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『ウェン王子とトラ』

チェン・ジャンホン 作
平岡 敦 訳
徳間書店

 表紙の写真が入り切りませんでしたが…。
 感動する絵本です。
 表紙のトラはお母さんトラです。子どもを人間の漁師に殺されて怒り狂って村を襲います。それを知った王様は軍隊を出そうとしますが、占い師が「ウェン王子を虎に預けなさい」とアドバイスします。「王子が危ない目に会うことはない」と言うのです。
 王様はウェン王子を森に置きました。

 この後、トラはウェン王子に出会います。そして、もしトラの子が生きていたら注いだであろう愛情をウェン王子に注いでいくのです。もちろん村をおそうこともありません。
 今や、ウェン王子とトラは親子です。
 
 しかし、王様はウェン王子を心配するあまり、何年後かに山に軍隊を出してしまいました。
 トラは殺されてしまうのか?
と悲しくなりますが、「さがれ!」と軍隊を止めトラを守ったのは他ならぬウェン王子でした。
 しかも王子には国王とその妃であるお父さんお母さんのことも分かっているわけで…。将来の王になるために城に戻ります。

「ぼくには二人のおかあさんがいる」
と言って、ウェン王子がトラと別れるシーンには涙がごぼれます。

 でもね。ウェン王子は、毎年トラに会いに行くのです。そして自分の子どもを「トラとして学ばねばならないことを教えてやってくれ」とトラに預けました。

 いやー。いい話ですよねー。
 この絵本はおススメです。
 
 普通より大判の絵本です。トラの絵が迫力もあり、素晴らしく、また、その表情から母トラの子への愛情と子を奪われた怒りと悲しみが伝わります。
 途中に、ウェン王子がトラの矢でいられた古傷に触ってしまい、トラがその怒りを思い出してしますシーンがあります。
 トラの心に受けた傷の深さが伝わってきます。でも、そんなに深い怒りと悲しみ、憎しみを忘れさせるのは、無くした子トラの代わりにウェン王子に愛情を注ぐことでした。

 憎しみや怒りが愛情へと昇華していく。
 ここが、この絵本の物語の主題であり、素晴らしさだと思います。

 

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