医薬品等行政評価・監視委員会での重要な提言

前回の記事から,様々な情報に打ちひしがれて記事を書くことを放棄していましたが,陽気が良くなってきたおかげで,もう少し頑張ってみようと思いなおして記事を再開しました。

令和4年3月18日に「第7回 医薬品等行政評価・監視委員会」が開催され,その議事録が4月11日に公開されました。
これまでも以下の記事で取り上げた佐藤嗣道委員(東京理科大学薬学部准教授)は,今回もとても鋭い突っ込みをされていますので,紹介させていただきます。

議題1は,米国FDA等の海外調査について,議題2は定期報告と言うことで,細かく見ると突っ込みどころは多々有るのですが今回は飛ばします。

注目する議題は「新型コロナ治療薬のモルヌピラビルについて」です。
厚労省の提示した資料は以下です。

「モルヌピラビル(ラゲブリオカプセル200mg )の安全性について」

この議題は佐藤氏から提案されたのもので,モルヌピラビルは「重要な潜在的リスク」として、骨髄抑制、催奇形性が取り上げられ話題になりました。
厚労省から,モルヌピラビルについて説明があるのですが,その一部を抜粋します。

「リスク最小化計画」でございますが、その内容としましては、市販直後調査による情報提供とか、先ほども申し上げたとおり、投与に際しての患者への説明と理解ということで、同意説明文書、もしくは患者ハンドブックなどを用意して御説明して、同意を得た上で投与することになります。
また、医療従事者向けの資材なども用意していて、こちらの方に妊娠している女性、もしくは妊娠している可能性のある女性に投与する場合の注意事項などを記載しているところでございます。

これに対し,佐藤氏は

モルヌピラビルについては、催奇形性が報告されておりまして、私としては、添付文書で妊娠している方、あるいは妊娠している可能性がある方を禁忌とするだけで、本当に胎児への被害を防ぐことができるのかということに関しては、大変心配しております。

 例えば、胎児への影響に関して、文書で説明して、文書で同意を得ることになっていますが、それをやってくださいとなっているだけで、実際にそれを全ての医師がきちんとやったかどうかの確認を取るシステムに全くなっていないわけですね。
 サリドマイドの場合、あるいはその類薬であるレナリドミドなどの場合には、そこの確認をやっているわけですが、そういうことも全然やられていないので、現場任せで、医師がちゃんとやらなくても、そのまま放置されることが想定されます。

 医薬品のリスク管理の考え方は、医療従事者にそうやってくださいねとお願いすれば、性善説できちんとやってくれるということでは被害は防げないという過去の教訓があるからこそ、医薬品リスク管理計画の考え方が出てきたわけで、医療現場で説明すべきことがきちんと説明され、文書による説明が行われ、文書による同意が得られたかを確認する仕組みがないと、極めて危険だということです。その仕組みをつくるべきであると、意見として申し上げておきます。

 サリドマイドの場合は、それを使う医師は、全員が登録していないといけないのです。
 かつ、患者さんも、個人情報に配慮しつつも、いつ、どの患者さんにどれだけ使ったかということを全部登録した上で、患者さんにやるべきことを説明し、同意を得たかという記録を全部残して、それを後で確認できるようにしておくという仕組みがつくられているわけです。
 そういう仕組みをつくらないまま、野放しにこの薬を使わせていいのかということを言っているので、全然お答えになっていないと思うのです。
 ちゃんとやっているか、後で何らか調査すればいいとか、そんな生易しいもので胎児への被害が防げると思っているとしたら、サリドマイド事件の教訓を何だと思っているのかということになると思うのですが、いかがでしょうか。

と発言されています。
危険性のあるものは,医者の善意に任せていてはだめで,説明され同意が得られたことを記録し報告する仕組みが無ければ防ぐことはできない」という,メーカーの品質やリスク管理では普通に実行されていることが医療の世界で行われていないことにびっくりですが,それを「仕組みを作ってちゃんとやれよ」と言ってくれているわけです。

厚労省は,のらりくらりと指摘をかわし,言い訳ばかりでまともな回答をせず,結局「引き続き検討したいと思います」で幕引き。
いつものパターンです。

次の議題は,「新型コロナワクチンの小児への接種について」です。
厚労省は資料として「特例承認に係る報告書」を示して説明しています。

これに対し,佐藤委員は,参考資料として

「新型コロナワクチン接種後死亡者の年齢別内訳」

を示したうえで,

オミクロン株に対する有効性は十分なデータがないし、オミクロン株は今、収束に向かっていますので、その次の波が来るとしても、それに対する有効性のデータが全くない中で、20歳未満の方は、今、トータルで8人亡くなっていますが、そもそも新型コロナウイルス感染症による死亡のリスクはほぼゼロに等しいのです。
 実はワクチン接種後の死亡は、10代で既に6人報告されているわけです。これを5~11歳まで拡大したときに、どういうことが起こるか、非常に心配です。
 20歳未満の方に対しては、COVID-19による死亡のリスクがほとんどない中で、接種後の死亡が数例でも起きるのならば、私はそれだけで薬害と言っていいレベルではないかと思うわけです。
 要するに、有効性に関するエビデンスが十分にない中で、20歳未満の方にワクチンの接種を勧奨することは、一方的にリスクを負わせることにならないか。死亡という一番重篤な結果についてのことですが、そういうことすら懸念するわけです。
 この委員会は、薬害を防止することが目的なので、私自身もそうですが、かなり安全側に立った観点で考えていかないと想定される最悪の事態を考慮した上で、どういう対策が必要かということを考えていかないと、薬害は未然には防げないわけです。
 結果的にそこまで心配する必要がなかったということならいいわけですが、全部結果が分かってから、やはりこれは薬害でしたねでは、この委員会の役割が果たせないわけで、私自身はそのことを非常に懸念していることを意見として申しておきます。

と発言されています。

これに対し,厚労省は資料を使って
5~11歳の小児で特別な安全性上の懸念はなく、既に承認されているものと同様と評価されています
と言うだけで,佐藤氏の発言対する答えにはなっていませんが,ここで委員長の磯部氏は

そろそろよろしいでしょうか。
 重要な御指摘をいただいたと思いました。
 ただ、特例承認のことなのですが、本来の使い方なのかどうかとか、いろいろと悩ましい問題がもっとあると私も思っております。
 今、資料3-1から資料3-2、そして資料4に戻って、いろいろとお話がありましたが、担当の方には、各委員から様々な懸念が示されたことはぜひ頭に入れておいていただいて、しかるべき施策に必要なことは迅速に対応するといったことを御検討いただければと思います。

と早々に議論を終了させています。
厚労省も問題過多ですが,安全性を議論する委員会の座長がこれでは,まともな議論が成り立ちません。

さらに,次の議題は「新型コロナワクチンの心筋炎関連事象の安全性評価について」で,厚労省の説明資料は以下です

新型コロナワクチン 心筋炎関連事象の安全性評価について

厚労省の説明に対し,以下の記事で私が問題視したことを指摘してくれています。

注意喚起をするようになったことは大変いいことだと私は思っているのですが、もう少しきちんとそのことを強調する必要があるのかなという観点で御意見を申し上げます。
 先ほどの説明資料3-3の42ページに、国内でのCOVID-19による入院患者における心筋炎の発生割合、あるいはこれは米国だと思われるのですが、海外でのCOVID-19感染症患者ですから、恐らく発症している症状がある方の中での心筋炎の発生割合ということだと思うのですが、それと比較しているのですが、まず、この比較の表自体が非常にナンセンスというか、ミスリーディングです。
 要するに、比較しなければいけないのは、834とか450という数字が出ているのは、日本の場合は、COVID-19を発症して入院した中での心筋炎の発生割合ですので、リスクを考える場合には、そもそもCOVID-19を発症して入院するリスクを掛けて比較しないと、意味をなさない比較であるということなのです。この図が独り歩きして、マスコミなどでも使われていて、非常にミスリーディングです。ですので、この資料に関しては削除するなり、こういう比較は適切でないとお認めいただけないかというのが一つです。
 むしろ先ほど出していただいた一般における心筋炎の発生率と接種後の発生割合を比較するほうが非常にリーズナブルな比較であるということです。
 とにかく、この図を使うのは明らかに誤っていると思いますが、いかがでしょうか。

さらに,以下の資料を示し


新型コロナウイルスに対するワクチン接種後の予期せぬ死亡事例への対処について(2021年6月28日付け 日本法医病理学会ホームページ掲載)

日本法医病理学会という学会がホームページ上に出している声明なのですが、接種後の死亡事例の因果関係の評価において、解剖することである程度解明できるという声明をされていて、積極的な解剖の実施が求められることがあって、御紹介させていただきます。
 学会の理事長の先生に直接お伺いしたのですが、心筋炎の事例についても、亡くなった場合に、そのための検査をすれば、心筋炎が原因であるかどうかについてはある程度分かるだろうということです。
 それから、虚血性心疾患による死亡に関しても、血栓があったかどうかも分かるということで、この委員会としては、接種後の死亡に関しては、接種者と非接種者の集団での比較をすべきとの意見を出させていただいたわけですが、一例一例の評価においては、解剖を積極的に行うことが必要であるという意見があることをこの場で御紹介させていただいて、心筋炎に関しても、恐らくそれが役に立つだろうということを御紹介させていただきます。

と,心筋炎に対する死亡解剖をすべきであると提言されています。
これに対する厚労省の回答はなく,座長が

ありがとうございます。
 さっきのリーフレットについて、何かありますか。よろしいですか。
 御指摘は承ったということで。
 ちなみに私は、予防接種・ワクチン分科会にいたものですから、むしろ臨時の予防接種を推進する側にいたので、ここで司会をやっていていいのかなと、悩みながらしています。
 ただ、リスク・ベネフィットを評価して、とにかく進めながらでも、全方位的にできることはやっていただきたいのです。
 安全確保のためにいろいろな情報を得て、評価して、止まるべきときには止まるものなのだろうと思うので、大変お忙しいことはよくよく承知しているのですが、先ほど佐藤さんが安全のために硬めに対応すると言いました。できることは、できるだけ最大限の安全を目指してやっていただくことも大事だと思いますので、改めてそういう意見にも耳を傾けながら、予防接種行政を続けていただけたらと思います

と締めくくって委員会終了です。

なんかモヤモヤっとするのは私だけでしょうか。
佐藤氏は,とても重要な指摘をいくつもされているにもかかわらず,具体的回答は得られず,座長も,「取りあえず提言は聞きました」「厄介な話は早々に終わりましょう」という感じがありありです。

この議事録は,厚労省が公式な委員会でこれらの指摘を受けているという明確な証拠であり,後で問題が発覚した際に,「事前にこういう指摘があったのに無視した結果,問題が発生したのではないか」ということをちゃんと指摘し,知らなかったとは言わせないためにも今回記事として取り上げました。
何しろ厚労省は逃げるのと無かったことにする才能だけは天下一品ですから。

なお,委員会資料は以下から

議事録の全文をは以下

をご参照ください。
詳細に読むと,厚労省の対応や座長のいい加減さにかなりイラッとしますが,彼らの本質を理解することができます。

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