執着とともに前向きに生きる。
2年前、マッチングアプリで知り合った初対面の男性と、恵比寿の高級イタリアンで食事をした。
セフレの「彼」(※)があまりに冷たいので、「彼」よりお金持ちの男性と遊んで憂さを晴らそうと思ったのだ。店は私が指定した。
憂さ晴らしの相手を選ぶ基準を、顔の良さや年齢ではなく収入に置いたのは、「彼」が資本主義者を自称していて、いつも「カネカネ」言っていたから。
卑しいヒグラシみたいだな。けっ。
(※)「彼」…私の人生を変えたセフレ。10コ上。パパ活をやっている事が判明。最近ブロックされ、3年5ヶ月の歴史に終止符を打った。
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少し話した印象では、男性は典型的なオレ様社長だった。歳は15コ上。会話の端々に自己顕示欲が滲み出るけど、それくらいの方がわかりやすくていい。それに、憂さ晴らしの相手として選んだとは言え、収入以外にも「イイナ」と思えなければ会おうとは思えない。
パッと見てわかる高級品を身に付けない感性や、ざっくばらんな会話の運び、ワイルドな外見が、マッチングアプリの画面上から私のセンサーにぴぴぴーんとキていたのですよ。
とにかく第一印象を大切に。
私は戦闘服である白い花柄のワンピースに身を包み、いつもより通るワントーン高い声の発声練習、更にさしすせそ爆撃の準備をしていた。
しかしそんなチープな策を弄せずとも、優しくよく人の話を聞いてくれる人だった。会話はコロコロと弾んで止まることが無く、笑い声は絶えず、お互いよく食べよく飲んだ。
そう言えば、雲丹のクリームパスタとカラブリアの土着品種のマリオッコがとても美味しかったな。
店を出ると雨が降っていた。あまりにドラマチックにザァザァ降っているもんで、私達も何となくドラマチックに寄り添い、男はドラマチックに傘を広げ、相合傘をして駅まで歩いた。どちらともなく、自然と腕を組んだ。
恵比寿の街並みは私には目眩がする様な都会だった。そうそう、この日は昼間に雪が降ったのだ。寒さの中、縁もゆかりもない土地の景色は私の目にことさら冷たく映る。
「もしも私がこの土地で働いたり、住むことになったら…。いや、想像もつかないな。怖くて、無理だ。」
当時セフレの「彼」と会う為に月に一回、およそ片道1時間30分の道のりを経て新宿に通っていた私は、東京に一種の憧れと恐れを抱いていた。
手を伸ばそうにも届かない「彼」が生まれ、育ち、今生活しているその街、その文化、その空気。
遅れ馳せながらその中に飛び込んで、少しでも「彼」と共有できる価値観を私の中に増やしたいと考えていた。
しかし変化を嫌う臆病者の私は、出来ない理由だけはあれやこれやと並べ、「東京に出るなんて私には不可能。ぷぴー」と決め付け、思い込むことでどこか心の安寧を得ていたのだと思う。
駅に着いた。別れは惜しかったが軽くハグをして帰った。恵比寿の彼とはその後毎週の様に会って食事をしたが、ある日ちょっとしたことで私が相手を怒らせてしまい、会わなくなった。
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さて。あれから2年が経った。いま私は東京のど真ん中に住み、恵比寿やら新宿やらなんやらかんやら、東京のあっちこっちで仕事を経験した。飛び込んでみればなんてことはなかった。もっと早く出て来ていればよかったと心底思う。
私が東京に引っ越してきてからセフレの「彼」とは少しばかり距離が縮まった気もするが、少し前に「彼」から突然ブロックされその関係も終わったし、私も終わりを受け入れられる精神状態になった。もう互いにとってお互いが必要なくなったのだろう。でも、まだ愛している。
これまでの事を思い出して慈しむような愛情を感じることもあるし、恨みの気持ちがふつふつ湧いてくることもある。
また会いたい、としょっちゅう思うし、連絡しちゃおう、と思う事もある。執着は残っているのだ。
今はもしなにかの偶然で彼とまた会えた時、「あれ、サバちゃんなんか変わった」「成長したね」って言って欲しいなぁと夢見ながら、今までより少し美容に力を入れ、新しい分野の勉強をしたりしている。
新しい男で憂さ晴らしをするのはやめた。男は男、私は私。理想の男と遊ぶのはそれはもうサイコーに楽しいが、同時に劣等感もつきまとう。
劣等感を感じず、好きな男と対等になれる自分にならなければ本当の私の幸せはやってこない。こんな簡単なことに気がつくのにずいぶん時間がかかってしまった。
(先日、一番の女友達と会って話した。「最近、男のほうはどう?」と訊かれたので「最近めっきりだよ。セックスも全然したくならない。」と話したら友達は目玉をひん剥いて「嘘でしょ?サバちゃん・・・人が変わったみたいだね・・・。」と言われてしまった。)
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「紙に目標を書くと、それは実現する」と多くの成功者が言う。
内在する願望を言語化して記録することで、達成へのプロセスが可視化しやすくなるのかな。
私も実践しているが、達成した目標は今の所50%。
ちなみに恋愛関係の目標の達成率は20%といったところか。最近書き足したのは以下の2つ。
・10年かかってもいいので、セフレの「彼」と対等な友人関係になる。
・10年かかってもいいので、セフレの「彼」に私を好きにさせる。
私はもう少しこの執着とともに生きていきたいみたいだ。懲りませんね。もう、好きにやりますよ。あくまで、健康的に前向きに。
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