冬の夜の夢
その日、僕は深夜の高速道路を走っていた。
少し疲れたので、途中のサービスエリアに寄ってコーヒーでも飲むことにした。こじんまりとしたそのサービスエリアは、夜中ということもあってひっそりしていた。
カップベンダーコーナーの窓だけが不釣合いなくらい明るく手前の舗道を照らしていた。
僕はコーヒーを選び、後ろのポケットに突っ込んだままにしていたコインを引っ張り出して、ベンダーに入れようとした。
そのとき突然、あの夏の光景がよみがえってきた。
どうということのない光景。
僕たちはカップ ベンダーでアイスコーヒーを買って飲んだ。
それだけの記憶。
なのに、細部まで克明に脳内によみがえってくる。
振り返れば本当にそこに君がいるんじゃないか。そんな気配がするくらいに。
回りの風景が急に現実味を失って、自分がどこからも切り離されている気がした。
あれからずっとここにいる。どこにも行けない。
僕はコインを握りしめたまま、ひと気の消えた冬のサービスエリアのコーヒーベンダーの前で立ちすくんでいた。
(Photo : #Contax #T3 , #CarlZeiss #Sonnar 2,8/35 T*, #Fujifilm #PN400N )