元・刑務官(刑務所の看守)に話を聞いてみた。中編

前編では、刑務所の夜勤のお話を明かしていただいた元・刑務官のAさん。今回は日勤のお話から人事のお話、そして意外に重要なテーマである”部活動”のお話まで、赤裸々に語っていただきます。(取材・構成:西部湯瓜)

それでは、日勤のお話について聞かせて下さい。

A氏:受刑者が昼間に何をやっているかっていうと、工場での労働ですよね。だから日勤はそれに伴う業務になります。工場って言っても、規模はピンからキリまであって、一概には言えませんが、ひとつの工場につき、だいたい30〜60人の受刑者が働いていると思ってください。それで、その工場を取り仕切る人たちがいます。私は彼らのサポートをします。

ということは、Aさんは取り仕切る人には当てはまらず、あくまでサブ的な立ち位置であって、メインとして取り仕切っているのは別の刑務官というわけですか?

A氏:はい、そういう意味です。工場を取り仕切ることを、私たちの間では”担当を持つ”と言っています。担当を持っている人は、基本的に仕事のデキる刑務官になります。50人くらいの大勢の受刑者をまとめ上げるわけだから、それ相応の高い能力が無いと担当は持てません。刑務官にはレベルというかランクのようなものがあるんですが、同じランクでも担当を持っている人といない人がいます。大勢の受刑者たちに指示通り動いてもらったり、注意を聞き入れてもらうということは、受刑者からの信頼も必要だということです。なので、受刑者からの信頼を勝ち取れる人が担当を持つことになります。ちなみに、担当を持っている人は、受刑者だけでなく私たち他の刑務官にとってもリスペクトの対象ですが。

いまのお話だと、担当を持っていても、持っていなくても同じランクなら、担当持っている人からすれば頑張り損になってはいませんか?せっかく大変な仕事をこなしているのに。

A氏:いえ、担当を持っている人は理想的な生活サイクルが保証されるので、大変な仕事を頑張る価値があります。工場の担当は日勤オンリー、夜勤無し!しかも月曜から金曜に出勤、土日が休みです!

すごく重大なメリットのようですね。

A氏:これは大きいですよ。先程お話した通り、夜勤には特有の業務のつらさがある上に、生活リズムが酷なのです。ただでさえ4日に1回というハイペースで夜勤が回ってきます。その上で4日に1回、日勤もやるわけです。

常に眠たそうな状況が想像できます。

A氏:それだけじゃありません。私たち刑務官は部活動への参加がマストです。部活動という響きだけ聞けば、和気藹々で楽しそうなイメージでしょうが、実態は違います。部活動は、柔道部か剣道部の2つから選びます。私は柔道部でした。この部活、最低でも月に4回の練習参加が絶対条件です。

ということは週に1回ペース…。

A氏:はい。しかも、それは所詮、紙の上での話。実際には、「若いやつは毎日行く気持ちで練習をこなせ」と上から言われます。本当に4回しか行かなかったら、めちゃくちゃ怒鳴られました。で、働いてしばらく経つと、だんだん本当のラインの見えてきます。10回行けば怒鳴られないと。なので、10回を目指すわけですが、これは過酷です。3日に1回のハイペースで柔道の稽古に行くと、疲れ切って、平常業務に支障をきたします。ぶっちゃけ言うと、一度だけ夜勤中に眠ってしまったことがありました。

それは…。

A氏:もう全身に疲労が溜まってクタクタで、見回り中に休憩がてら階段に座ったら、極度の睡魔が襲ってきて。そうだ、5分だけ休憩しようと。で、そのまま寝落ちしてしまい、交替でやってきた先輩に見つかって起こされました。「ああ、終わったな」と思いましたね。これは終わったな、と。上に報告されて、偉い人の部屋でガチギレを頂きました。後にも先にも人生で頂いた中で最上級のガチギレだったと思います。震えました。

柔道が役にたったことはあったんですか?

A氏:ないですね。ただの一度も。はっきり言って悪影響しかありません。かなり体育会系の職場なので、みんな何とかやってるんだと思います。居眠り発覚事件のあと、徐々に刑務官を辞める方向に心境が固まっていきました。勤務最終月には稽古を全部サボりました。「おい、お前いつ稽古行くんだ。もう後3日しかないぞ。どういうつもりだ?」と詰められて。「あ、ぼく、今月で辞めますんで」って言い返したら、「お、おう」って(笑)。

そこはさすがに怒鳴らない(笑)。ここまで過酷な職場環境だと辞めたくなる気持ちは十分に理解できます。

A氏:ある年に入った新人は3日で辞めました。

早い…。それでは、話を元に戻して、日勤のお話です。担当を持ってる人が、夜勤の人たちと比べて恵まれた生活サイクルだということのは、よく分かりました。

A氏:はい。なので、私たち若手にとっては、誰がいち早く夜勤を抜けて、日勤に上がれるか。これが重要でした。毎年、4月と9月に人事異動があります。ぶっちゃけますね。それを意識して、減点を稼ぎます。

この減点稼ぎの話はスルーさせて下さい。日勤のお仕事内容について、具体的な内容を聞かせていただけますか?

A氏:はい。私たち夜勤メンバーは日勤メンバーのサポートをするというのは、先程お話しましたよね。具体的には、昼飯時の立ち合いです。ご飯はよく揉めるので。午前中、受刑者が工場で作業している間、配給係に割り当てられた一部の受刑者がお昼ご飯の支度をします。工場ではまだ作業中なので、工場の担当者は、ご飯をよそう場所まで目が届きません。そこで、私が立ち会います。これを”配給立ち会い”と言います。

配給立ち会いはどんなことをするんですか?

A氏:例えば、ご飯をよそう量が適量かどうかをチェックします。たまに多めにご飯がよそわれたら、”修正”の指示を出します。「あいつの方がご飯の量、多いんじゃないの?」とトラブルになるのを避けるためです。

配給立ち会い以外にもサポートする仕事はありますか?

A氏:あります。毎日ではないですが、工場での労働後、入浴があります。風呂場での立ち会いですよね。お風呂が終わったら、今度は”環室”です。朝にやる”出室”の逆です。全員を整列させて、舎房まで帰します。これもメインは担当の先輩がするので、私はサポートに回ります。

―”出室”と”還室”で、Aさんは私語を注意したりサポートするとのことですが、メインの担当者はどんな仕事をしているんでしょうか?

A氏:移動中の行進です。「イチ、ニ、イチ、ニ!」と掛け声を出します。

なんだかんだで、全員まとめ上げてしまうところが凄いですね。中には、絶対にまとめられないような人もいると思っていました。

A氏:いえ、いますよ。例えば、身体的なハンデや精神の病気など色々な理由で集団行動ができない人もいますし。他にも所内にいても暴力をふるう人には集団行動はさせられません。

やはり、そうなんですね。そういった人たちは工場に連れていけるんでしょうか?

A氏:それは難しいですよね。なので、”単独処遇”といって、別の建物の部屋で個別に対応します。

単独処遇について詳しく聞かせていただけますか?話せる範囲で構いませんので。

A氏:分かりました。

次回は単独処遇についてのお話です。