自伝のこぼれ話 47
「こぼれ話 46」の続きです。
ノリがテレクラで知り合った男とああいうことになった話をトンちゃんとキクちゃんにし、その男に復讐したいから手伝ってくれと持ち掛けたら当然だがトンちゃんはノリに対してめちゃ怒った。勝手にそんなことした挙句、さらに巻き込もうとしてるんだからもう友達ではいられないってね。キクちゃんは事態が理解出来ずに終始「???」ってポカーンとしてたけど、どうしてもノリ対残りの3人という構図になってしまう。しかし、復讐っていったってなぁ。どうやって呼び出すんだ。そいつの居場所とか連絡先とか分かるのか。テレクラで出会った相手に本名や住んでいる場所なんて教えるわけないよ。事実、ノリも偽名を使って大学一年生ということにしてるって言ってたよね。ボコボコにするのを目的で呼び出してノコノコ男がやって来たとしてもさらに事態が悪化しないか?ボコボコにするどころか私たちみんな、下手したら殺されちゃうよ。
ノリはそれから少しして体調不良を理由に学校に来なくなり、クラスの子たちが「嶋田さん、どーしたの?」って訊いてきたけどとてもじゃないけど話せなくてごまかした。
そして担任の平井も「ねぇ、あんたたち、嶋田さんのことなんか知ってる?なんかあったの?」って訊いてきた。トンちゃんとキクちゃんは平井に相談しようって言ってたけど、どういう感じで切り出すかは考え中だった。私は平井に相談してもロクなことにならないんじゃない?って2人には言ったんだけどね。そもそも何を相談するの、って話だし。うーん、2人はノリのこの一件に巻き込まれたくないってことを相談したいんだろうけど……平井に話して何か進展があるのかなぁ。それにノリがテレクラをしてたことをチクるってのも私としては抵抗があった。問題を大きくすればノリがもっと傷つくことになるのは必至だし、私は2人とは違ってノリがテレクラをしていたことを事件前から知ってたから「あんたは何でテレクラのことを知ってたのに止めさせなかったの!友達でしょ!あんたが止めてたらこんなことは起こらなかったんじゃないの!?」って平井に責められるのが想像出来て嫌だった。私はやっぱりズルい奴なんだろうなぁ。
やはりこれ以上ごまかせないかなぁ。知りません、ってとぼけ続けてもこのままノリの欠席が続けばしつこく訊いてくるだろうし、登校して来ても壊れたこの関係が修復出来るとは思えないから、対立が続きノリが孤立することで結局は何らかの形でバレちゃうだろう。
平井に訊かれる度に「ちょっと分からないです」と返事をしていた我々3人だったが、ある日また訊かれたときトンちゃんが平井に
「嶋田さんのことで相談したいことがあるんですけど、上手く話せそうにないので手紙にします」と言った。
平井は「ああ、やっぱりね」と困った顔をして
「分かった。けど先生、忙しいから早いところ書いて渡してくれる?出来れば明日。遅くても明後日中に」と言った。
自分のことを「先生」と3人称で呼ぶ高校教師ってどうなんだとずっと思ってたけど…..まぁそれはいい。しかしこいつに話してもロクな方向に行かないという気持ちはさらに強くなった。けどそうせざるを得ないのか。撤回出来ないしね。
私はめちゃくちゃ平井に嫌われているし、3人で話し合った結果、私が代表して書くよりはトンちゃんが書いた方がいいということになった。私が書いたら日頃の平井への不信感やイラつきまで盛り込んじゃいそうだし💦
早速その日の放課後、3人で教室に集まった。
「嫌なこと思い出させてゴメン。キクちゃんは男に会ったじゃん?そいつ、どんな奴だった?何か話したの?」と訊くと
「うーんとね~、車にスライムのぬいぐるみがあった」
おいおい💦やっぱりキクちゃんはちょっとズレてるなぁ。あまりにショックでそれしか覚えてないってことはあるだろうけど、キクちゃんはまさか自分もホテルに連れて行かれたかもってこと、まるで分かってない様子だし。
「じゃぁさ、ノリはなんて言ってキクちゃんを呼び出したの?」
「友達とご飯食べに行くから一緒に行こうよって言われた」
「友達ってのは男の人だって言ってた?」
「うん。K大生の男の人って言ってた」
おいおい💦マジかよ💦キクちゃんは人を疑うってことを本当にしないんだなぁ。素直に信じてしまう。けど、キクちゃんが無事だったことはせめてもの救いだ。
トンちゃんに手紙を書くのを任せたけれども、どれを書いてどれを伏せておくべきかと必死に考えた。しかしマジで、平井に手紙なんて書いてどうするの……。嫌な予感しかしない。ああ、2人とも真面目だから先生と呼ばれる職業の人ならちゃんと相談に乗ってもらえて上手いこと解決に導いてくれる頼れる存在だって思ってるんだよね。私はそんな風には考えられない。純粋じゃない。
「ノリの彼氏のことも書いた方がいいと思う?」
「うーん……」
「いいか、書かないでも」
「うん」
トンちゃんがルーズリーフにシャーペンを走らせている。時々消しゴムで消す。キクちゃんは黙って見ているだけ。いっそ私が書いちゃった方がいいのかな。どうせ平井は私に集中砲火を浴びせるだろうしね。
「あ、もうこんな時間だ。今日はここで止めようか。続きは明日にする?」
「そうだね、帰ろうか」
2人は学校の下のバス停からバスに乗る。私は徒歩30分かけて家に帰る。
翌朝、トンちゃんが「家で少し書いたよ」とルーズリーフを見せてきた。うん……せっかく一生懸命書いてくれたのに申し訳ないし、内容も大体これでいいと思ったけれど、平井はどんな内容でも色々とツッコミを入れてきて私たちを責めるんだろうなと思った。あいつは体面ってのを何よりも大事にしてるし、登校拒否の生徒がクラスにいることは奴にとって非常にまずいことで、ましてやテレクラなんていう「あるまじきこと」をしてる生徒なんていちゃならないわけだから。「私の責任じゃない」って主張してノリのテレクラ遊びを知ってて止めなかった私のせいにするんだろうな。問題のある生徒を指導するんじゃなくてさ。
「これでいいかな?」
「うん、いいよ。ありがと」
「じゃ、平井に渡すね」
「うん」
キクちゃんは「いいよ」とも「ダメだよ」とも言わずまた黙ってる。
放課後、平井に手紙を渡した。平井は
「後で読むわね。明日以降話しましょう。あ、嶋田さんのお家に電話してくれる?」と言った。
え、電話?なんて言えばいいの。
「今は電話しない方がいいと思うのですが……」
私がそう言うとトンちゃんも
「私もそう思います」と言った。そしたら平井はいつものヒステリックな調子で
「あなたたち、友達でしょう?学校に来てって言えばいいじゃないの!そんなことも分からないの?」と声を荒げた。
ああ、やっぱり平井に相談するなんてことしない方がよかった。けどそう思ってるのは私だけなのかなぁ。
「電話しておいてよ!」
そう言って平井は去っていった。
「ねぇ、電話、する?」
「うーん」
「しない方がよくない?」
「そうだよね」
キクちゃんはまた何も言わずに黙ってる。
「お~い!キクちゃんはどう思ってるんだ~い!」
トンちゃんが言うと
「スガちゃんに手紙書く」って。
スガちゃんってのはキクちゃんの中学時代の友達で、市内の女子高に通ってるらしい。その高校には平井の旦那が勤めてるという偶然(?)。ああ、もうやけくそだ。どうにでもなれってやつだ。
「じゃぁ、私も一緒にスガちゃんに手紙書くよ」
「そうしようっか」
「でも、なんて書くの?」
「うーん」
「手紙書くのは保留するかぁ。明日平井に何を言われるか分からないしねぇ」
「そうだねぇ」
その日はそれで終わった。そして翌日……
「手紙、読んだわ。明日の放課後に嶋田さんが来てくれるからみんなで話し合いましょう」
え……マジか。でも、双方の言い分を聞くって点ではいいのか。ああ、でもどうせ平井はノリの肩を持つんだろうな。事なかれ主義だし私みたいに生意気で主張の強い生徒は嫌いだから。私は偏差値39のこの学校だけれど入学以来トップの座を他の誰もをかなり引き離して譲っていないし、まともな先生たちからの信頼も厚い。それは私が成績優秀だからってことだけじゃない。だからこそ都合が悪いんだろうね、平井にとってはーーああ、そうだ!何で私は思いつかなかったのか。「まともな」先生たちに相談するってことをさ。まともな先生ーー私が敬愛している英語の元木先生(私と同じ学年の別クラスの担任でもある)、まだ若いのに国語科主任に任命されたことを疎まれている久保先生(これまた、同じ学年の別クラスの担任)……他にも何人かいるけどもみんな私と真剣にぶつかってくれる先生だ。平井みたいにヒステリーを起こさず、対等の目線で小生意気な私みたいな生徒でも「人対人」という扱いをしてくれる先生!ああ、でももう遅い。明日でしょ、急すぎる。相談する余裕なんてない。明日は土曜日、半ドンだ。ああ、なんと言い訳しよう。たとえ学校の用事で帰りが少しでも遅くなれば執拗に無茶苦茶なことを言って罵倒する母に。ああ、もう知らない。面倒くさい……。
次回に続く……