見出し画像

自伝のこぼれ話 31

自伝の本編、204話目を書き途中なのですが、ちょっと手こずってる(あれは一応、文学のつもりなので結構頭を使ってしまう)ので全く別の話でも気楽に書こうかと。

あれは私が18歳の頃。大学一年生。横浜のビブレ横で声を掛けられた。ナンパってやつね。当時のビブレ横ってのはなんかちょっとしたカオスだったな。今でいう「トー横」みたいなものかな、いや、ちょっと違うな。ビブレには広いHMVがあってさ、あそこら辺で一番大きいCD屋だったからか外国人、特に横須賀の米兵なんかもよくあの辺りにいた。

で、自称インド人のモンジュさんって人にナンパされたんだわ。モンジュさんはスーツを着て、ハットまで被ってるの。おおよそインド人らしくない格好じゃない?なんかめっちゃ興味が湧いて。コーヒーでも飲もうと連れていかれたは西口の白十字(喫茶店ね)。あの時、何を話したのか全く覚えてないんだけど、その日はそれで終わり。連絡先も交換しなかった。当時私は携帯は持ってなかった(ていうかクラスの子で持ってる子はいなかったと思う)。ポケベルは持ってたようなそうでなかったような?

で、数週間後だったかな、また同じ場所でばったり(?)会ったんだわ。モンジュさんに。男性の友達と一緒でね。モンジュさんは先日とは別のスーツと帽子だった。今度はムービル(映画館ね)に入ってる喫茶店に行った。

※お前、気楽に人について行くなよ!だから変な奴とトラブルになるんだ!って突っ込みや忠告はごもっともなんですが、とりあえずまぁ、それはおいといて下さい。当然ですが今はそんなことしてません、というかナンパなんかされないしされても困る。

そこでも何を話したのかいまいち覚えてないんだけども、ムービルで上映中の映画のポスター(タイトルを思い出せそうで思い出せなくて気持ち悪い!けど、ストリッパーの話だったと思うし、タイトルもそれに関係するようなものだったはず。エロ映画ではなく芸術作品なんだけども)を見て
「これ、アメリカでは上映禁止になったんだよね」とモンジュさんが言ってたのと、私が付けてたでっかい金のイヤリングを褒めてくれたから
「パロマ・ピカソ、ピカソの娘のブランドのだよ」って言ったのは覚えてる。
あのイヤリング、どこで手に入れたのかもよく覚えてない。あんなの買う余裕なかったし、そもそも好みでもなかったんだよね。多分だけど、自称ロシア人だけど多分イラン人の男に貰ったんだと思う。思う、って随分だけど、その人には色んなもの貰ったんだよ。香水とか時計とか。あ、その人の話も今度書こうかねぇ。

モンジュさんは日本語がかなり上手くて日本語と英語のちゃんぽんで会話してた。

あ、モンジュさんはお米のパッケージを作る工場で住み込みで働いてた(実際、仕事中に訪ねたことがあるからこれは本当)。不法滞在だったのかは分からないけど、お給料は30万くらいだって言ってたなぁ。そういえば中卒で字もろくに書けないうちの親父も半分肉体労働者的な仕事をしてたけどそのくらいの給料だったな。いや~、何の経験もなくとも学もなくとも普通に会社員になれてそのくらい稼げたあの時代、すごいな。

で、その後色々?あったんだけどもモンジュさんの存在を忘れかけてた頃、思わぬところでその名前を目にしたのだね。
モンジュさんに初めて声を掛けられてから2年後くらいだったかなぁ、あれは。横須賀に出入りしてた仲間2人と地元のバーガーキングでくっちゃべってたら仲間の一人が手帳を開いたの。そしたら「もんじゅ 〇月×日 △時 西口」って文字が飛び込んできて。

「え、ヨーコ、モンジュってもしかして!?あのインド人の?」
「えええ~!知ってるの~~~ウソ~!」

なんでもヨーコも横浜西口でモンジュさんにナンパされたらしいのだ。私がモンジュさんと知り合った結構後だったけど。ちなみにヨーコは私より一回り以上年上。ああ、ヨーコの話も書きたい、っていうか既に書いたんだけども、まぁ、色々ありましてね、今は縁を切ってる。けどなぁ、私のタトゥーをデザインしてくれたのは彼女だし、なんかもうね……まぁこの話も今はいい。

ヨーコは基本、黒人としか関係を持たない人だったのでインド人のモンジュさんはそういう相手ではなかったんだけども、モンジュさんの教養の深さには惹かれたようで(私も同じだ)、友達になったのだという。で、今度冷蔵庫をもらう約束をしたってのがその手帳の書き込み。ああ、世間って狭い!

で、その後もよく覚えてないんだけど、モンジュさんはインド人ではなくてバングラデシュ人だったことを知った。多分、ヨーコから聞いたんだと思う(ていうか、情報はヨーコからしかありえない)。インド人って言ってるのにダッカ大学を出たと言ってたから???とは思ってたけど。まぁ、ダッカ大卒ってのも本当かどうか分からん。

ヨーコとは毎週会うくらいの仲だったんだけども私の生活が変わってクラブや米軍基地遊びは卒業しちゃったから1年にいっぺんくらいしか会わなくなってたな、私が22歳くらいの頃からは。

で、ですよ。
そんなわけで久しぶりにヨーコに会った時にさ…..真っ先にモンジュさんの話が出たんだわ。
「ねぇ、モンジュ、結婚したんだよ」
「マジで?」
「うん。しばらく連絡取ってなかったんだけどさ、この間西口でばったり会ったんだよ。民族衣装着てる女の人と一緒だったから『彼女?』って訊いたら奥さんだって」
「うわ~、マジか」
「でね。モンジュに後から聞いたんだけどさ。奥さんっていいところのお嬢様なんだって。K大卒だし、子供の頃から社交ダンスを習ってるような人だからそれだけでもう、お嬢様ってやつだよね。ナンパで知り合って、親には超反対されたんだけど家に行って『結婚させてくれなければ僕は死ぬ』って言ったら親が折れたらしいよ」

ええ~!なんじゃそれ。なんていうか、モンジュさんがそういう人を選んだのが謎だった。奥さんがモンジュさんを選んだのはもっと謎だ。
「奥さん、どんな人だった?」
興味本位で訊いた。
「なんか地味で、オーラが全くない人だったよ。モンジュは永住権と奥さんの実家のお金目当てじゃないのって思っちゃったよ。正直、がっかりしちゃった」
「そうかぁ」

ちょっと複雑だな、そんな話を聞かされたら。モンジュさんは私にもそんなことを言ってたから。
「僕は本気だよ。僕がどれだけ本気か頭を割って見せれたらいいのに」ってさ。
私はモンジュさんのことは友達としてすごく好きだった。頭が良くて話が面白くて。けど付き合いたいとか思ったことはなかったし、本人にもそうはっきり言った。

ああ、もう、こういうの、いいや。もう嫌だ。そう思っていると追い打ちを掛けるようにヨーコが言った。
「ミホのことも話したんだよ。ミホって子、知ってる?って。そしたら『奥さんのことを好きになる前に好きだった子だ』って」

もう、勘弁してよ。
「でね、モンジュが会いたがってるの。3人で会わない?って」
「ええっ!会いたくないよ」
「そんなこと言わないでよ。もう約束しちゃったから」

で、結局会ったのね。西口の高島屋の前で待ち合わせして。私は仕事帰りで。いつもスーツとハット姿だったモンジュさんは偽アメリカ人みたいなカジュアルな服を着ていた。そして何故かモンジュさんの車で高島町辺りまで行ってファミレスで食事をした。

どうしてこんなことを訊いたのか覚えてないんだけども、なんでバングラデシュ人なのにインド人だって言ってたの?って訊いたら
「日本人はバングラデシュって国があることも知らないから」って。
それを聞いてやっぱり会わなきゃ良かったと思った。
あとは何をしゃべったのか全然覚えていない。何を食べたのかも全く覚えてない。けれど食事を終えて車に乗り込む前に
「僕ね、もうすぐ会社を立ち上げるんだ。ダッカ・トーキョーって名前にするってもう決めてるの。絶対大きな会社にする」
と言ってたのははっきり覚えている。

横浜駅まで戻って来て、モンジュさんを見送るとヨーコと同時にため息をついた。
「モンジュ、変わっちゃったね」
「そうだねぇ…….」
「会社やるって言ってたけど、どうせ奥さんのお金じゃないの」
「だよね、多分」

その後、そんな名前の会社を聞くこともなかったけれど、興味もなかったから存在するかどうかも調べていない。

あれはいつのことだっただろう。3人で食事をしたのは。それすらも記憶にない。けれどポルトガル旅行より前のことだった。それだけははっきり覚えている。間違いない。

「僕の名前、モンジュって、月って意味なんだ」