酔いどれ雑記 130 暗い月曜日
もう10数年も昔の話ですが、わたくしはよく欧州を一人旅していました。ひとりでのウィーンはもう数度目、というときに隣国のスロヴァキアの首都、ブラティスラヴァにふと訪れることになりました。ウィーンからは列車で1時間くらいでしょうか。
こちらはウィーン南駅から乗る、ブラチスラヴァを通る列車です。最終目的地はどこだったか......。
こちらはウィーン南駅からブラティスラヴァ行きの乗車券(往復)です。
右下に移っているのはブラティスラヴァの路面電車の切符です。
ウィーンにそこそこ一人で長居していると、どうも隣国に行きたい衝動が生まれてきます。ウィーンは退屈ではないけれども、小旅行に行きたい気分になるのです。陸続きの欧州ならではですね、思いついたらすぐに移動できるのは。ああ、本当に何故わたくしは欧州に生まれなかったのか!!!
以下はブラティスラヴァの中心部ですが、一国の首都としてはかなり地味なのがお分かりでしょうか。2番目の写真などは町一番の広場なんですよ。かなりこじんまりとした地味なウィーン、けれど物価は3分の一みたいなところですね、ブラティスラヴァは。
ブラティスラヴァ、決してつまらないところではないのですが、やはりウィーンが恋しくなるんですな。夕方前にウィーン行きの列車に乗ります。向こうの普通列車にありがちなボックス席です(普通列車でもコンパートメント席は珍しくありませんが)。列車は満員とはいいがたいものの、わたくしが座った席にはほかに3人の乗客がいました。隣にはレバノン人の実業家の男性、向かいはリタイアしたと思われる日本人の夫妻。夫妻はそこそこ裕福そうに見えましたが旅行慣れしている感じではありませんでした。その女性が私に色々質問をしてきます。一人旅はつまらなくないか、怖くないかなどと言ったくだらない、けれどありふれた想定内の質問に加え、ウィーンの見どころはどこか、おすすめはないかなどと訊いてきました。「本当は美術館に行きたかったんだけど、今日は月曜だからどこもかしこもお休みだっていうじゃない?だからスロヴァキアにでも行ってみようかってことになってね。私たち明日の昼にはもう帰国なのよ、もうがっかりだわ」と。「ああ、それならレオポルト美術館なら今日は開いていますよ。まだ十分、間に合う時間ですよ。中心部からもそう離れてないですし......」とわたくしが答えると「え!?そうなの?じゃぁホテルへ行く前に行ってみましょうか?ねぇあなた?」と彼女は夫らしき男性に向かって言いました。すると男性はわたくしに「余計なことを教えて......」と一言だけつぶやきました。知らんよ、あたしゃ。奥さんは行きたがってる、一緒に行きたくないのならばあんたはホテルで休むなりすればいいのでは?と思いましたが黙っていました。そうこうするうちに列車はウィーンに到着。あの人たちはきっと、世界有数のエゴン・シーレの作品群も、クリムトの傑作も観ることなく帰国するんだろうなと思ってみたものの、どうでもいい、わたくしには関係ないやとケルントナー通りを歩いて、もうすっかり夜も更けた、市庁舎前のクリスマスマーケットでグリューワインを飲んでから行きつけのレストランでハンガリー風シチューを味わってからホテルへと帰りました。私は自由だ、私は自由だ!とドイツ語でつぶやきながら。