あの草原で出会った
エビ中にハマっている。
indigo hourを毎日聞いてる。
アルバムの流れが気持ちよすぎて、気がついたら終わってるのよ。毎回。
記憶に強烈に残るアルバムと、息をするように体に入ってくるアルバムは本当に良い。
キャッチーであることも大事だが、聞きやすいのも本当に重要。
indigo hourはキャッチーであり聞きやすいという、無いものがないアルバムだ。出来すぎている。
100均で『聞きにくいindigo hourありますか?』と聞いてみて欲しい。
十中八九『そこになければ無いですね』と返って来る。
セリアでもダイソーでもそうに違いない。
何でも揃う100均にないんだから、聞きにくいindigo hourはこの世に存在しない。
最近、懐かしい曲を聴くことが多い。
高校の時に聞いてたバンドとか、ラジオで流れた曲とか。
特にラジオで流れた曲は印象的で、部屋の風景だったり、車から見える車窓だったり当時の記憶が蘇る。
これは個人的にめちゃくちゃ好きな曲だ。
初めて聞いた時、ラジオを聴きながら寝落ちするタイミングで流れてきた曲。
普段の生活にちょっと花を添えるような別になんてことない曲なんだけど、シンプルな言葉選びが頭に残って、数年に1度思い出したように聞き返す。
ハナレグミの光と影もそういう曲だ。
高速バスに揺られながら、色濃く出る夏の斜陽を眺めて聞いていた記憶が蘇る。
先日テレビでハナレグミが出ていて、久しぶりに聞いたけど当時と感じ方が変わっていて、時間の流れを感じた。
こんな風に、誰しも『あの日、あの時聞いた曲』という物がある筈だ。
それは、特別なのに他人と共有しにくいけど、別に共有しなくていいものだし、個人個人が大事にしてればいいと思う。
ただ、共有し難いが確実にそういう体験はその曲を大事にしていくのだ。
先日、エビ中のライブに参加した。
indigo hourを引っさげてのツアーの大宮公演。
アルバムから感じられる聞きやすさはそのままに、パワーというか、圧が全体的に強くて、本当にエビ中の完成度の高さが感じられた。
アイドルにとってユニゾンのまとまりってめちゃくちゃ重要だと思うんだけど、エビ中すごいよ。
まとまり過ぎてる。最高。好き...
今後もツアーは続くため、大きなネタバレはしないようにするが、Summer Glitterをやった。
indigo hourの路線で1番最初に舵きりをした曲と言っても過言では無いSummer Glitter。
曲の流れもあり、めちゃくちゃかっこよく聞こえた。
Summer Glitterは去年のファミえんの印象で止まっているので、広大な富士山と山中湖のロケーション。
一日目の壮大な夕焼けと、2日目の照りつける日差し。
夏が持つ2つの印象に結びついている。
しかし、ツアーのSummer Glitterは人知れず繰り広げられる妖精たちの祭りのような、静かさと少しばかりの高揚感、それを包む美しさに満ちていた。
新しいSummer Glitterの一面を感じられて、とても新鮮な気持ちで見ていたのだが、3月から続く花粉により、なかなか開通することがなかった鼻が急に開く。それと同時に鼻に流れ込んでくる強烈なミントの匂い
なんだ!?
この爽やかさは!?
忘れていた空気のうまさ!
どうやら横のオタクがブレスケア(またはそれに準ずるミンティア的もの)を噛んだらしい。
Summer Glitterのサウンドとミントの香りが結びつき、『おそらくこの時のことは、時が経っても思い出すだろうな』と直感的に思ったのを覚えている。
爽やかな風。壮大な草原に放り出され、白いワンピースの少女と冒険に出かけるような感覚に陥ったのだ。
まるで夏休み家族に連れられてやってきた那須高原。
レジャーに振り切れない高原探索は、夏休みで昂った気持ちを抑えるには少し弱い。
カブトムシもクワガタもいやしないし、サワガニやニジマスも取れない。
目の前に広がるのはただの草っ原。
『あまり遠くに行くんじゃないよ』
という親の言葉を背中に、徐々に探索範囲を広げていく。
歩き続けると橋がかかった小川が見えてきた。キラキラと流れる小川を橋の上から見下ろす。なんてことのない川。目をこらすと小さな魚が群れを生している。小魚たちは光の加減で見えたり見えなくなったり、ガラス細工のように魚群の形を変える。
『まるで雲のようでしょう』
魚に向けていた意識に飛び込む突然飛び込む声に驚き、後ろを振り返ると白いワンピースの少女が立っている。
年齢は僕より少しばかり上だろうか。
『雲のようでしょ。一瞬一瞬で形を変える魚たちは。』
少女は僕の横に立ち、一緒に魚を眺める。
『うちの近くの川にはあんなに綺麗な魚はいないんだ。たまに鯉は見るけど』
『そうなの。』
話しかけておいて、あまりに素っ気ない返事だ。
1度会話に付き合ってしまうと沈黙が辛い。
『ここにいる魚たちが雲の様なら、鯉は空を突き進む飛行機かな。』
『飛行機は轟々とうるさいから嫌いよ。』
『そうかな。早くてかっこいいけどな。』
『鯉はゆっくりと進む魚だから、飛行機よりは飛行船ね。』
『飛行機の方がかっこいいのに。』
『そうね。』
今度は少し笑ってくれた。
風に揺れる草木や、せせらぎを流れる草舟を目で追いながら僕達は少しずつ言葉を重ね、気がつけば沢山話しをした。
なんでもない事だ。
朝決まって室外機の上で野良猫が暖をとっていること。
ブタメンの後ろから3つ目には必ず当たりが入っていること。
お祭りで取ったデメキンが、死なずに3年生きたこと。
変わりに、
古本屋には、誰も挟んだ覚えのない手紙が挟まっていることがあること。
午後のロードショーはたまに自分だけに語り掛けるセリフがあること。
メッセージボトルを流すと、必ず自分の子供が受け取る浜辺がどこかにあること。
気がつけば日が傾き、魚群はもっと煌びやかな光を受けながら、相変わらず形を変えている。
『その話、本当?』
『本当か嘘かなんて重要じゃないわ。今、この時にあると思えばあるし、ないと思えばない』
彼女は続ける。
『あなたが飛行機を好きな気持ちは、時間が経つにつれて変わっていくかもしれない。車の方が好きになるかもしれないし、乗り物自体がとてもつまらないものに感じるかもしれない。ずっと、飛行機を好きな可能性だってあるわ。』
『....』
『でも、どんな風に変化しても、飛行機を好きだって気持ちはちゃんと存在するの。あの魚がいずれ散り散りになったとしても、私たちがこうやって見てる小川には、魚の群れがいたんですもの。』
『なんだか難しいな』
『そうかしら。あなたの見ているものは必ず形を変えるの。今こうして広がる空だって、もう少ししたら夜になる。昼から夜にかけての狭間だってある。一瞬一瞬素晴らしい時間が広がっているって言うことよ。昼には昼の、夜には夜の、その狭間には狭間の時間があって、その中で懸命に生きれば、その瞬間がindigo hourになるわ。』
『ふぅん』
難しいことは分からないけど、このなんでもない時間もいつか忘れてしまうかもしれないど、この暑い草原で、知らない女の子と話したことをいつか思い出すことがあるかもしれない。と僕は思った。
『それとね。』
彼女は続ける。
『これからとても大事なことを言うわ。決して忘れないでね。』
彼女は少しだけ黙って、僕にいった。
『ライブ中に口臭気にするなよ。』
ミントの香りがする風が彼女の髪の毛を揺らした。
お願いだからライブ前にブレスケア噛んできてください。