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河口へ
テメーのアホづらを拝めるのは久しぶりですね
高校ぶりだとしたら5年くらいか
昔から変わってないLINEの口調と返信の速さ、びっくりしたよ
あのころこれみよがしにたばこを吸ってみたり、酒をのんでみたり、ツイッターでプチ炎上したり、それすらろくに消火できなかったお前が消防士とはな 日本も終わりだ
友達追加したときは犬のアイコンだったのに、今日急にバイクのアイコンに変えてたな いいと思う そういうの
そして次の日
地元で酒を飲むのはかなり久しぶりだ。
ニコニコホビーの無愛想な店主もついに死んだっていうのにシャッター街の仲間がまた増えたこと以外は何一つ変わっていなかった。
河口はすっかり丸くなっていた。
まるで欠陥住宅の床のようにニヒルぶって歪んでいた広角はいまや爽やかな笑顔を讃え、心なしか肌の色も良くなっていた。ガテン系の職場ゆえか酒は強いそうだがそこまで詳しくなく、いまはたばこも吸っていないようだった。
会合は昔の話でそれなりに盛り上がった。同級生の動向や先生の悪口、花を咲かせたと表現するにはあまりにも情けない話ばかりだがまあまあ楽しかった。しかしことあるごとに、やれ女を紹介しろだのなんだのいうのには呆れた。
二次会のカラオケでは彼のさらなる変化に戸惑いを通り越して笑いを抑えきれなかった。
尾崎豊しか、しかも超低音でボソボソ声でしか歌わなかった、そんなお前が、裏声で、声をかすませながら「女々しくて」を、「夜に駆ける」を熱唱しているのだ。
おれは彼が普段参加しているであろう消防団の飲み会を想像し、身震いした。彼は削れて丸くなった。川の中の石のように。社会というのはかくも残酷なものである。
バイクを趣味にしている話や、マッチングアプリで妊娠したと言われ金を騙し取られた話が、デンモクの予約履歴に入った十七歳の地図や15の夜の歌詞と微妙に重なって、いたたまれなかった。
グッドバイあの日の河口よ、尾崎豊に憧れた日々よ。Twitterでインキャ集団きもすぎと言われた日々よ。どうか健やかに