【連載】大阿久佳乃が翻訳するアメリカ現代詩 #1 (フランク・オハラ『ランチ・ポエムズ』)
2023年にアメリカ文学エッセイ集『じたばたするもの』(サウダージ・ブックス)を刊行した文筆家の大阿久佳乃さん。同書で取り上げた詩人たちの作品を、大阿久さんの翻訳でお届けします。
音楽
フランク・オハラ(1)
大阿久佳乃 訳
もし僕が騎馬像(2)の近くでちょっと休み
メイフラワー・ショップでレバーソーセージのサンドウィッチのために足を止めたら
あの天使はバーグドルフ・デパート(3)の中へ騎馬を率いていってるように見える
僕はテーブルクロスと同じくらい裸で、神経がハミングする。
戦争の恐怖と消えた星々に近づいて。
手には 35 セントだけ(4)、食べるためにはまあ意味がない!
噴き出す水が葉っぱの盥の上に飛び散る
ガラス製のピアノのハンマーみたいに。もし僕の唇が
世界という葉の下でラベンダー色をしてるように見えるとしたら、
ベルトをきつくしなくちゃ。
どんどん差し迫ってくる行軍の掛け声みたいなもの、不安と明瞭の
季節
そして僕のドアは新聞の上に
軽く落ちる真冬の雪の夜に向かって開いている。
きみのハンカチで僕を涙みたいに包み込んで、早い午後の
トランペット! 霧っぽい秋の。
あいつらがパーク・アベニュー(5)にクリスマスツリーを立てるころ、
僕はブランケットにくるまった犬たちと歩きながら白昼夢を見るだろう
あの色とりどりのイルミネーション(6)が点く前に役立ててくれ!
しかしもう泉も雨もなく、
店はひどく遅くまで開いている。
(1953)
訳者コメント
35 セントは今の貨幣価値に換算するとだいたい 4.55 ドル。工夫すれば食べるためにはちょっとくらい意味があるんちゃうん……と思ってしまうけど、それは円安下日本人の感覚であって、マンハッタンの物価を考えればたしかに意味がないかもしれない。世知辛いね!
大阿久佳乃(おおあく・よしの)
2000年、三重県鈴鹿市生まれ。文筆家。2017年より詩に関するフリーペーパー『詩ぃちゃん』(不定期)を発行。著書に『のどがかわいた』(岬書店)『じたばたするもの』(サウダージ・ブックス)、月刊『パンの耳』1〜10号、『パイナップル・シューズ』1号など。