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私と「三ノ輪の三姉妹」
2024年夏の終わり。9月3日。
たかが23歳なのに、なんだかちょ〜〜と人生が上手くいかなくなりだして、実家強制送還、な言葉もちらつく私は、この物語に出会えてよかったと心から思う。
この物語を生み出してくれて、届けてくれて、ありがとう。
私にとって、人生で忘れられない、かけがえのない一作になったのだけは、確かなことです。
言葉の重さ、湿度、香りに嘘がない、フィクションだけど、まっすぐな、全部が丁寧に細やかに届く物語でした。
家族の、というよりは、ひとりひとりの、ひとりたちの、愛と、うまくいかない優しさと一筋縄じゃない人生のお話でした。
苑子さん。
すごく苑子さんの佇まいが、私の友人に似てて、言いたいことをぐっと飲み込んで、ちょっと眉毛を動かしながら笑う感じとかがそっくりで、すごく、そこで生きている、生活をしている人だった。フィクションじゃない、これまでとこれからの人生がある人だった。
すごく、ここ最近でいちばん、瑞々しく心に届く演技をされる役者さんだった…。
とにかく、母に伝える「あんまり、好きじゃない」の言い方が好きで。
きっと普段は言わない言葉で、一瞬途中で言い淀む感じが、すごく、苑子さんの人柄とこれまでがよく出ていた。
細やかな動き一つ一つが、言葉にならない感情が出ていたのも素敵。
この会社に残ったって、いつかきっと苑子さんだって大事にされなくなるよ、と思って見てた先の、苑子さんの、誰かのためじゃない、自分のための選択がすごく、この物語の救いにも見えて。
これは、苑子さんが、板挟みでぺしょんとなった苑子さんが、自分で自分の輪郭をほんの少し手繰り寄せる話にも最後には思えました。
葉月さん。
私は個人的に、役者さんが、役ではなく、その方本人としてお話している姿が全く想像できない役者さん、というのに惹かれるんですけど。
葉月さんは本当に、役ではない、中島さんご本人としてのお姿が全く見えてこなくて。
(褒め言葉、です…)
きっと丁寧に、ほんの少しご本人も重ね合わせて、無理なく、葉月さんとしての生活を背負っていらっしゃったなぁ…と胸を打たれました。
待っててくれる、そんな上司に出会えた葉月さんに、良かったね、の気持ちと、羨ましいよ…の気持ちです。 私もね。鈍臭てとろくて、何やってもミスるし遅いからさ、仕事、ほぼクビになっちゃったよ。 どこかに、私のこと、待っててくれる人、いるんだろうか。きっといるよね。
そしてコンビニでのひと幕。ほんとに、よかった。葉月さんが、父を失って、多くの経験をして、今の上司と出会って。全部に意味がある、なんて言ったら酷だけど、私なら言われたくないけど、全部全部、間違いなく繋がってるんだよね。
きっと多くの局面で、愛想のなさも指摘されてきたであろう葉月さんの、いつも通りな声だけど、優しさと、過去の自分へ手渡すような気持ちが詰まったあの言葉、素敵でした。
茜ちゃん。
ドライ、とされるその奥底にある、ドライなんて言葉じゃ言えない何かを丁寧にすくって、救いあげていて、その細やかさが素敵でした。
いつものスタイルも、おめかしスタイルも、どちらもとっても、等身大によく似合ってたよ。
3人がバスに乗るシーンの後ろ姿が大好きです。
なにか仕草がすごく似ているわけでもなく、情緒的な絆を感じる訳でもなく、それでも、何故か、ああ、この人たちは、なんか今の一瞬は、望んでなくても、歪でも、繋がっているんだな、という気がして。
家族の美しさが出ていて好き、というのでは無論なくて、その定められた逃れられない、けれど、それでも繋がっていることが、身体的に、演劇的に、でもまっすぐに伝わってきて好きでした。
お母さん。
キーパーソン。過去も今も、ずっと三姉妹を繋ぐ唯一で、でも、確かな説得力のある存在感で、ずっとずっと、亡くなっても舞台のどこかにいる気がしました。
タエ子ちゃん。
まぶし〜〜〜。絶対的な正しさと明るさで、でも、その正しさを振りかざすことなく、隣にいて、髪を切ってくれる。(営業も、する!)
生きてるだけで、髪って伸びるもんね。
私は、絶望して落ち込んでても、髪が伸びることにさらに落ち込み、そんな中髪を切れると、少し自分を許せる気がするのです。
役者さんの持つパッション!生命力!が、すごく眩しかった。良き隣人です。
お兄ちゃん。
あなたは良い人。良い人なんだろうな〜〜とひしひしと感じる。生まれてくる赤ちゃんをめぐる対話が大好きでした。 まっすぐすくすく、等身大の人。
小菅さん。
だいすき。今の苑子さんの近くに、付かず離れず、よくわからん、でもきっと優しい距離でいてくれたのが、小菅さんでよかった。
掴みどころのない、不思議な良い人。
私も、穏やかな海が見える町に住みたいな。小菅さん。
この人もまた、きっとここまでの人生で、ちょっと困ったことを抱えることもあったりしたのかな、と思わせる感じもよかった、まぁ人間誰しもそうではあるけどさ。
小菅さんと苑子さんが、後々「いい感じ」(←やな表現だ。)にならないのも好きでした。もしかすると、いつか苑子さん、「オープンしました☕️ いつか波と一緒に味わいに来てください」のポストカードとか送るのかな。
いいなぁ。私は個人的に、全ての関係が恋愛や、かけがえのない関係に繋がらなくても、等しく、というかわざわさ比較対象にあげることも無く、尊いと思っています。
ちゃばしらさん!
ほんっとに、不器用。生きるの下手っぴ。こんな大人でスマートなのに、愛せる方です。
わかる、私も茜ちゃんと同い年で、30歳の方って超絶大人に見えるの。今よりもっと、全部ができて、全部が大丈夫な大人に見えてしまうの。
でも、そうじゃなくても、自分の持っている言葉をかき集めて話す茶柱さんが素敵で、きっと私もこんな風になってるのかな、なってたいな、と夢を抱ききれない自分の30歳を思うのでした。
新入社員ちゃん……🥹🥹コンビニの店員さん……🥹🥹そして、看護師さん。
私、この構成が大好きでした。
この3人と、あと上司さんズを、同じ方が演じる構成が。
適材適所とか、人って出会う相手によって、人生って変わってくるな、とか、色々思った。
村上さん、すごくチャーミングで、人間らしくて、でもお芝居な魅力も携えてて、どの場面でもきらっとしてました。
あと、宮野さん!
どの場面でも、場の温度をちょっと上げて帰っていくの、最高に楽しいお方すぎる。さいこーにすきでした!
なにより、親方が素晴らしかったです。
葉月さんが、あなたに出会えてよかった。
同じ「上司」でも色々いて、誰に出会うかによって、全然人生って変わってくるよな……と希望のようにも感じる魅力的な配役。
父。
人って多面体だよね。
スーツケースを転がして、スーツで颯爽と歩く爽やかな姿も。家では見せない姿も。
でも、家で見せる姿が美しくかっこよく、ある種の正しさだったのは、多面体な人間の一部であっても、三姉妹にはそれなりの影響があったんだろうな、という説得力がありました。
───────
家族が、まぁ色々ありまして。家族の物語がどうしても上手く受け取れない私ですが、この物語に出会えてよかった。
この物語を作ってくれてありがとう。
はじめて、大事にしたいと思える家族をめぐる物語に出会えました。
この夏、他にも家族をめぐる物語の舞台に触れて、それがどうに本当に肌に合わなくて。もうこれはだめだ、家族の物語なんてやっぱ無理だと思いました。
「私はこうやって生涯、家族の物語と和解できないまま老いていくんだろうか」なんて呟いた先月の半ば。こんなに早く、こんな物語と出会えるなら、人生捨てたものじゃないね。
約束はできないけど、人それぞれの形があるから、ほんとに約束はできないけど。
家族の物語を、自身から遠ざけて生きているあなたにも、もしかしたら少し、寄り添ってくれる物語、かもしれない。
私は、家族にまつわる物語も、自分の家族も、大嫌いです。
大人になって、家を出て、距離が離れた今も、積み重ねた今までは変わりませんので、別に何かが変わるわけではありません。
私はふたり姉妹の長女です。
7つ年下の妹がいます。
小学校1年生の時に生まれて、姉妹の仲も良くないですが、それ以上に家族関係が終わっていらっしゃいます。
この夏、色々あって(実家強制送還説が出たとか)、久しぶりに帰ったら妹は今、一定レベル以上の難関大学に合格したら、家を出ていいと言われているらしく、嬉々として机にかじりついていました。君が入学時から、大学受験勉強をしていたらしい理由はそこにあったのね。
私たち姉妹は、両親の介護や葬式の話をしたこともあります。7つ離れてる上に、両親はピンピン存命です。でも、どちらも、嫌すぎて、とりあえず先送りな課題としました。
親子で姉妹で、でも他人で。
私もそう思います。
この先1年会わなくてもいい。
きっとそうなる。
でも、それはそのままで、めちゃくちゃ仲良くなったりせず、そのまま、物語が終わり、きっと彼女たちの日々も、それぞれで続いていくのが、良かったです。
この物語が、ゆるふわとは思わなかった。
できる限り誠実に切実に、世界にやさしくあろうとしている人達が、真剣に届けてくれてた、温度も湿度もしっかりと、生きた血の巡る物語だった。
照明さんの、部屋の色味もなんだかよく知るような気のする色味でよかったなぁ。
あと全然関係ないけど、今公開中で、先日観てちょいと苦しくなった映画「ラストマイル」も洗濯機の話(洗濯機の話…?)だったので、なんか不思議な重なり合いを見せていたな…
お洗濯ってさ、服着たら絶対続けなきゃいけないよね。じゃぶじゃぶ。からから。この先の日々もずっと。特に深い意味はありません。
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うちの家は、育ちのいいおうち(?)(笑)だったので、毎年夏には、ご家族総出(笑)でご贔屓の店の鰻を食べにいくのだけど。
食品としての鰻自体は大好きで、でも仲良し模範家族✨(笑)する時間が毎年苦痛だったんだけど。
ちょうど、劇場からの帰り道に、そんな因縁の鰻屋さんとそっくりの香りがふんわり漂って、あぁ、家を出て2年目、今年は鰻を食べてないな、とふと思い、それでも穏やかな気持ちになった夜だった。妹は、今年の夏、家族に連れられ、墓参りに行き、鰻を食べたんだろうか。
そしてそれは鰻屋さんじゃなくて、焼き鳥の居酒屋さんだった。茜ちゃんにも、こんな風に、家族をぼんやり思う夜がほんの時たまあるんだろうか。そういえば、私は茜ちゃんと同い年だな。茶柱さんも、来てるのかな。
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せっかくだから自分用に書いておこう。
私の仕事のできなさ、とろさが原因で、ほぼ退職(?)をして、9月から職場が変わりまして。
今まで通勤通学で使ったことのない、時間通りにも来ないバスに乗り、2日目の出勤をしていたら、目の前のポスターで、宮野さんがよい笑顔をされてまして…!
宮野さんの属するかるがも団地がこの時期、三鷹あたりで、上演することは知ってたけど、職変わったばかりだし、三鷹なんて家から遠いし。
でも、よく見たら…新しい職場から、歩いて行けてしまう…!?定時で上がれれば、今日の夜でさえ行けちゃう…! といった経緯がありました。
朝起きた瞬間には想像もできない自分で、夜眠りにつける日が好きです。
こんな物語に出会えちゃって、ああ、人生ってなんて楽しいんだろう。
ありがとう、バス広告。ありがとう、宮野さん。ありがとう、かるがも団地。
受付でいつもの笑顔の宮野さんに会えて、すんごく嬉しかったです。
物語って、きっと出会うべきタイミングがあって、それがぴったり重なると、きっと自身に不思議と響き合うんだと思ったの。
あと、私は上演前に確認し損ねちゃったんだけど、トリガーアラートを事前に公開してくださっているのが、すごく良いなって。
人によっては、この程度!って思ったとしても、私は、すごく良いなと思いました。
あと、あのお見送り、素敵。船を見送るような出港🚢 人生って旅路はまだまだ続いていくものね。
素敵な物語を受け取って、私の人生の旅路も、まだまだ続いていくのだ。
うまくいかない仕事も、距離のある実家も、どれも抱えて、でも適度に手放して、自分の輪郭をゆっくりゆっくり探っていこう。
その先にある人や物語との出会いや、日々の出来事なんて、まだ何にもわかんないんだから。
座組の皆さま、この物語を丁寧に作って届けてくださって、本当にありがとうございました。
ありがとう、「三ノ輪の三姉妹」。
あなたはあなたの日々を、私も私の日々を、生きていこうね。