざし、自信を自分という存在から捨て去ることにした。
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自信をなくすと人はどうなるだろう。
僕の場合は自堕落な生活に走った。
寝て起きて食ってスマブラをして。
でも、生活から落とせないことが2つだけあった。
読書と運動だ。
1日1回どこかのタイミングでランニングかzwiftをする。
『失われた時を求めて』を毎日読んだ。
本は、特に面白いとも思えない部分が続くとさすがにきつい。
けど、美術館で特別美しい作品に出会って立ち止まる時のように、甘美で素敵な文章や忘れられない場面がたまにフラっと訪れる。
だから、読み進められた。
その頃、『失われた時を求めて』の主人公は2度目の恋をしていた。
幼年期の未熟な恋を経て、青年期に差し掛かる。
年上の女性に憧れる恋に移行し、それはそれは深い恋の病に陥る。
僕は、主人公が実態からかけ離れた女性像のイデアを愛する様に、自分の中高生時代の女性の愛し方を見出す。
愛欲と性欲のハザマで寝苦しい日々を送っていたことを思い出した。
ぐう懐かしい。
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自信とは無縁なところで粛々とこなすルーティンワーク、つまり読書と運動が自分の最低限のバイタルレベルを底上げしていた。
この2つは僕の人生から拭えないものらしい。
でも、表には出ていなくても、この頃の僕は基本的には自信を無くした人間らしい心の動かし方をしていた。
自分を傷つけ、自己肯定感を下げに下げて、感じた心の痛みで自分を確認する。
リストカッターならぬハートカッターだ。
第1章 終わり